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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成13年門審第10号
件名

貨物船第六大栄丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年7月6日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(米原健一、原 清澄、島 友二郎)

理事官
畑中美秀

受審人
A 職名:第六大栄丸船長 海技免状:四級海技士(航海)(旧就業範囲)

損害
船首部船底外板に凹損、推進器翼に曲損

原因
風圧流に対する配慮不十分

主文

 本件乗揚は、入船係留状態から回頭して出港する際、風圧流に対する配慮が不十分で、干出岩に著しく接近したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年3月23日10時40分
 鹿児島県枕崎港

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第六大栄丸
総トン数 499.04トン
登録長 56.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,213キロワット

3 事実の経過
 第六大栄丸(以下「大栄丸」という。)は、宮崎県細島港を基地とする船尾船橋型の砂利採取運搬船で、A受審人ほか4人が乗り組み、砕石1,000トンを載せ、平成12年3月22日同港を発し、鹿児島県枕崎港に向かい、翌23日早朝同港港外で時間調整のため錨泊し、07時30分ころ拔錨して同港東防波堤北側の岸壁(以下「骨材岸壁」という。)に向け進行した。
 ところで、枕崎港は、港口を南に開き、南北方向約400メートル東西方向約800メートルの矩形型の港で、東部にはほぼ南北方向に築造された長さ290メートルの骨材岸壁と同岸壁北端から343度(真方位、以下同じ。)方向に延びる長さ150メートルの護岸が有り、同岸壁の西側に広い操船水域が存在したものの、北側には護岸の中央から西方へ60メートルの地点、護岸の北端及び南端の3点を頂点とする三角形状に干出岩が拡延し、同岩の南縁は護岸の南端から300度方向へ90メートルばかり延びていた。
 A受審人は、船長として大栄丸に乗り組んでしばしば枕崎港に入港し、骨材岸壁の北端から約25メートル南側の地点を船首または船尾として着岸していたので、同岸壁付近の状況を承知しており、入船右舷付け係留する際、平素着岸予定岸壁に接近したとき、左舷船首及び正船尾からそれぞれ重さ1,200キログラム及び400キログラムの錨を投じ、左舷錨鎖を6節、ワイヤ製船尾錨索を100メートルいずれも左舷後方に延出して各錨を効かした状態で着岸し、出港する際、北側の干出岩に接近することがないよう、錨鎖及び錨索を巻いて少しずつ左回頭しながら離岸し、着岸していた岸壁及び同岩から十分に離れたところで各錨を揚収して左回頭を終え、港口に向首していた。
 ところが、A受審人は、骨材岸壁に接近したとき、着岸予定岸壁のすぐ南側に係留中の台船が船首尾から錨鎖を岸壁と直角方向に延出していることを知ったので、同錨鎖を替わし、平素よりも着岸予定岸壁に近づいたところで左舷錨及び船尾錨を投じ、各錨を十分効かせないまま、錨鎖を3節、錨索を50メートルそれぞれ左舷後方に延出し、08時00分船首尾から係留索を各2本ずつ取って係留したのち、直ちに揚荷役を始めた。
 A受審人は、揚荷役を終了し、空倉のまま、船首1.50メートル船尾3.00メートルの喫水をもって細島港に戻ることとし、10時35分船首尾にそれぞれ乗組員を配置し、自らは操舵室右舷側の機関操縦装置の後方で遠隔操舵装置を手にして操船の指揮を執り、船首尾方向を確認しながら離岸作業を開始した。
 離岸作業を開始するとき、A受審人は、折から毎秒約9メートルの南南東風を右舷船尾方から受けていたうえ、延出していた錨鎖及び錨索が平素よりも短かく、各錨が十分効いていなかったので、いつものとおり錨鎖及び錨索を巻いて離岸すると、着岸していた岸壁至近で左回頭することとなり、南南東風を左舷方から受けて北側に圧流され、干出岩に著しく接近するおそれがあったが、この程度の風速であれば大丈夫と思い、船首スプリングラインを使用して船尾を先に岸壁から離したのち、機関及び錨を使用し西側の広い水域に移動して回頭するなど、風圧流に対する配慮を十分に行うことなく、10時36分全ての係留索を放し、錨鎖及び錨索を巻き始めた。
 10時37分A受審人は、着岸していた岸壁至近で船尾錨を揚収し、錨鎖が2節に縮まったとき、船体が同岸壁と30度ばかりの角度となって南南東風を左舷方から受けるようになり、船尾が同岸壁に接触しそうになったので、右舵一杯をとり、機関を約2秒間微速力前進にかけて船尾を同岸壁から離し、その後も、船尾が南南東風に落とされて同岸壁に接近するため、右舵一杯をとったまま、適宜、機関を極短時間微速力前進にかけ、錨鎖を巻いたところ、少しずつ左回頭しながら次第に北側の干出岩に向けて圧流される状況となった。
 A受審人は、10時39分船体が干出岩の南縁と平行になり、同岩に著しく接近したものの、どうすることもできないまま、10時40分枕崎港西防波堤灯台から038度480メートルの地点において、大栄丸は、錨を引きずり、船首が300度を向いた状態で、右舷船底部が干出岩に乗り揚げた。
 当時、天候は曇で風力5の南南東風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
 乗揚の結果、船首部船底外板に凹損を、推進器翼に曲損等を生じたが、自力で離礁し、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、鹿児島県枕崎港において、入船係留状態から回頭して出港する際、風圧流に対する配慮が不十分で、岸壁の北側に拡延していた干出岩に著しく接近したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、鹿児島県枕崎港において、入船係留状態から回頭して出港する場合、空倉状態で、南南東風を右舷船尾方から受けていたうえ、錨が十分に効いていなかったのであるから、岸壁の北側に拡延していた干出岩に向けて圧流されることがないよう、船首スプリングラインや機関を使用し西側の広い水域に移動して回頭するなど、風圧流に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、この程度の風速であれば大丈夫と思い、船首スプリングラインや機関を使用し西側の広い水域に移動して回頭するなど、風圧流に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、岸壁至近で回頭中、南南東風に圧流され、岸壁の北側に拡延していた干出岩に著しく接近して同岩への乗揚を招き、船首部船底外板に凹損及び推進器翼に曲損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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