(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年1月6日00時16分
愛媛県由利島
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船きくしま |
総トン数 |
171トン |
全長 |
49.82メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
441キロワット |
3 事実の経過
きくしまは、船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか1人が乗り組み、塩470トンを載せ、船首2.5メートル船尾3.7メートルの喫水をもって、平成12年1月5日12時10分岡山県玉津港を発し、大分港に向かった。
A受審人は、18時30分単独で船橋当直に就き、安芸灘を西行し、23時00分愛媛県野忽那島東方沖合で雨模様となったので、機関長を昇橋させてレーダー監視の補助に当たらせ、23時30分釣島灯台から339度(真方位、以下同じ。)1.2海里の地点に達したとき、針路を228度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの潮流に乗じて10.5ノットの対地速力で進行した。
A受審人は、前方の愛媛県由利島が右方に並んだら、235度の針路に転じる予定としていたところ、23時45分伊予灘航路第9号灯浮標(以下「伊予灘航路」を冠した灯浮標名についてはこれを省略する。)に並航したとき、折からの雨足が強まり、豪雨のため視界不良となって、由利島灯台、第8号灯浮標及び第9号灯浮標の各灯光を視認できなくなったうえ、レーダーを調整してもその映像識別ができず、船位を確認することができない状況となった。
しかしながら、A受審人は、そのうち由利島に近づけば由利島灯台の灯光を視認できるものと思い、速やかに広い水域で漂泊するなど、視界の回復を待つ措置をとることなく、23時55分機関を微速力前進の5.0ノットに減じ、翌6日00時02分同灯台から062度1.3海里の地点で、手動操舵に切り換え、小舵角の右舵により右転を開始した。
A受審人は、その後、小舵角の右舵と舵中央とを繰り返し、徐々に由利島に著しく接近する状況となったが、依然船位を確認することができなかったので、このことに気付かないまま続航中、00時16分由利島灯台から014度700メートルの地点において、きくしまは、270度に向首したとき、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は雨で風力2の東風が吹き、潮候は上げ潮の初期にあたり、視程は約500メートル、付近には1.0ノットの南西流があった。
乗揚の結果、船底外板に亀裂を伴う凹損を生じたが、来援したサルベージ船によって引き下ろされ、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、伊予灘を西行中、豪雨のため視界不良となり、レーダーによっても船位の確認ができなくなった際、視界の回復を待つ措置をとらず、由利島に著しく接近したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、伊予灘を西行中、豪雨のため視界不良となり、レーダーによっても船位の確認ができなくなった場合、速やかに広い水域で漂泊するなど、視界の回復を待つ措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、そのうち由利島に近づけば由利島灯台の灯光を視認できるものと思い、視界の回復を待つ措置をとらなかった職務上の過失により、由利島に著しく接近して乗揚を招き、船底外板に亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。