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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成12年門審第70号
件名

漁船明慶丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年8月30日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(原 清澄、米原健一、島 友二郎)

理事官
千手末年

受審人
A 職名:明慶丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
船尾船底に破口、浸水、のち沈没して全損

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年9月27日14時10分
 長崎県壱岐島東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船明慶丸
総トン数 4.3トン
全長 12.73メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 70

3 事実の経過
 明慶丸は、潜水用重りの引き揚げ油圧ローラーを右舷船首部に備えた、素潜り漁に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか甲板員1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.40メートル船尾1.05メートルの喫水をもって、平成11年9月27日09時30分長崎県郷ノ浦港を発し、同港東方沖合12海里ばかりのガブ瀬付近の漁場に向かった。
 ところで、A受審人が行う素潜り漁は、水深約10メートルの海域で漂泊し、甲板員が上げ下ろしの操作をする、前示油圧ローラーに巻き取られた合成繊維製索付き重さ約20キログラムの鉄製重りにつかまって海底まで潜り、1回の潜水時間を約1分とし、これを30分間ばかり続けたのち、いったん船に上がり5分ないし10分間休憩をとりながら作業を繰り返すもので、陸岸至近で漂泊する場合には、船首を陸岸に向け、潜水を終え浮上するたびに、陸岸までの距離を目測するなどして船位を確認し、陸岸に接近しているようであれば、甲板員にその旨を指示して、機関等を操作させ、離岸距離及び船首方位を保つようにしていた。
 A受審人は、10時30分ごろ漁場に至り、しばらくの間、操業を行ったのち、ガブ瀬北西方1,500メートルばかりの、水上岩の下イズミ付近に移動することとし、13時50分同漁場を発進し、下イズミ付近の潮流を確認した上、折からの南流を避け、14時00分名島灯台から094.5度(真方位、以下同じ)2.4海里の、下イズミ西端から南方10メートルばかりの地点に至り、船首を同岩に向く000度として漂泊し、操業を再開した。
 その後、A受審人は、明慶丸が漂泊地点付近に存在する微弱なわい潮に圧流され、次第に下イズミの岩場に向かって接近する状況となったが、潜水作業に気をとられ、浮上するたびに同岩までの距離を目測するなど、船位を十分に確認しなかったためこのことに気付かず、甲板員に機関等を操作させ、岩場から離れるよう指示しないまま潜水作業を続けた。
 14時09分A受審人は、潜水を終えて海面に浮上したとき、明慶丸が下イズミに著しく接近していることに気付き、潜水用重りの引き揚げ作業を行っていた甲板員に、陸岸から離れるよう指示したが、同甲板員が前示重りの引き揚げ作業に手間取り、思うように操船できなかったので、急いで船上に戻り、機関等を使用して沖出しに努めたが、及ばず、14時10分名島灯台から094度2.4海里において、明慶丸は、船首が090度を向いた状態で、下イズミ南岸の岩場に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、付近には微弱な北流があった。
 乗揚の結果、船尾船底に破口を生じて浸水し、僚船により引き降ろされて離礁したものの、のち沈没して全損となった。

(原因)
 本件乗揚は、長崎県壱岐島東方沖合の水上岩付近の漁場において、潮流の影響を受ける状況下、漂泊して素潜り漁を行う際、船位の確認が不十分で、水上岩に著しく接近したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、長崎県壱岐島東方沖合の水上岩付近の漁場において、漂泊して素潜り漁を行う場合、同岩付近に向岸流があることを知っていたのであるから、同岩へ著しく接近することがないよう、浮上するたびに同岩までの距離を目測するなど、船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、潜水作業に気をとられ、浮上するたびに同岩までの距離を目測するなど、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、次第に岩場に向けて圧流されていることに気付かず、素潜り漁を続けていて岩場への乗揚を招き、船尾船底に破口を生じさせて浸水させ、のち廃船させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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