(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年4月24日05時00分
広島湾 江田島東岸沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船順栄丸 |
漁船大黒丸 |
総トン数 |
18.02トン |
18.01トン |
登録長 |
15.00メートル |
14.95メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
44キロワット |
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漁船法馬力数 |
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130 |
3 事実の経過
順栄丸は、広島県中田港から同県呉港への農産物運搬に従事する木製貨物船で、A受審人が妻と2人で乗り組み、野菜など540キログラムを積載し、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成12年4月24日04時00分中田港高田を発し、呉港に向かった。
ところで、順栄丸は、航海灯にいずれも24ボルト40ワットの電球を使用し、マスト灯1個を船首部マストに、中央から少し船尾寄りの操舵室屋上後端に舷灯一対を、及び船尾部に船尾灯をそれぞれ備えていたが、前部甲板の日除け用オーニングが円筒状に巻き取られて操舵室左右両端から少し外にはみ出した状態で同室屋上前端に置いてあったことから、左右の各舷灯は、側方からは視認することができるものの、船首方向からは、間近に近づくとオーニングと屋上のすき間から灯光の一部が認められるだけで、同オーニングによって視認が著しく妨げられていた。
出航時A受審人は、マスト灯、舷灯及び船尾灯を点灯したが、巻き取ったオーニングを操舵室屋上から下ろさなかったので、船首方向から舷灯の視認が困難な状態のまま、夜間航行を開始した。
出航後A受審人は、操舵室内に立って手動操舵にあたり、津久茂瀬戸を北上したのち江田島北岸に沿って東行し、04時53分小麗女島灯台から335度(真方位、以下同じ。)2.9海里の地点で、針路を同灯台と大麗女島の島影のほぼ中央に向首する153度に定め、機関を全速力前進にかけ、6.5ノットの対地速力で進行した。
A受審人は、ほとんど毎日中田、呉両港間を航行していたので、江田島東岸には一ツ小島から二ツ小島にかけて約300メートル沖合までかき養殖筏が存在し、その区域を示すオレンジ色標識灯7個が同筏上に数百メートル間隔で設置されていることを知っており、同筏に近づくとそこで使用されているロープをプロペラに巻き込む危険があったので、各筏に接近しないよう目測で標識灯から100ないし200メートルほど離れて航行した。
04時58分少し前A受審人は、小麗女島灯台から336度2.4海里の地点に達したとき、右舷船首2度1,350メートルに大黒丸の紅、緑2灯を視認することができたが、前路をいちべつしたものの、右舷側のかき養殖筏に気を奪われ、前路の見張りを十分に行わなかったので、これらの灯火に気付かず、北上する他船はいないと思い、間もなく舵輪後方にある高さ約50センチメートルの台に腰掛けてポットに用意していたお茶を飲み始めた。
A受審人は、その後マスト灯を掲げていない大黒丸が、紅、緑2灯のみを表示し衝突のおそれがある態勢で接近したが、右転するなど衝突を避けるための措置をとることなく続航した。
05時00分少し前A受審人は、立ち上がって前方を見たとき、船首方向至近に大黒丸の両舷灯を認め、もはや衝突は避けられないと思い、右舵一杯をとれば自船の左舷側に衝突して沈没のおそれがあるので、同船が避けることを期待して右舵を少しとるとともに機関の回転数を少し下げたが、05時00分順栄丸は、小麗女島灯台から336度2.1海里の地点において、原針路、原速力のまま、その左舷船首が、大黒丸の左舷船首に前方から2度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の南風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
また、大黒丸は、マスト灯及び汽笛を備えないFRP製漁船で、採介藻(かき)漁業に従事し、B受審人ほか1人が乗り組み、広島県江田島町切串から養殖かきを運搬するため、空倉のまま、船首0.2メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、同日03時20分同県安芸津港を発し、切串に向かった。
B受審人は、同県豊田郡安芸津町でかき養殖漁業を営み、大黒丸ほか3隻の漁船を運航し、年に数回切串のかき養殖業者から購入した養殖かき運搬のため安芸津港と切串の間を往復していたが、これらの船にはいずれもマスト灯が設置されておらず、出航時大黒丸に舷灯と船尾灯を掲げただけでマスト灯を表示することなく、自ら操舵と見張りにあたって猫瀬戸及び音戸瀬戸を通航したのち、呉港沖合を北上した。
04時50分B受審人は、小麗女島灯台から255度650メートルの地点で針路を348度に定め、機関を全速力前進にかけ、13.0ノットの対地速力で進行した。
04時58分少し前B受審人は、小麗女島灯台から336度1.6海里の地点に達し、一ツ小島沖合に設置されたかき養殖筏南端の標識灯を左舷側に並航したとき、前方の広島市街の明りを見て宇品島の見当をつけ、針路をほぼ同島に向く335度に転じ、同筏にほぼ沿って北上した。
転針したときB受審人は、7ないし8海里前方に広島市街の明りが多数点在する状況下、正船首1,350メートルのところに順栄丸の白灯1個を視認することができ、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近したが、一ツ小島沖のかき養殖筏に気を奪われ、前路の見張りを十分に行わなかったので、同船に気付かず、また、同船のオーニングが船首方向からの舷灯の視認を妨げていたことから、行き会う態勢で接近していることに気付かないまま、右転するなど衝突を避けるための措置をとることなく続航した。
05時00分わずか前B受審人は、ふと船首方向に目を向けたとき、至近に迫った順栄丸の紅灯を認めて右舵一杯としたが、大黒丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、順栄丸は船首部が圧壊し、修理費用が高額となるので廃船とされ、大黒丸は左舷船首部などが破損するとともにプロペラ等が曲損したが、のち修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、広島県江田島東岸沖合において、順栄丸が、操舵室屋上に日除け用オーニングを置いて舷灯の視認を妨げる状態で航行したうえ、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、大黒丸が、マスト灯を表示せず、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、江田島東岸沖合を呉港に向け南下する場合、北上中の大黒丸の灯火を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、同島沿岸に設置されたかき養殖筏に気を奪われ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、接近する大黒丸に気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、順栄丸の船首部を圧壊し、大黒丸の左舷船首部などを破損するとともにプロペラ等を曲損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、江田島東岸沖合を北上する場合、南下する順栄丸の灯火を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、一ツ小島沖のかき養殖筏に気を奪われ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、順栄丸に気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。