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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成13年広審第7号
件名

教習艇海技丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年8月31日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(伊東由人、竹内伸二、中谷啓二)

理事官
道前洋志

受審人
A 職名:海技丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
推進器翼を曲損、舵を脱落、受講生2人が頭部打撲挫創

原因
水路調査不十分

主文

 本件乗揚は、水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年8月27日15時15分
 広島県尾道市南方海域

2 船舶の要目
船種船名 教習艇海技丸
総トン数 14.22トン
全長 12.28メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 136キロワット

3 事実の経過
 海技丸は、小型船舶操縦士免許取得のための実技講習用教習艇で、A受審人ほか1人が乗り組み、受講生4人を乗せ、船首0.27メートル船尾1.28メートルの喫水をもって、平成12年8月27日13時00分広島県尾道市向東町の桟橋を発し、13時30分ごろ同市加島南東方1,000メートル付近の教習海域に至り、操船実技及び人命救助の講習を行った。
 ところで、A受審人は、同講習を終えたのち、船位測定講習を行うため周囲に目標物の多い加島北西方海域に移動する予定で、いつもは同島東方を経て移動していたが、今回は講習時間割の関係で、それまでほとんど航走したことのない同島南西方を経由して北上することにしていた。また、同島の南西方350メートル付近には基本水準面上20センチメートルの2岩の干出岩により成るタカソワと呼ばれる険礁域(以下「険礁域」という。)があって、同島九頭竜山104メートル頂(以下「山頂」という。)から215度(真方位、以下同じ。)570メートルのところに同険礁域内南側の干出岩が、その北東方30メートルのところに北側の干出岩がそれぞれ存在していた。
 A受審人は、次の教習海域に向けて発進するにあたり、険礁域の干出岩はほとんど水面上に現れないことを知っていたものの、おおよその位置は知っていたので海図にあたるまでもないと思い、同険礁域に近づかないよう、備え付けの海図第114号にあたるなどして水路調査を十分に行うことなく、15時10分山頂から126度1,080メートルの地点で、針路を264度に定め、徐々に増速しながら手動により操舵して進行した。
 15時14分A受審人は、山頂から180度730メートルの地点で、北上することにして加島からの離岸距離を目安に針路を309度に転じたところ、険礁域に著しく接近する状況になったものの、このことに気付かず、機関を全速力前進にかけて14.0ノットの速力で続航した。
 こうして、A受審人は、折から潮流がほとんどなく西日の照り返しで海面も見えにくかったこともあって波の立ち方など海面の状態によって険礁域を見分けることができない状況下を進行中、15時15分山頂から215度570メートルの険礁域南側の干出岩に原針路、原速力で乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力1の南風が吹き、潮侯は低潮時で潮高は49センチメートルであった。
 乗揚の結果、推進器翼を曲損、舵の脱落などを生じたが、のち修理された。また、受講生2人が頭部打撲挫創などを負った。

(原因)
 本件乗揚は、広島県尾道市南方海域において、海技免許取得のための実技講習中、ほとんど海面上に現れることのない険礁域のある加島南西方を経由して次の教習海域に向かう際、水路調査不十分で、同険礁域に著しく接近する針路で進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、尾道市南方海域において、海技免許取得のための実技講習中、ほとんど海面上に現れることのない険礁域のある加島南西方を経由して次の教習海域に向かう場合、同険礁域に近づかないよう、備え付けの海図にあたり水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同険礁域の位置をおおよそ知っているので海図にあたるまでもないと思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、同険礁域に著しく接近する針路で進行して乗揚を招き、推進器翼及び舵の損傷を生じさせ、受講生2人に頭部打撲挫創など負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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