(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年6月7日20時06分
豊後水道
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船明山丸 |
貨物船光星丸 |
総トン数 |
696.51トン |
424トン |
全長 |
65.35メートル |
70.73メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
956キロワット |
735キロワット |
3 事実の経過
明山丸は、専らセメントの輸送に従事する船尾船橋型の貨物船で、A受審人ほか5人が乗り組み、セメント1,211トンを積載し、船首3.97メートル船尾4.41メートルの喫水をもって、平成12年6月7日13時10分山口県宇部港を発し、宮崎県油津港に向かった。
A受審人は、船橋当直を自らが8時から12時、一等航海士が4時から8時、甲板長が0時から4時までそれぞれ単独で行う、4時間交代の3直制を採っていた。
18時42分船橋当直中の一等航海士は、佐多岬灯台から230度(真方位、以下同じ。)2.3海里の地点に達したとき、針路を159度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの風潮流により右方に2度ばかり圧流されながら、10.0ノットの対地速力で、自動操舵によって進行した。
19時40分A受審人は、高甲岩灯台から012度3.3海里ばかりの地点で昇橋し、前直の一等航海士から右舷後方約1海里に追越し船が接近していることの報告を受け、右舷正横後24度1,650メートルに光星丸の白、白、紅3灯を初認した。その後、同時45分同一等航海士と交代して船橋当直に就き、航行中の動力船の灯火を表示していることを確認の上、引き続き同針路、同速力で、自動操舵により航行を続けた。
19時55分A受審人は、高甲岩灯台から062度1.7海里の地点に達したとき、光星丸を右舷正横後26度700メートルに視認し、その後その方位が変わらず、衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めた。
20時00分A受審人は、光星丸が依然として自船の進路を避けずに、400メートルばかりに接近しているのを認めたが、追い越す態勢である同船が自船を避けてくれるものと思い、警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき大きく左転するなどの衝突を避けるための協力動作をとることもなく続航した。
20時05分半A受審人は、光星丸が至近に迫ったのを見て、ようやく衝突の危険を感じ、左舵10度をとったが及ばず、20時06分高甲岩灯台から114度2.3海里の地点において、明山丸は、原速力のまま、150度に向首したとき、その右舷船尾に光星丸の左舷船首が平行に衝突した。
当時、天候は晴で風力3の南東風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、付近には微弱な北西流があった。
また、光星丸は、専ら鋼材の輸送に従事する船尾船橋型の貨物船で、船長C及びB受審人ほか1人が乗り組み、鋼材1,138トンを積載し、船首3.00メートル船尾4.20メートルの喫水をもって、同日17時20分大分県大分港を発し、宮崎県宮崎港に向かった。
C船長は、船橋当直を自らとB受審人がそれぞれ単独で行う、5時間交代の2直制とし、発航操船後も引き続き在橋して船橋当直に当たり、18時53分関埼灯台から045度740メートルの地点において、昇橋してきたB受審人に単独の船橋当直を任せて降橋した。
B受審人は、航行中の動力船の灯火を表示して豊後水道を南下し、19時32分半高甲岩灯台から349度4.5海里の地点に達したとき、針路を150度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの風潮流により右方に1度ばかり圧流されながら10.9ノットの対地速力で進行した。
定針したころ、B受審人は前方を確認し、左舷前方に散在する灯火を認めたものの、その中に紛れた明山丸の船尾灯を見落とし、これらは漁船の灯火で、左舷前方には同航船はいないものと思い、操舵スタンド前方の椅子に腰掛けて見張りを行いながら続航した。
19時55分B受審人は、高甲岩灯台から053度1.4海里に達したとき、明山丸の船尾灯を左舷船首55度700メートルに視認でき、その後、その方位が変わらないまま、追い越す態勢で接近する状況であったが、左舷前方には同航船はいないものと思い、このころ、高甲岩灯台沖合にある鱶瀬及び北ノ瀬の浅所の存在が気になり、同灯台の航過状況に気をとられて、左舷前方の見張りを十分に行わず、明山丸に気付かないまま、同船を確実に追い越し、十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく進行した。
20時06分わずか前、B受審人は、ふと左舷前方を見て、至近に迫った明山丸を認め、急いで手動操舵に切り換えて右舵一杯をとったが及ばず、光星丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、明山丸は、右舷船尾部に凹損を生じ、光星丸は、左舷船首部に擦過傷を生じた。
(原因)
本件衝突は、夜間、豊後水道において、明山丸を追い越す光星丸が、見張り不十分で、明山丸の進路を避けなかったことによって発生したが、明山丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、単独で船橋当直に就き、豊後水道を南下する場合、自船が追い越す態勢で接近する明山丸を見落とすことのないよう、左舷前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、左舷前方には同航船はいないものと思い、右舷方の高甲岩灯台沖合にある鱶瀬及び北ノ瀬の浅所が気になり、同灯台の航過状況に気をとられ、左舷前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、明山丸に気付かず、同船を確実に追い越し、十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく進行して同船との衝突を招き、光星丸の左舷船首部に擦過傷を、明山丸の右舷船尾部に凹損等をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同受審人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
A受審人は、夜間、単独で船橋当直に就き、豊後水道を南下中、光星丸が右舷後方より衝突のおそれのある態勢で、自船の進路を避けないまま接近するのを認めた場合、警告信号を行い、更に間近に接近したとき、大きく左転するなどの衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。ところが、同受審人は、追い越す態勢で接近する同船が自船の進路を避けるものと思い、警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき大きく左転するなどの衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、両船に前示のとおりの損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。