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平成12年広審第46号
件名

油送船豊晴丸貨物船コピルコ貨物船豊星丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年9月27日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(中谷啓二、高橋昭雄、坂爪 靖)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:豊晴丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:コピルコ水先人 水先免状:内海水先区

損害
豊晴丸・・・左舷前部外板に破口を伴う凹損、のち転覆
甲板員1人が肺炎(入院加療約3週間)
コピルコ・・・船首部と左舷後部外板に凹損及び擦過傷
豊星丸・・・右舷前部から中央部と左舷前後部外板に凹損、擦過傷

原因
コピルコ・・・狭い水道の航法(右側通行)不遵守、船員の常務 (衝突回避措置)不遵守(主因)
豊晴丸・・・船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、コピルコが、掘下げられた水路の右側端に寄って航行しなかったばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、豊晴丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの内海水先区水先の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年11月23日11時19分
 山口県徳山下松港

2 船舶の要目
船種船名 油送船豊晴丸 貨物船コピルコ
総トン数 199トン 26,047トン
全長 49.25メートル 185.74メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 7,171キロワット

船種船名 貨物船豊星丸
総トン数 499トン
登録長 67.56メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 882キロワット

3 事実の経過
 豊晴丸は、船尾船橋型の油送船で、A受審人ほか2人が乗り組み、C重油355キロリットルを積載し、船首2.2メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、平成11年11月23日10時55分山口県徳山下松港第3区大浦2号桟橋を発し、広島県尾道糸崎港に向け出航するところ、乗組員の交代を行うため、いったん同桟橋の北方約2海里にあたる晴海ふ頭物揚場に向かった。
 ところで、晴海ふ頭は、ほぼ東西に延びた沿岸部から南南西に向かって約3キロメートル突出したふ頭で、物揚場がその西岸の最奥部にあり、そこから南側に順次1号から7号までの岸壁が続いていた。そして、同ふ頭から西方に約1.3キロメートル隔てて仙島及び黒髪島が並び、両島とその北方対岸間の仙島水道を貫通している水深9メートルの掘下げられた水路(以下「掘下げ水路」という。)が、同水道東口の富田航路第16号灯浮標(以下「16号灯浮標」という。)のところで、南南東方に直角に近く屈曲し、約300メートルの幅をもって晴海ふ頭3号岸壁の前面に至り、ふ頭西岸に沿って続いている水深10メートルから14メートルの掘下げ水路に接続していた。
 また、晴海ふ頭3号岸壁の北西方約300メートルのところには、晴海ふ頭沿いの掘下げ水路の西側端を示す徳山下松港徳山第7号灯浮標(以下「7号灯浮標」という。)が設置されており、同灯浮標付近で仙島水道からの掘下げ水路東側端が交差していたことから、付近海域には両水路により、7号灯浮標を分岐点とするほぼY字型の航路筋が形成されていた。
 A受審人は、離桟時から1人で操船に当たり、11時06分半晴海ふ頭南西角を替わって掘下げ水路に入り、徳山下松港地ノ筏灯台(以下「地ノ筏灯台」という。)から190度(真方位、以下同じ。)1.26海里の地点に達したとき、針路を029度に定め、機関を半速力前進にかけ、8.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、水路に沿って手動操舵により進行した。
 11時10分半A受審人は、地ノ筏灯台から176度1,350メートルの地点で、左舷船首44度1,700メートルのところに、仙島東端付近を東行中のコピルコを初認し、それまで見た多数の大型船の付近出航模様から、まもなく同船は掘下げ水路の屈曲部で大きく右転し、水路に沿って7号灯浮標の西側を南下すると予測し、針路を少し晴海ふ頭寄りに032度に転じ、速力を微速力前進の6.0ノットに減じ、掘下げ水路の右側端に寄って続航した。
 11時13分A受審人は、針路をふ頭西岸に平行する026度としたころ、16号灯浮標を航過したコピルコに右転している様子が認められず、同時14分半7号灯浮標を左舷船首15度510メートルに見る地点に達したとき、左舷船首27度920メートルのところに同船を認めるようになり、同船が掘下げ水路の右側端に寄らず、衝突のおそれがある態勢で前路に接近する状況であったが、同船が大きく右転すれば左舷を対し航過できると思い、速やかに機関を後進にかけ行きあしを停止するなど衝突を避けるための措置をとることなく、同じ針路、速力のまま進行した。
 11時15分半A受審人は、コピルコが、7号灯浮標の東側を回り込み前路に近づくことから、晴海ふ頭寄りに040度に転針して機関を中立とし、そのまま前進惰力で続航中、同時19分少し前衝突の危険を感じ全速力後進をかけたが効なく、同時19分地ノ筏灯台から115度780メートルの地点において、豊晴丸は、080度に向首してほぼ停止したとき、その左舷前部に、コピルコの船首が前方から70度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期であった。
 また、コピルコは、船尾船橋型の貨物船で、船長Cほか21人が乗り組み、B受審人が水先人として乗船のうえ、空倉のまま、船首4.30メートル船尾6.49メートルの喫水をもって、同日11時00分徳山下松港第1区仙島水道北岸の東ソー原塩桟橋を発し、オーストラリアのクウィナナ港に向かった。
 B受審人は、コピルコを、諸関係者からなる仙島水道航行安全対策委員会が定めた仙島水道航行安全規約に則り、仙島水道から晴海ふ頭沿いに続く掘下げ水路により港界付近まできょう導することとなり、曳船2隻を使用して離桟し、警戒船1隻を前路に配備のうえ、11時06分地ノ筏灯台から284度1,300メートルの地点で、針路を092度に定め、機関を港内半速力前進にかけ、6.5ノットの速力で、水道東口までは掘下げ水路の幅が約150メートルと狭く両側に浅所が広がっていたことから、水路中央部を手動操舵により進行した。
 ところで、B受審人は、同桟橋からの出航船のきょう導は初めてであったものの、仙島水道東口で大きく右転して掘下げ水路の右側を航行するに際しては、コピルコの旋回径を考慮すると16号灯浮標の手前から徐々に右転を始める必要があることを承知しており、船首が同灯浮標に並ぶころ右舵をとり始める予定でいた。
 11時10分半B受審人は、地ノ筏灯台から309度460メートルの地点で、仙島東端に並んだころ、右舷船首73度1,700メートルのところに、晴海ふ頭沿いに掘下げ水路を北上する豊晴丸を初認し、警戒船からの報告によって同船が物揚場方面に向かうことを知り、同時12分右舷船首が16号灯浮標に並航して予定の転針地点に達したが、島陰を替わって進行方向にあたる右方の視野が開け、そちらの状況と水路中央部を直進することに気をとられるなどして右転開始の時機を逸し、掘下げ水路の右側端に寄ることなく、同灯浮標を航過した同時13分右舵10度を令し、続いて同分半右舵20度をとって続航した。
 11時14分半B受審人は、地ノ筏灯台から065度500メートルの掘下げ水路屈曲部で、船首が120度まで回頭し、7号灯浮標を右舷船首46度430メートルに認めるようになったとき、同灯浮標の東側に進出する態勢となり、そのころ右舷船首59度920メートルのところを北上中の豊晴丸と衝突のおそれがある状況となったが、小型の同船の方で避航動作をとることを期待し、速やかに機関を後進にかけ行きあしを停止するなど衝突を避けるための措置をとらず、晴海ふ頭に近づいていたので、大回頭を得ようとして右舵一杯とし、機関を港内全速力前進にかけて右回頭中、同時18分半ごろ衝突の危険を感じて機関を停止し、続いて全速力後進にかけたが効なく、コピルコは、190度に向首して約4ノットの速力になったとき、前示のとおり衝突した。
 B受審人は、衝突後まもなく、豊晴丸が転覆して乗組員が海上を漂っているのを認め、人身事故を避けるため機関をいったん停止するなどして操船しているうち晴海ふ頭に接近し、11時21分地ノ筏灯台から123度880メートルの地点において、コピルコは、212度に向首し約3ノットの速力で、その左舷船首部が、晴海ふ頭3号岸壁に係留中の豊星丸の右舷中央部に後方から10度の角度で衝突して擦過した。
 一方、豊星丸は、船尾船橋型の貨物船で、船長Dほか5人が乗り組み、鋼材1,340トンを積載し、船首3.3メートル船尾4.7メートルの喫水をもって、同月22日13時20分同港晴海ふ頭3号岸壁に222度に向首して左舷付けし、揚荷役のために待機中、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、豊晴丸は、左舷前部外板に破口を伴う凹損を生じて転覆し、コピルコは、船首部と左舷後部外板に凹損及び擦過傷を、豊星丸は、右舷前部から中央部と左舷前後部外板に凹損、擦過傷をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理され、豊晴丸の甲板員1人が、転覆時の漂流に伴い約3週間の入院加療を要する肺炎などを罹病した。

(原因)
 本件衝突は、山口県徳山下松港において、出航するコピルコが、掘下げ水路の右側端に寄って航行しなかったばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、入航する豊晴丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、山口県徳山下松港において、掘下げ水路に沿って出航する場合、その右側端に寄って航行すべき注意義務があった。しかるに、同人は、同水路屈曲部で予定転針地点に達した際、進行方向の状況と水路中央部を直進することに気をとられるなどして転舵を開始する時機を逸し、掘下げ水路の右側端に寄って航行しなかった職務上の過失により、豊晴丸との衝突を招き、同船の左舷前部外板に破口を伴う凹損を与えて転覆させ、コピルコの球状船首部に凹損及び擦過傷を、豊星丸の両舷外板全般に擦過傷をそれぞれ生じさせ、豊晴丸の甲板員1人に肺炎などを罹病させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により同法第5条第1項第2号を適用して同人の内海水先区水先の業務を1箇月停止する。
 A受審人は、山口県徳山下松港において、掘下げ水路の右側端に寄って入航中、出航するコピルコが、同水路の右側端に寄らずに前路に接近するのを認めた場合、そのまま進行すると衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況であったから、速やかに機関を後進にかけ行きあしを停止するなど衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、同船が大きく右転すれば左舷を対し航過できると思い、速やかに機関を後進にかけ行きあしを停止するなど衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、コピルコとの衝突を招き、前示の損傷及び罹病を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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