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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成11年門審第62号(第1)
平成11年門審第63号(第2)
件名

(第1) プレジャーボート海幸乗揚事件
(第2) プレジャーボート番長II乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年7月16日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和、佐和 明、米原健一)

理事官
今泉豊光

(第1)
 
受審人
A 職名:海幸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
(第2)
 
受審人
B 職名:番長II船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
(第1)船底部に破口、機関室などに浸水
(第2)船底部に破口、機関室などに浸水

原因
(第1)風圧流に対する配慮不十分
(第2)浅所の確認不十分

主文

(第1)
 本件乗揚は、風圧流に対する配慮が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
(第2)
 本件乗揚は、海幸の救助作業を行うに当たり、同船付近の浅所の確認が不十分であったことによって発生したものである。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
(第1)
 平成10年8月30日13時40分
 福岡湾能古島西岸
(第2)
 平成10年8月30日13時42分
 福岡湾能古島西岸

2 船舶の要目
(第1)
船種船名 プレジャーボート海幸
総トン数 12トン
全長 13.11メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 397キロワット

(第2)
船種船名 プレジャーボート番長II
全長 10.37メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 220キロワット

3 事実の経過
(第1)
 海幸は、2基2軸を備えたFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、家族2人及び知人2人を乗せ、釣り仲間であるプレジャーボート番長IIのB船長及び同フォトIIのC船長にそれぞれ知人3人ずつの分乗を依頼し、海水浴の目的で、船首尾とも0.80メートルの喫水をもって、平成10年8月30日09時00分博多港第1区箱崎船だまりを発し、他の2隻とともに福岡湾外に向かった。
 A受審人は、博多港中央航路を西行した後、志賀島西岸に沿って北上し、同島明神鼻西方の福岡湾口に達して、気象・海象の状況を確認したところ、北東ないし北北東風が強く、波も高かったので、湾内で波が静かな海岸を探すことにし、反転して福岡湾西部を南下した。
 A受審人は、福岡市西区大原海水浴場沖合が比較的波が静かであったので、同区碁石鼻西北西方約900メートルの同海水浴場沖合において錨泊し、他の2隻を呼び寄せようとして連絡したところ、フォトIIから能古島西岸は波が静かであるとの連絡を受け、揚錨して能古島に向かった。
 A受審人は、フォトII及び番長IIに続いて能古島西岸に到着し、魚群探知機で水深を確認して、10時30分残島灯台から220度(真方位、以下同じ。)1,150メートルの水深約7メートルの地点において、重さ約20キログラムのダンホース型アンカーを入れ、沖合が時化模様であったことから、直径8ミリメートルのステンレス製錨鎖をいつもより長めの約100メートル伸出して錨泊し、その後、自船の西方に番長IIが、続いて北西方にフォトIIが、それぞれ自船から約50メートル隔てて錨泊し、同乗者とともに各船の周辺や付近の浜辺で海水浴に興じた。
 ところで、前示錨泊地点付近の能古島西岸は、残島灯台から213度950メートルの地点に当たる邯鄲(かんたん)ノ鼻から南南東方約400メートルにかけて砂浜となっているものの、その沖合には、危険な干出岩や暗岩が多数存在していた。また、同錨泊地点付近の海域では、能古島によって東寄りの風浪は遮られるが、風向が北から西寄りに変化すると、向岸風となって風浪の影響を受けやすい状況となっていた。
 A受審人は、13時00分ごろになって風向が北西に変化し、風速が毎秒8ないし10メートルに達するようになり、波も高くなってきたことから、海水浴を切り上げて他の2隻とともに帰港することにし、同乗者を帰船させ、機関を起動した後、同時25分ごろ揚錨を始めた。
 A受審人は、遊泳中に付近の海底に岩場が存在していることを知ったので、船首部で揚錨機のフットスイッチを操作し、錨鎖の張り具合などを見て、錨鎖を岩に絡ませないよう時折揚錨機を停止するなどして慎重に揚錨を続けたが、向岸風が強吹する状況のもと、錨鎖の巻き揚げが進むにつれて把駐力が減少し、風浪により圧流されるおそれがあったものの、波浪による衝撃などを受けなければ、錨は効いているので圧流されることはないものと思い、機関を併用して揚錨するなど、風圧流に対する配慮を十分に行わなかった。
 A受審人は、錨鎖の巻き揚げが進み、錨鎖が残り少なくなって把駐力が減少したことにより、13時30分ごろ風浪により風下の南東方の海岸に向けて圧流が始まり、やがて海岸に近付くにつれて波高が高くなり、圧流速度が次第に速くなったが、錨鎖を岩に絡ませないように巻き揚げることに気を取られ、錨を引きずったまま圧流されていることに気付かずに揚錨を続けた。
 こうして、A受審人は、船首を北に向けて揚錨中、13時34分ごろ風下の海岸線までの距離が約200メートルとなり、錨鎖が残り約10メートルとなったころ、人員の確認と帰港することを伝えるために自船に風上側から接近していた番長IIが、自船の左舷船首部に前方から約45度の角度で接触し、そのまま自船の左舷と番長IIの左舷とが接舷状態となったので、揚錨を一時中止した。
 A受審人は、B船長と協力して両船を押して離そうとしたが、海幸の船首が北東方を、番長IIの船首が南東方をそれぞれ向いて北西風を正横方向から受けるようになったことから、風圧が強くて離すことができず、その間にも風下の海岸への圧流が続いたが、両船を離すことに気を取られ、依然として圧流されていることに気付かず、機関を使用して沖出しする措置をとらないまま、番長IIが機関を使用して離れるのを待った。
 13時35分A受審人は、海岸線までの距離が約100メートルとなったとき、番長IIが後進で下がって離れたので、左舷側の損傷状況を確認していたところ、同時35分少し過ぎ船尾部が岩場に接触する音を聞いて危険を感じ、急いでフライングブリッジに上がって揚錨機のスイッチを操作し、残りの錨鎖を巻き終えたものの、接触音が一段と大きくなったのを知った。
 13時36分A受審人は、沖出ししようとして機関を前進にかけたとき、右舷推進器翼が岩場に接触して右舷機が使用できなくなり、左舷機だけを前進にかけ、左舵をとって岩場から離れようとしたが、船首が大きく右に振れて海岸線に向かって前進するようになり、前後進を交互にかけて沖出しを試みたものの、弧を描くように前進と後進を繰り返すだけで沖出しができずにいるうち、海岸線から約50メートル沖合の危険な岩場に接近し、海幸は、13時40分残島灯台から203度1,230メートルの地点に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力5の北西風が吹き、潮候は上げ潮の末期に当たり、潮高は約138センチメートルで、乗揚地点付近では波高約1.5メートルの波浪があり、福岡地方には波浪注意報が発表されていた。
 A受審人は、無線で帰港中の番長IIに救助を要請したが、番長IIが救助のため接近中に付近の岩場に乗り揚げ、更に事故の発生を知って救助にかけつけたフォトIIも舵を損傷したため、海上保安庁に救助を要請した。
 乗揚の結果、海幸は、番長IIとともに付近の海岸に打ち寄せられ、船底部に破口を生じて機関室などに浸水し、のち修理され、乗船者は全員付近の海岸に上陸して救助を待ち、巡視艇により無事救助された。
(第2)
 番長IIは、FRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、釣り仲間であるプレジャーボート海幸のA船長からの依頼により、同船長の知人3人を乗せ、海水浴の目的で、船首0.30メートル船尾0.75メートルの喫水をもって、平成10年8月30日09時00分博多港第1区箱崎船だまりを発し、海幸及びA船長の知人3人を分乗させたプレジャーボートフォトIIとともに福岡湾外に向かった。
 B受審人は、機関の調整を行いながら海幸及びフォトIIの後方を追走し、博多港中央航路を経由して志賀島の南方に向けて西行していたところ、フォトIIのC船長から能古島西岸は波が静かであるとの連絡を受けて能古島に向かい、10時25分フォトIIに続いて同島西岸に到着し、最後に到着した海幸が錨泊するのを待って、残島灯台から222度(真方位、以下同じ。)1,200メートルの水深約8メートルの地点において、重さ約20キログラムの四爪錨を入れ、直径16ミリメートルの合成繊維製の錨索約60メートル伸出して海幸の西方約50メートルのところに錨泊し、間もなくフォトIIが自船の北方約50メートルのところに錨泊した。
 B受審人は、自らはかぜで体調が優れなかったので船内で待機し、同乗者を自船の周辺や付近の浜辺で海水浴に興じさせているうち、13時00分ごろになって風向が北西に変化し、風速が毎秒8ないし10メートルに達するようになり、波も高くなってきたことから、海水浴を切り上げて他の2隻とともに帰港することにし、同乗者を帰船させ、機関を起動した後、同時25分ごろ揚錨を始めた。
 B受審人は、北西風が強くて錨索が張るので、機関を時折前進にかけて錨索を弛ませながら揚錨を続け、13時33分ごろフォトIIに続いて揚錨を終え、フライングブリッジで操船に当たり、同乗者が往航時と入れ替わっていたので、人員の確認とA船長に帰港することを伝えるため、自船の南東方で船首を北方に向けて揚錨中の海幸に向かった。
 B受審人は、船首を南東方に向け、北西風を船尾方向から受けながら低速力で海幸に向首接近し、同船の左舷側約5メートル隔てて同船に平行な態勢とした上で行きあしを止めようとしたが、船尾方向から風圧を受けて行きあしが十分に制御できず、13時34分ごろ自船の船首部が、錨鎖が残り約10メートルとなって南東方に圧流されていた海幸の左舷船首部に前方から約45度の角度で接触し、そのまま自船の左舷と同船の左舷とが接舷状態となった。
 B受審人は、フライングブリッジから甲板上に降り、A船長と協力して両船を押して離そうとしたが、番長IIの船首が南東方を、海幸の船首が北東方をそれぞれ向いて北西風を正横方向から受けるようになり、風圧が強くて離すことができず、13時35分機関を後進にかけて海幸から離れ、海幸に異常のないことを確認した上で箱崎船だまりに向けて帰途に就いていたところ、同時40分安藤船長から「風で流されている。右舷機が動かないので引いてくれ。」との連絡を受け、残島灯台から224度1,700メートルの地点において反転し、海幸の救助に向かった。
 13時42分少し前B受審人は、海岸線から約50メートル沖合のところに船首を北東方に向けた海幸を認め、同船がそのまま海岸に打ち寄せられる危険が迫っていたので、同船付近の浅所の存在が十分に確認できなかったものの、付近に干出岩などが見当たらず、A船長から「ロープを投げてほしい。」との要請があった際も、付近に危険な岩場が存在していることについて知らされなかったこともあって、同船に接近しても大丈夫と思い、えい航用のロープを渡すため、船首を南方に向けて海幸に向首し、右舷後方から風浪を受けながら低速力で接近した。
 こうして、B受審人は、海幸付近の浅所の存在が十分に確認できないまま、海幸の左舷船首部に約10メートルまで接近し、船首部からえい航用のロープを投げさせたが、同船に届かず、再度同ロープを渡そうとして更に同船に接近したとき、舵が岩場に接触した衝撃を感じ、急いで同所から離れようとして機関を後進にかけたところ、番長IIは、13時42分残島灯台から203度1,230メートルの地点において、推進器翼などが岩場に接触して機関が停止し、そのまま岩場に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力5の北西風が吹き、潮候は上げ潮の末期に当たり、潮高は約138センチメートルで、乗揚地点付近では波高約1.5メートルの波浪があり、福岡地方には波浪注意報が発表されていた。
 B受審人は、事故の発生を知って救助にかけつけたフォトIIも舵を損傷したため、海上保安庁に救助を要請した。
 乗揚の結果、番長IIは、海幸とともに付近の海岸に打ち寄せられ、船底部に破口を生じて機関室などに浸水し、乗船者は全員付近の海岸に上陸して救助を待ち、巡視艇により無事救助された。

(原因)
(第1)
 本件乗揚は、福岡湾能古島西岸において、向岸風が強吹する状況下で揚錨する際、風圧流に対する配慮が不十分で、風浪により岩場に圧流されたことによって発生したものである。
(第2)
 本件乗揚は、福岡湾能古島西岸において、海幸の救助作業を行う際、同船付近の浅所の確認が不十分で、えい航用のロープを渡そうとして海幸に接近し、推進器翼などが岩場に接触したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
(第1)
 A受審人が、福岡湾能古島西岸において、向岸風が強吹する状況下で揚錨する場合、錨鎖の巻き揚げが進んで錨鎖が短くなると、把駐力が減少して風浪により圧流されるおそれがあるから、機関を併用して揚錨するなど、風圧流に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、錨鎖の巻き揚げが進んで錨鎖が短くなっても、波浪による衝撃などを受けなければ錨は効いているので、圧流されることはないものと思い、機関を併用して揚錨するなど、風圧流に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、錨鎖の巻き揚げが進むにつれて圧流が始まったものの、このことに気付かなかったばかりか、番長IIと接舷状態となった際にも、早期に機関を使用して沖出しするなどの措置をとらず、そのまま向岸風に圧流されて岩場に乗り揚げ、船底部に破口を生じて浸水させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
(第2)
 B受審人が、向岸風が強吹する状況下の福岡湾能古島西岸において、海幸の救助作業を行うに当たり、同船付近の浅所の確認が十分にできないまま、えい航用のロープを渡そうとして同船に接近したことは本件発生の原因となる。
 しかしながら、以上のB受審人の所為は、海幸から救助要請があった際、海幸が岩場に接触したこと及び同船付近に危険な岩場が存在することが知らされておらず、同船が海岸に打ち寄せられる危険が迫っていたことから、急いでえい航用のロープを渡そうとして、同船に接近したことによるものであった点に徴し、職務上の過失とするまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。 





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