(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年1月4日07時07分
早崎瀬戸
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船和歌丸 |
漁船豊輝丸 |
総トン数 |
1.8トン |
1.2トン |
全長 |
8.53メートル |
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登録長 |
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7.55メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
45 |
35 |
3 事実の経過
和歌丸は、後部に操舵室を備えたFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、底もの一本釣りの目的で、船首0.5メートル船尾0.9メートルの喫水をもって、所定の航海灯を点灯し、平成12年1月4日06時55分長崎県久木山漁港を発し、早崎瀬戸の漁場に向かった。
ところで、和歌丸は、最高速力が27ノットを超える高速船で、機関回転数を毎分2,100回転数ばかりの半速力前進で航行すると、船首部が水平線から大きく浮上し、各舷約15度の死角が生じる状況にあった。
A受審人は、港の近くには真珠の養殖筏や小型の定置網が設置されていたことから、7ノットの微速力前進で5分ばかり航行し、瀬詰埼灯台の北方に至って早崎瀬戸の西方に向けることとしたとき、転針方向に数隻の漁船が漂泊しているのを視認したが、その距離をレーダーで確認することなく、これらの漁船は遠方に位置しており、自船はそのかなり手前の場所で操業するので問題はないものと思い、07時00分同灯台から359度(真方位、以下同じ。)0.7海里の地点において、針路を232度に定め、機関を14.5ノットの半速力前進にかけ、手動操舵で進行した。
A受審人は、右転して針路を定めたとき、右舷船首4度1.7海里に豊輝丸が漂泊して一本釣りを行っており、その後同船が潮流に乗じて南東方に流され衝突のおそれのある態勢で接近し、07時05分同方位0.5海里となったが、近くに他船はいないものと思い込み、船首を振るなどして死角を補ってその動静監視を行わなかったので、このことに気付かず、豊輝丸を避けないで続航し、07時07分瀬詰埼灯台から255度1.4海里の地点において、和歌丸の船首が豊輝丸の右舷後部に後方から75度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の北東風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、付近海域には約1ノットの南東流があり、日出時刻は07時21分であった。
また、豊輝丸は、ほぼ中央部にある機関室の囲壁の後端に操舵室を設けたFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、あじ一本釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、所定の航海灯を点灯し、同日06時40分長崎県加津佐漁港を発し、早崎瀬戸の漁場に向かった。
07時00分B受審人は、瀬詰埼灯台から256度1.5海里の地点に達し、船首を北西方に向け、機関を停止回転数とし、クラッチを中立として手釣りによる一本釣りを始めた。
B受審人は、操舵室の左舷側に台を置き、船首に向かってこれに腰をかけ、右舷前方から潮流を受けるように舵棒とクラッチを制御しながら釣りを続けていたところ、07時05分船首が307度に向首したとき、右舷船尾71度0.5海里のところを和歌丸が自船にほぼ向首し、その後衝突のおそれのある態勢で接近していたが、見張りを十分に行うことなく、釣りに熱中していたので、このことに気付かず、衝突を避けるための措置をとらなかった。
07時07分少し前B受審人は、南東に流されたので潮昇りをしようと思い、周囲を見渡すと明るくなっていたことから、同時07分航海灯のスイッチを切ろうと右手を伸ばしたとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、豊輝丸に乗り上がった和歌丸は、船首船底外板を破損し、豊輝丸は、機関室囲壁、右舷ブルワークを破損したほか主機及び電気系統にぬれ損を生じ、B受審人が鼻骨を骨折した。
(原因)
本件衝突は、早朝、早崎瀬戸において、和歌丸が、動静監視不十分で、前路で漂泊して一本釣り中の豊輝丸を避けなかったことによって発生したが、豊輝丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、早朝、大きな死角のある和歌丸で一本釣り漁船の好漁場である早崎瀬戸を航行中、転針方向に数隻の漁船を視認した場合、それらの距離の確認を行うとともに転針後は死角を補って動静監視を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、いちべつしただけで他船は遠方であるから大丈夫と思い込み、動静監視を行わなかった職務上の過失により、豊輝丸との衝突のおそれに気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、和歌丸の船底外板を損傷させ、豊輝丸の右舷ブルワーク、機関室囲壁の損傷、機器のぬれ損を生じさせたほか、B受審人に鼻骨骨折を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、早朝、好漁場である早崎瀬戸において、潮流にまかせながら一本釣りを行う場合、衝突のおそれのある態勢で接近する和歌丸を見落とさないよう、十分な見張りを行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、十分な見張りを行わなかった職務上の過失により、接近する和歌丸に気付かず、衝突を避けるための措置をとらないで同船との衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。