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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成12年門審第111号
件名

貨物船第五山菱丸乗揚事件
二審請求者〔理事官 畑中美秀〕

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年8月21日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和、原 清澄、相田尚武)

理事官
畑中美秀

受審人
A 職名:第五山菱丸船長 海技免状:三級海技士(航海)

損害
船底部に擦過傷

原因
潮流に対する配慮不十分

主文

 本件乗揚は、潮流に対する配慮が不十分であったことによって発生し
たものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年3月3日07時50分
 関門港若松第5区

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第五山菱丸
総トン数 985トン
全長 72.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット

3 事実の経過
 第五山菱丸は、専ら溶融硫黄の運搬に従事する船尾船橋型の鋼製液体化学薬品ばら積船で、A受審人ほか7人が乗り組み、溶融硫黄1,000トンを積載し、船首3.70メートル船尾5.30メートルの喫水をもって、平成12年2月29日18時40分鹿島港を発し、関門港に向かい、時間調整のため、3月2日22時20分北九州市門司区部埼沖において錨泊した。
 翌3日06時40分A受審人は、部埼沖を抜錨し、操舵室前面中央部で操船の指揮を執り、甲板員を手動操舵に就けて適宜の針路とし、機関を毎分230回転の全速力前進にかけ、12.0ノットの対水速力(以下「速力」という。)で関門航路に向けて進行し、西流8ノットの早鞆瀬戸を西行して関門港若松第5区の焼結(しょうけつ)岸壁に向かった。
 A受審人は、大瀬戸を通過した後、07時17分大山ノ鼻灯台から190度(真方位、以下同じ。)330メートルの地点において、機関を毎分160回転の微速力前進とし、5.5ノットの速力に減じ、乗組員を入港配置に就け、関門航路第15号灯浮標から同第7号灯浮標にかけての各灯浮標を右舷側に約100メートル隔て、同航路の右側を続航した。
 07時35分半A受審人は、関門航路第7号灯浮標付近に達し、戸畑信号所から041度2,120メートルの地点において、針路を224度に定め、着岸に備えて機関を毎分120回転の極微速力前進とし、3.5ノットの速力に減じ、関門航路をほぼ直角に横切る態勢で、潮流を左方から受けて右方に圧流される状況のもと、戸畑航路に向けて進行した。
 ところで、第五山菱丸が着岸予定の焼結岸壁は、戸畑信号所の北西方約200メートルにある焼結船だまり内にあり、着岸に際しては、戸畑航路を南下し、同航路北側線(以下「北側線」という。)から航路外に出て同船だまりに向かうことになるが、同航路は、掘り下げ航路であるため、北側線の側方120ないし180メートルのところに5メートル等深線が北側線に沿うように延びて浅所が存在していた。
 A受審人は、第五山菱丸の船長として焼結岸壁に着岸するのは2回目であったものの、これまで関門航路を何回も航行した経験があったので、関門及び戸畑両航路の水路事情についてはよく知っていた。
 A受審人は、潮流に抗して右方に圧流されないよう、適宜当て舵を取りながら関門航路をほぼ直角に横切り、07時44分戸畑信号所から039度1,230メートルの地点において、関門航路第8号灯浮標を右舷正横100メートルに見て戸畑航路に入航し、針路を戸畑航路第4号灯浮標(以下「第4号灯浮標」という。)に向く214度に転じ、同灯浮標付近に達するまで戸畑航路の右側端付近を進行することにしたが、3.5ノットの低速力のまま当て舵をとらずに続航していたところ、第4号灯浮標を左舷船首方に見るようになって、潮流により右方に大きく圧流されていることを知り、同時46分同信号所から036度1,040メートルの地点に達したとき、圧流に抗するため左舵10度の当て舵をとって徐々に左に回頭を始めた。
 ところが、A受審人は、07時47分戸畑信号所から033度950メートルの地点に至り、左回頭中の船首が第4号灯浮標に向いたとき、同灯浮標に向く針路で進行すれば大丈夫と思い、舵を中央に戻して針路を同灯浮標に向く203度に転じただけで、同灯浮標を右舷船首に見るよう当て舵を大きくとるなど、潮流に対する配慮を十分に行わず、依然として右方に圧流されながら続航した。
 こうして、A受審人は、針路を203度に転じた後も当て舵をとらずに進行中、同灯浮標を再び左舷船首方に見るようになって危険を感じ、07時49分左舵15度をとって左回頭中、同時50分戸畑信号所から026度630メートルの地点において、原速力のまま戸畑航路側方の浅所に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力3の東風が吹き、潮候は上げ潮の末期に当たり、乗揚地点付近では約1.3ノットの北西流があった。
 第五山菱丸は、同日08時40分引船の支援を得て離洲し、09時30分自力航行して焼結岸壁に着岸した。
 乗揚の結果、船底部に擦過傷を生じたが、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、西流強潮時の関門港戸畑航路において、同航路の右側端を着岸に備えて減速して航行する際、潮流に対する配慮が不十分で、潮流により同航路側方に存在する浅所へ圧流されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、西流強潮時の関門港戸畑航路において、同航路の右側端を着岸に備えて減速して航行する場合、潮流を左方から受けて右方に大きく圧流されていることを知っていたのであるから、潮流に抗して同航路の右側端付近を進行することができるよう、当て舵を大きくとるなど、潮流に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、戸畑航路第4号灯浮標に向く針路で進行すれば大丈夫と思い、当て舵を大きくとるなど、潮流に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、同灯浮標に向首するよう当て舵をとっただけで、潮流に圧流されて戸畑航路の右側端付近を進行できずに同航路側方の浅所に乗り揚げ、第五山菱丸の船底部に擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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