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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成12年長審第64号
件名

漁業取締船龍星丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年7月25日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(亀井龍雄、平田照彦、河本和夫)

理事官
弓田

受審人
A 職名:龍星丸船長 海技免状: 三級海技士(航海)

損害
音響測深機送受波器を損傷、プロペラに軽微な曲損

原因
錨地の選定不適切

主文

 本件乗揚は、錨地の選定が不適切であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年12月8日18時30分
 鹿児島県与論島南岸

2 船舶の要目
船種船名 漁業取締船龍星丸
総トン数 497トン
全長 57.56メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット

3 事実の経過
 龍星丸は、船首船橋型鋼製漁業取締船で、A受審人ほか12人が乗り組み、漁業指導監督官1人を乗せ、船首3.1メートル船尾5.6メートルの喫水をもって、平成11年12月8日11時00分沖縄県糸満漁港を発し、9日間の航海予定で沖縄諸島周辺海域の巡視に向かった。
 A受審人は、奄美地方に発表されていた波浪、乾燥注意報が、同日10時20分乾燥注意報に切り替えられたが、時化を予想し、避泊の必要があるかも知れないと発航時から想定していた。
 龍星丸は、A受審人によって船橋当直体制を0−4時直二等航海士及び甲板員、4−8時直一等航海士及び甲板員、8−12時直船長、甲板長及び甲板員の4時間3直体制と定められており、発航後通常の当直体制で、監督官から指示された巡視予定水域である、沖縄島の周囲に設置されている複数の浮魚礁のうち東岸付近にある浮魚礁に向かい、13時33分久高島南東方浮魚礁、14時28分久高島東方浮魚礁付近を次々と巡視した。
 15時00分A受審人は、伊計島灯台から124度(真方位、以下同じ。)14.4海里の地点で、風力5の北東風によって船体動揺が大きくなったので、今航海初めて乗船したうえ本日が航海初日である監督官の体調を斟酌し、且つ、翌日の巡視予定水域が沖縄島北方周辺水域であることを考慮して与論島南岸付近で錨泊することとした。
 与論島は、周囲を干出珊瑚礁で囲まれており、同島西部北側にある与論港茶花(ちゃばな)及び同南側にある与論港供利(ともり)については、地形、海底状況等の詳細が記載された縮尺5千分の1の港泊図があるが、その他の場所については縮尺20万分の1の海岸図しかなかった。
 A受審人は、錨地の選定に当たり、過去2回自身が日中投錨し、錨泊したことがある与論島南岸付近と決め、その当時の記録から北緯27度00.90分、東経128度25.70分、すなわち与論島赤埼灯台(以下、「赤埼灯台」という。)から257度1.7海里水深25メートルの地点を予定錨地とした。
 A受審人は、予定錨地付近は小縮尺の海図しかなく、地形、海底状況等の詳細が分からなかったが、以前支障無く錨泊できたことから、今回は夜間投錨となるものの無難に投錨できるものと思い、同錨地の西方2海里ほどの、地形、海底状況等の詳細が記載された大縮尺の海図がある与論港供利付近を選定しなかった。
 龍星丸はその後も巡航を続け、15時31分伊計島東方浮魚礁、16時21分瀬嵩埼東方浮魚礁付近を巡視した後、与論島南岸に向け航行した。
 18時00分A受審人は、昇橋し、予定錨地の緯度経度をGPSにウェイポイントとしてN27−00.90、E128−25.70と入力した後自ら操船の指揮を執り、甲板長を手動操舵に、機関長を機関操作に当たらせ、同時08分赤埼灯台から202度4.4海里の地点で、針路を000度に定め、機関を全速力前進にかけて14.5ノットの対地速力で進行した。
 A受審人は、定針してまもなく、一等航海士と投錨要員を船首に配置して進行し、18時19分予定錨地1海里手前の、赤埼灯台から231度2.2海里の地点に達したとき、機関を半速力に落とし、順次微速力、極微速力、そして停止とし、E128−25.70の経度線に沿うよう、GPS、レーダー、音響測深機の表示を監視しながら進行した。
 18時24分A受審人は、GPSの緯度表示がN27−00.85となり、錨地まで0.5ケーブルであることを知り、測深記録に注意を払いながら3ノットの前進惰力で進行し、同時25分錨地に到達したが、予定水深にならないので、針路000度のまま、サーチライトで前方を照らしながらなおも陸岸に向かって惰力で続航した。
 18時29分A受審人は、前方の陸岸との距離が130メートルとなったことをレーダーで確認するとともに、測深記録で急激に水深が浅くなっていくことを知り、危険を感じて沖に出そうと直ちに機関後進右舵一杯で右回頭したところ、18時30分赤埼灯台から263度1.6海里の地点において、ほぼ船首が東方を向いたとき、突然プロペラに衝撃を感じ、機関が停止したので、与論島南岸から張り出した浅礁に乗り揚げ、これを擦過したことを知った。
 当時、天候は曇で風力5の北東風が吹き、潮候はほぼ高潮時であった。
 乗揚の結果、音響測深機送受波器を損傷し、プロペラに軽微な曲損を生じた。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、荒天避泊する際、錨地の選定が不適切で、縮尺20万分の1の海岸図しかなく、海図上、地形、海底状況等の詳細が分からない与論島南岸に著しく接近したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、与論島付近において、荒天避泊のため錨泊する場合、地形、海底状況等の詳細が記載された大縮尺の海図がある錨地を選定すべき注意義務があった。しかるに、同人は、以前錨泊したことがあるので大丈夫と思い、大縮尺の海図がある与論港などの錨地を選定しなかった職務上の過失により、20万分の1の小縮尺の海図しかなく、地形、海底状況等の詳細が分からない与論島南岸に著しく接近して乗揚を招き、音響測深機送受波器を損傷させ、推進器翼を曲損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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