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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成13年広審第1号
件名

プレジャーボート光清乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年7月17日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(竹内伸二、西林 眞、横須賀勇一)

理事官
上中拓治

受審人
A 職名:光清船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
船体大破、廃棄、船長が左大腿打撲傷、同乗者2人が左骨盤環骨折及び頸椎捻挫(安静治療約2箇月間)

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年7月5日23時10分
 周防灘北部 室積半島東岸

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート光清
全長 8.35メートル
機関の種 ディーゼル機関
出力 88キロワット

3 事実の経過
 光清は、GPSを装備したFRP製プレジャーボートで、レーダーを備えず、A受審人が平成11年6月に購入して専ら魚釣りなどのレジャーに使用していたところ、同人が1人で乗り組み、知人2人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.20メートル船尾0.35メートルの喫水をもって、平成11年7月5日18時00分山口県光市光井の船だまりを発し、室積半島南東方の牛島北岸沖合に向かった。
 ところで、A受審人は、25年ほど前から小型プレジャーボートを所有し、休日に魚釣りなどの目的で周防灘一帯を航行していたので光市付近の水路事情を熟知していたが、光清を購入してから初めてGPSプロッタを操作することとなり、GPSの性能やプロッタについては取扱説明書を読み、2度ばかり同船を運航して実際に操作してみたものの、目的地までの針路決定方法や、表示範囲、誤差などについてまだ理解が不十分であった。
 出航後A受審人は、室積半島南岸沖合を東行し、18時20分ごろ牛島北岸の開附鼻沖合で同乗者とともにメバル釣りを始め、23時ごろ釣りを終えて帰港することとした。
 A受審人は、操舵室右舷側の操舵席に座り、右前方に設置されたGPSプロッタの拡大縮小キーを操作して同画面に係留地の光井付近までの地図が表示されるようにし、画面上の自船位置から船だまりの方向に航行して室積半島に接近したら同半島南岸沿いに西行することとし、23時02分周防牛島灯標から326度(真方位、以下同じ。)500メートルの地点を発進して針路を323度に定め、機関を回転数毎分3,200の全速力前進にかけ、26.0ノットの対地速力で進行した。
 釣場を発進したときA受審人は、昼間航行するときに目標としていた、船首方向3.7海里の室積半島中央部に存在する峨嵋山(標高117メートル)を視認することが困難であったものの、右舷船首方向に見える室積港の明りや室積港灯台などから同半島東端の赤埼付近に向首していることが分かった。そしてA受審人は、陸岸に近づいたら左に転針することとし、その後表示範囲が分からないままGPSプロッタの縮小キーを操作したところ、プロッタ画面の縦方向の表示範囲が80メートルとなり室積半島の地図が表示されなくなったが、専ら同画面を注視するばかりで、肉眼で室積港灯台や陸岸の明りなどを見て同半島への接近状況を把握しないまま、操舵ハンドルを中央に保って少し蛇行しながらほぼ赤埼に向首して続航した。
 23時09分A受審人は、赤埼まで800メートルに近づいたとき、左側に立っていた同乗者が室積港八幡南防波堤西灯台を見て、正面に灯台が見えることを告げて同人に注意を促したものの、これに耳を傾けず、GPSプロッタで陸岸を確認してから転針すればよいと思い、依然室積半島が表示されていない同画面を注視し、付近の灯台や陸岸の明りなどを見るなど適切な方法で船位を十分に確認しなかったので、同半島に接近したことに気付かず、同半島南岸に沿う針路に転じないで赤埼に向首したまま進行中、23時10分わずか前同乗者の「岩が」という叫び声を聞いてようやく顔を上げ、目前に迫った陸岸を認めて右舵一杯をとったが、光清は、23時10分室積港灯台から189度580メートルの地点において、原針路、原速力のまま、赤埼東端に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期であった。
 乗揚の結果、光清は、船体が大破して廃棄されたが、機関は修理して再使用され、また、A船長が左大腿打撲傷などを負うとともに、同乗者Bが左骨盤環骨折など及び同Cが頚椎捻挫などそれぞれ約2箇月間の安静治療を要する重傷を負った。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、周防灘北部において、牛島開附鼻沖合の釣場から山口県光市光井に向け帰航中、室積半島東岸に接近した際、船位の確認が不十分で、赤埼に向首したまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、周防灘北部において、牛島開附鼻沖合の釣場から山口県光市光井に向け帰航中、室積半島に接近したら転針するつもりで同半島東岸に向けて進行する場合、陸岸への接近状況を把握するため、付近の灯台や陸岸の明りなどによって船位を十分に確認すべき注意義務があった。しかし、同人は、GPSプロッタの性能や使用方法などを十分理解しないまま、同プロッタで陸岸を確認してから転針すればよいと思い、表示範囲が縮小され室積半島が表示されなくなった画面を注視し、付近の灯台や陸岸の明りなどによって船位を十分に確認しなかった職務上の過失により、同半島に接近したことに気付かず、赤埼に向首進行して乗揚を招き、光清を大破させ、同乗者2人に左骨盤環骨折及び頚椎捻挫などを負わせるとともに、自身も左大腿打撲傷などを負うに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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