(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年8月21日04時10分
関門港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船観音丸 |
総トン数 |
4.1トン |
全長 |
13.40メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
139キロワット |
3 事実の経過
観音丸は、定置網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか甲板員1名が乗り組み、定置網漁業の体験学習として、同受審人の小学校6年生の息子1人と担任教諭1人を前部甲板上に同乗させ、操業の目的で、船首0.35メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、平成12年8月21日01時30分山口県下関漁港南風泊地区を発し、漁場に向かった。
ところで、A受審人の行う定置網漁業は、袋網が2個付いた「ます網」と称する定置網を、山口県吉母漁港沖合に3ケ統、同県安岡漁港沖合に1ケ統及び下関魚港南風泊沖合に1ケ統それぞれ設置し、2日に一度の割合で、01時30分ごろ下関漁港南風泊地区を出航し、吉母、安岡及び南風泊の順に回って得た漁獲物を、北九州市小倉北区日明の北九州中央卸売市場(以下「中央卸売市場」という。)へ水揚げするものであった。
02時10分A受審人は、吉母沖合の定置網に着いたところ、南西の風が強く、海上が時化模様であったため、同乗者の安全を考え、1個の袋網を揚げただけで、同時25分同定置網を離れ、安岡沖合の定置網には寄らず、南風泊沖合の定置網に向かった。
03時00分A受審人は、南風泊沖合の定置網に着き、2個の袋網を揚げて約10キログラムの雑魚を漁獲したのち、同時40分同定置網を離れて中央卸売市場に向かった。
A受審人は、平素、中央卸売市場に向かう際、獅子ケ口の沖合を通過後、同市場に直行する進路を採っていたものの、当日は、時化模様で船体動揺が大きいため、前部甲板上の同乗者に気遣って、戸畑寄りの進路を採ることとし、甲板上の作業灯3個を点灯のうえ、甲板員に漁獲物の整理作業を行わせ、自らは舵輪の後方に立って手動で操舵に当たって進行した。
04時04分少し過ぎA受審人は、戸畑航路導灯の前灯から040度(真方位、以下同じ。)1,150メートルの地点に至ったとき、針路を136度に定め、機関を微速力前進にかけ、6.0ノットの対地速力で、引き続き手動操舵により進行した。
04時07分半A受審人は、小倉日明第2防波堤灯台から336度1,350メートルの地点に達したとき、正船首方550メートルのところに、堺川第1号灯浮標の緑色灯光を認め得る状況となったが、時折立ち上がっては甲板員の漁獲物整理作業を見ている同乗者の動作が気になり、前路の見張りを十分に行うことなく、同灯浮標に気付かないまま続航した。
04時09分半A受審人は、堺川第2号灯浮標を左舷側に50メートルで航過したとき、漁獲物の整理作業が終わったことから、機関回転数を毎分1,600に上げて14.5ノットの半速力前進に増速中、04時10分小倉日明第2防波堤灯台から349度850メートルの地点において、観音丸は、原針路のまま、その船首が堺川第1号灯浮標に衝突した。
当時、天候は雨模様で風力4の南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期に当たり、視程は1海里ばかりであった。
衝突の結果、観音丸は、船首に凹損、左舷前部ブルワークに曲損及び同部外板に亀裂を生じ、堺川第1号灯浮標は、凹損などを生じたが、のちいずれも修理された。また、衝突の衝撃で転倒したA受審人は、口腔内挫創及び腰背部挫傷を負った。
(原因)
本件灯浮標衝突は、夜間、関門港西部を中央卸売市場に向かって航行中、見張り不十分で、堺川第1号灯浮標に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、関門港西部を中央卸売市場に向かって航行する場合、堺川第1号灯浮標を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、同乗していた息子と担任教諭の動作に気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、堺川第1号灯浮標の存在に気付かないまま、同灯浮標に向首進行して衝突を招き、観音丸の船首に凹損及び左舷前部外板に亀裂などを、堺川第1号灯浮標に凹損などをそれぞれ生じさせ、自らも口腔内挫創及び腰背部挫傷を負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。