(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年1月10日19時25分
瀬戸内海 愛媛県高井神島西岸
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第十八金勢丸 |
総トン数 |
187トン |
登録長 |
46.68メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
441キロワット |
3 事実の経過
第十八金勢丸は(以下「金勢丸」という。)は、専ら大阪港、愛媛県松山港間の鋼材及び製品輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長B、A受審人ほか1人が乗り組み、農機具50トンを載せ、船首0.7メートル船尾2.7メートルの喫水をもって、平成12年1月10日14時20分松山港を発し、瀬戸内海を経由して大阪港に向かった。
ところで、A受審人は、乗船中の前年12月29日ごろから風邪をひき、自宅のある松山や寄港地である大阪の病院で受診して点滴や投薬を受け、発航当日もその長引く風邪で疲れ気味であった。また、平素、船長から当直中体調が悪くなったり、眠くなったら知らせるように言われていた。
A受審人は、発航後、船首部配置を終えて15時過ぎ自室に戻って横になっているうち寝入ってしまい、気が付いたとき、宮ノ窪瀬戸の入直予定地点となっていたので、急いで夕食を済ませて昇橋し、18時
20分B船長から船橋当直を引き継ぎ、暖房して扉を閉め切った船橋内において、単独で、船橋当直にあたり、立った姿勢で手動操舵に就いて宮ノ窪瀬戸を同瀬戸東口に向けて南東進した。
18時27分A受審人は、宮ノ窪瀬戸東口の六ッ瀬灯標から230度(真方位、以下同じ。)1.0海里の地点に達したとき、備後灘航路の推薦航路線に合流するため、針路を高井神島に向けて087度に定め、機関を全速力前進にかけて7.8ノットの対地速力で進行した。
18時36分A受審人は、六ッ瀬灯標から146度1,260メートルの地点に達したとき、周囲に他船が見当たらなかったことから、この針路のまま約4海里先で合流するつもりで自動操舵に切り替え、操舵輪後方の椅子に腰掛けて見張りにあたっていたところ、長引く風邪で疲れを感じ始め、このまま当直を続けると居眠りに陥るおそれがあったが、船長と交代したばかりで遠慮もあり、このまま当直を続けても大丈夫と思い、船長に報告して指示を仰ぐなど居眠り運航の防止措置をとらないまま続航していたところ、いつしか居眠りに陥り、19時06分合流予定地点を航過し、同時20分高井神島灯台を左舷船首17度1,600メートルに見るところに接近したものの、依然、高井神島に向首したまま接近していることに気付かず進行中、19時25分同灯台から203度510メートルの同島西岸に原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力1の北北東風が吹き、潮候は低潮時で潮流はほとんどなかった。
B船長は、乗揚の衝撃を感じて昇橋し、事後の措置にあたった。
乗揚の結果、船首部船底に亀裂を伴う凹損を生じたが、自力離礁し、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、宮ノ窪瀬戸を東行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、愛媛県高井神島の西岸に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、単独で船橋当直にあたり、宮ノ窪瀬戸を東行中、疲労を感じた場合、長引く風邪で体調を崩していたのだから、居眠り運航にならないよう、船長に報告して指示を仰ぐなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、このまま当直を続けても大丈夫と思い、船長に報告して指示を仰ぐなど居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、高井神島の西岸に向首したまま進行して乗揚を招き、金勢丸の船首部船底に亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。