(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年2月13日17時50分
大分県大島立花鼻西岸
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第七十一金比羅丸 |
総トン数 |
158.15トン |
登録長 |
34.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
第七十一金比羅丸(以下「金比羅丸」という。)は、K水産有限会社所有のまき網船団に所属する鋼製漁獲物運搬船で、A受審人ほか3人が乗り組み、船首2.3メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成12年2月13日17時00分大分県松浦漁港を発し、同県鶴御埼南東方沖合10海里付近の漁場へ向かった。
ところで、A受審人は、前日の12日が休日であったものの、それ以前の1週間にわたって連日夕刻出漁し、操業模様によって一定していなかったが、翌日の早暁から午前中遅くにかけて帰港して水揚げ作業を行う就業形態を繰り返し、その間、水揚げ後に自宅で約3時間の睡眠、漁場で約1時間の仮眠をとっていたけれども、1日4時間ばかりの睡眠では十分でなく、漁港と漁場間の航行に際しては同人が1人で操舵操船に当たっていたことなども重なり、疲労が蓄積した状態であった。そして、前日の休み中も、所用のため外出を余儀なくされたことから蓄積した疲労を回復するに足りる十分な睡眠をとることができず、加えて、当日の朝、風邪気味で微熱があり、薬を服用していた状態であったが、船団には五級海技士(航海)の免状を有した交替要員がいなかったことから、体調が万全でないまま睡眠が不足した状態で出港したものであった。
発航後、A受審人は、操舵室後方の、高さ約80センチメートルの畳敷きの台上に置いた座いすに座り、暖機運転を兼ねた半速力前進で八島と大崎鼻間のマノ瀬を経由して、17時17分竹ケ島灯台から196度(真方位、以下同じ。)0.9海里の地点に達したとき、元ノ間海峡方面へ向けて、針路を102度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進よりやや遅い500回転にかけて9.0ノットの対地速力で進行した。
17時22分A受審人は、元ノ間海峡まで約4海里の地点に差し掛かったころ、睡眠不足であったことや体調が万全でなかったことなどから眠気を催すようになり、そのまま1人で当直を続けていると居眠りに陥るおそれがあったが、居眠りしないように心掛けて気力で頑張れば大丈夫と思い、休息中の甲板員を起こして2人当直とするなどの居眠り運航の防止措置をとることなく続航し、いつしか居眠りに陥った。
こうして、A受審人は、居眠りに陥ったまま、予定の転針地点に達しても針路を転じることなく、同じ針路、速力で進行中、17時50分元ノ間灯標から004度580メートルの地点において、金比羅丸は、原針路、原速力のまま、元ノ間海峡の大島立花鼻西岸の岩礁に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力1の北風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
乗揚の結果、船首部船底外板に擦過傷、プロペラブレードに曲損、魚群探知器に損傷をそれぞれ生じたが、曳船の助けを借りて離礁し、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、大分県佐伯湾において、元ノ間海峡経由で漁場へ向けて航行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同海峡の大島立花鼻西岸の岩礁に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、大分県佐伯湾において、睡眠が不足して疲労が蓄積していたことに加え、風邪をひいて体調が万全でない状態で元ノ間海峡経由で漁場へ向けて航行中、眠気を催した場合、1人で操舵操船に当たっていると居眠りに陥るおそれがあったから、居眠り運航とならないよう、休息中の甲板員を起こして2人当直とするなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、居眠りしないように心掛けて気力で頑張れば大丈夫と思い、休息中の甲板員を起こして2人当直とするなどの居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、いつしか居眠りに陥り、元ノ間海峡の大島立花鼻に向かって進行し、同鼻西岸の岩礁への乗揚を招き、船首部船底外板に擦過傷、プロペラブレードに曲損、魚群探知器に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。