日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成12年門審第75号
件名

漁船第三十一朝吉丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年7月25日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(佐和 明、米原健一、島 友二郎)

理事官
千手末年

受審人
A 職名:第三十一朝吉丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第三十一朝吉丸甲板員 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
球状船首を圧壊、船尾船底部に破口等

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年5月23日22時00分
 長崎県対馬下島西岸

2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十一朝吉丸
総トン数 19トン
全長 25.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 190

3 事実の経過
 第三十一朝吉丸(以下「朝吉丸」という。)は、FRP製漁船で、A受審人及び息子のB受審人ほか7人が乗り組み、操業の目的で、平成12年5月23日03時00分長崎県下県郡美津島町の三浦湾漁港(犬吠地区)を発し、06時30分ごろ対馬南西方沖合の漁場に至り、以前から設置しておいた90基のしいら漬と称する浮き魚礁のうち10箇所で操業に従事し、重さ600グラムばかりのひらまさ約3,500匹を活魚の状態で漁獲し、船首0.7メートル船尾2.7メートルの喫水をもって、18時50分神埼灯台から251.5度(真方位、以下同じ。)35.7海里の地点を発進して帰途に就いた。
 ところで、A受審人は、しいら漬漁を行う場合、03時ごろ出港して06時過ぎに漁場に到着し、操業に従事したのち19時ごろ漁を打ち切って帰途に就き、途中浅茅湾奥に設置されている生け簀に漁獲物を水揚げし、22時ごろに帰港するという状態を荒天時以外続けていたうえ、漁場への往復の航海も単独の操船に当たっていたことから、睡眠不足の状態が続くので、時折、操船をB受審人に任せ、操舵室内後部に設けられている寝台で仮眠をとることにしていた。
 こうして、A受審人は、漁場発進後、浅茅湾湾口に向けて北東進し、ここ一週間ばかり連続して出漁していたので、19時00分少し前B受審人に操船を任せ、操舵室内後部の寝台に横になって休息をとった。
 当直を交替する際、A受審人は、B受審人が、三浦湾漁港を発航して漁場に着くまでの間に操舵室内後部の寝台で仮眠をとっていたものの、連日の操業により断続した睡眠しかとれずに疲労が蓄積しており、当日も12時間以上漁労作業に従事していることを知っていたが、同受審人が眠気を覚えたときには、いつものとおり仮眠中の自分を起こし、報告してくれるものと思い、眠気を催したときの報告について十分に指示しなかった。
 B受審人は、操舵室内でいすに腰を掛けて当直に当たり、前路で操業中の漁船等を避けながら航行を続け、20時49分郷埼灯台から230.5度16.3海里の地点に達したとき、GPSプロッターに入力してある郷埼灯台北側の転針点の方位が050度と表示されていたが、対馬西方海域では北方に圧流されることが多いので、少し南に向けておくこととし、針路を054度に定め、機関を全速力前進にかけて13.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
 やがて、B受審人は、連日の操業により疲労が蓄積していたことから眠気を催すようになったが、ドリンク剤を飲んだところ一時的に眠気が去ったので、引き続きこのまま頑張ることができるものと思い、A受審人に報告せず、いすに腰を掛けて当直を続けていたところ、21時33分ごろ郷埼灯台から226度7海里ばかりに差し掛かったところで居眠りに陥った。
 A受審人は、B受審人から報告を受けることができないまま、休息中の甲板員を呼んで2人で当直に当たらせるなど、居眠り運航の防止措置をとることができずに操舵室内後部の寝台で仮眠中、22時00分朝吉丸は、郷埼灯台から195度1.55海里の対馬下島西岸に、原針路、原速力で乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力1の南西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 乗揚の衝撃で目覚めたA受審人は、急ぎ操舵室前部に出て事後の措置に当たった。
 乗揚の結果、球状船首を圧壊し、船尾船底部に破口を生じたほか、推進器翼及び同軸を曲損して機関室に浸水したが、自力で離礁し、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、長崎県対馬南西方漁場から浅茅湾に向けて航行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、対馬下島西岸に向首したまま進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは、船長の船橋当直者に対する眠気を催した際の報告についての指示が十分でなかったことと、船橋当直者が、眠気を催した際に船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、長崎県対馬南西方漁場から浅茅湾に向けて航行中、連日の操業で疲労が蓄積した状態のB受審人に船橋当直を任せる場合、居眠り運航とならないよう、眠気を催した際には報告するよう十分に指示すべき注意義務があった。ところが、A受審人は、平素、B受審人が当直中に眠気を催した際にはその旨を報告してくれていたので、報告があるものと思い、眠気を催したときの報告について十分に指示しなかった職務上の過失により、B受審人が眠気を催した際にその報告を受けることができず、休息中の甲板員を呼んで2人で当直に当たらせるなど、居眠り運航の防止措置をとれずに乗揚を招き、船底部に破口などを生じさせ、機関室に浸水させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、単独で船橋当直に就き、長崎県対馬南西方漁場から浅茅湾に向けて航行中に眠気を催した場合、連日の操業により疲労が蓄積した状態であったから、居眠り運航とならないよう、操舵室内後部の寝台で仮眠中のA受審人を起こしてその旨を報告すべき注意義務があった。ところが、B受審人は、ドリンク剤を飲用して一時眠気が去ったことから、引き続きこのまま頑張ることができるものと思い、A受審人に報告しなかった職務上の過失により、居眠り運航の防止措置がとられないまま当直を続け、居眠りに陥って乗揚を招き、朝吉丸に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION