(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年3月4日16時30分
長崎県対馬東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船天祐丸 |
漁船弥寿丸 |
総トン数 |
11.0トン |
4.72トン |
全長 |
17.50メートル |
11.80メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
279キロワット |
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漁船法馬力数 |
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70 |
3 事実の経過
天祐丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成12年3月4日16時10分長崎県厳原港を発し、同県対馬南方沖合の漁場へ向かった。
A受審人は、厳原港の港外に出たところ、沖合1海里付近に多数の漁船が操業しているのを認めたことから、離岸距離をほぼ半海里として南下することに決め、16時20分半耶良埼灯台から148度(真方位、以下同じ。)0.8海里の地点で、針路を182度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進の回転数毎分1,500にかけ、14.5ノットの対地速力で進行した。
A受審人は、針路を定めたのち、厳原港を相前後して出航した多数の僚船と共に南下していたところ、しばらくして、右舷前方に、5隻ばかりの自船より集魚灯の数が多い大型漁船が先航し、左舷後方には、集魚灯の数までは判別できないものの数隻が後続して南下する状況となった。
16時28分A受審人は、耶良埼灯台から172度2.5海里の地点に達したとき、左舷船首37度850メートルのところに弥寿丸を視認でき、その後、同船の方位が左方に変わり、その前路を無難に航過できることがわかる状況となったが、集魚灯の数が多い大型漁船と同じ海域で操業すると漁獲高が少なくなることから、右舷前方を先航する大型漁船群と異なる海域で操業しようと思い、その行き先を見極めることに気を奪われ、漁場探索の目的でレーダーを作動させていたものの、左舷前方の見張りを十分に行わなかったので、弥寿丸に気付かずに続航した。
16時29分わずか過ぎA受審人は、耶良埼灯台から173度2.8海里の地点に至ったとき、レーダーで左舷船首約40度2海里付近に操業中の漁船がいない海域を見付けたので、大型漁船の行き先と異なる同海域に向かうこととし、依然として左舷前方の見張りを十分に行わないまま針路を145度に転じたところ、左舷船首18度440メートルまで接近した弥寿丸と新たな衝突のおそれがある状況を生じたが、このことに気付かずに進行した。
こうして、A受審人は、機関を停止するなどの衝突を避けるための措置をとらないで続航中、16時30分耶良埼灯台から171度3.0海里の地点において、天祐丸は、同針路、同速力で、その船首が、弥寿丸の右舷中央部に前方から77度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の西風が吹き、視界は良好であった。
また、弥寿丸は、船体中央部に操舵室を備えるFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、引き縄漁の目的で、船首0.7メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同日06時00分長崎県安神漁港を発し、同漁港北東方10海里付近の漁場へ向かった。
06時45分B受審人は、漁場に至り、7本の引き縄を流して操業を行ったのち、よこわ約240キログラムを獲たところで、引き続き、陸岸近くまで操業しながら帰途に就くこととし、14時30分耶良埼灯台から081.5度9.5海里の地点で、引き縄を流したまま針路を248度に定め、機関をほぼ微速力前進の回転数毎分700にかけて5.0ノットの対地速力とし、潮流の影響により4度左方へ圧流されながら、手動操舵により進行した。
16時28分B受審人は、耶良埼灯台から168度2.95海里の地点に至ったとき、右舷船首77度850メートルのところに、南下中の天祐丸を視認できる状況であったが、引き縄の状態に気を取られて、これに気付かず、同時29分右舷船首63度485メートルのところに同船を初めて認めたが、その進行方向や航走模様などから、前方を左舷方へ無難に替わって行くものと思い、引き続き、後方の引き縄を注視しながら操業を続け、その後の動静監視を十分に行わずに続航した。
こうして、B受審人は、後方の引き縄を注視しながら進行中、16時29分わずか過ぎ、右舷船首59度440メートルに接近した天祐丸が、左転を行い、新たに衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、このことに気付かず、機関を停止するなどの衝突を避けるための措置を取らずに続航中、弥寿丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、天祐丸は、右舷船首部に亀裂を生じ、弥寿丸は、右舷中央部に破口を伴う亀裂を生じたが、のちいずれも修理され、B受審人が頭部に打撲等の傷を負った。
(原因)
本件衝突は、長崎県対馬東方沖合において、南下中の天祐丸が、見張り不十分で、左舷側を無難に航過する態勢の弥寿丸に対して、新たに衝突のおそれがある状況を生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、西行中の弥寿丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、長崎県対馬東方沖合において、漁場へ向けて南下中、他船が操業していない海域へ向けて針路を左に転じる場合、左舷側から接近する弥寿丸を見落とすことのないよう、転舵方向の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、集魚灯の数が多い大型漁船と同じ海域で操業すると漁獲高が少なくなることから、右舷前方を先航していた大型漁船群の行き先を見極めることに気を奪われ、転舵方向である左舷前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、弥寿丸に気付かずに左転したばかりか、新たに同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったとき、機関を停止するなどの衝突を避けるための措置をとらないで進行して衝突を招き、天祐丸の右舷船首部に亀裂を生じ、弥寿丸の右舷中央部に破口を伴う亀裂を生じさせ、B受審人に打撲等の傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同受審人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、長崎県対馬東方沖合において、引き縄漁を行いながら発航地の安神漁港へ向けて帰航中、右舷前方に南下中の天祐丸を認めた場合、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、同船の進行方向や航走模様などから、前方を左舷方へ無難に替わって行くものと思い、その動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、間もなく同船が左転を行い、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったことに気付かず、機関を停止するなどの衝突を避けるための措置をとらずに進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせ、自らも負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同受審人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。