(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年11月18日17時00分
広島港
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートいわさき丸 |
監視船若葉丸 |
総トン数 |
3.50トン |
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登録長 |
10.10メートル |
5.69メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
169キロワット |
22キロワット |
3 事実の経過
いわさき丸は、最大搭載人員14人のFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、友人1人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成12年11月18日09時00分広島市南区丹那町船溜まり(以下「丹那船溜まり」という。)を出航し、広島湾宮島瀬戸付近でたち魚を獲たのち、16時ごろ同船溜まりに向けて帰途に就いた。
A受審人は、獲れた魚を料理するため広島港界内の金輪島北側のかき筏養殖設置区域内に立ち寄り、16時30分宇品灯台の北東方0.8海里のところにフック付き舫綱をかき筏にかけて停留した。
16時58分ごろA受審人は、魚の料理を終えたので丹那船溜まりに向かうこととして舫綱を放し、同時59分少し過ぎ宇品灯台から057度(真方位、以下同じ)1,490メートルの地点で、船首を広島高速道路のアーチ橋西側に向く015度にして発進するにあたり、周囲を確認しようとしたところ、航行中に浴びた海水が乾燥したため、塩により窓ガラスが白濁しており、旋回窓から見える船首方向以外ははっきり見えない状態であったが、旋回窓を通して前路を一瞥しただけで、他船はいないものと思い、曇った窓ガラスを水洗いするとか、操舵室から出るとかして周囲の見張りを十分に行わなかったので、左舷船首40度120メートルのところに、若葉丸が3隻のヨットを曳航して針路を東北東に向けて無難に替わる態勢で航行中であることに気付かなかった。
こうして、A受審人は、015度の針路を保持して機関の回転数を徐々に上げながら進行し、同引船列と新たな衝突のおそれのある関係を生じさせたことに気付かず、同引船列を避けないまま続航中、いわさき丸は、17時00分宇品灯台から054度1,600メートルの地点において、速力が約11ノットに達したとき、その船首が原針路のまま若葉丸の右舷前部に、後方から60度の角度で衝突し、同船にいわさき丸の船首部が乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力4の北北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
また、若葉丸は、広島県立安芸南高等学校ヨット部が同県安芸郡坂町から借り受けて部活動の支援のために使用している、最大搭載人員が8人のFRP製監視船で、同校ヨット部顧問のB受審人及び同部コーチでヨットのベテランであるC指定海難関係人が操舵員として2人で乗り組み、平成12年度広島県高校新人戦ヨットレースに参加する7隻のヨットに付き添うため、同日08時30分ビーアンドジー坂海洋センターを発し、広島市西区観音マリーナ沖合で行われた同レースの監視船として立ち会ったのち、16時10分レース参加のFJ級ヨットのうち3隻を曳航し、船首0.05メートル船尾0.20メートルの喫水をもって、観音マリーナの南東約1海里の地点で帰航を開始した。
B受審人は、ヨット部員3人を若葉丸に乗せ、同部員各2人が乗ったヨット3隻を船尾に縦列に曳航して全長40メートルの引船列をなし、前部右舷側の座席で指揮及び見張りに就き、船尾部左舷側の座席に座ったC指定海難関係人に船外機による操船を行わせ、北北東風が強いなか、被曳ヨットの様子に気を配りながら航行し、16時48分宇品灯台から160度220メートルの地点で、針路を044度に定め、4.5ノットの曳航速力で進行した。
16時57分B受審人は、宇品灯台から054度1,210メートルの地点に達したとき、右舷船首23度1,550メートルのかき筏設置区域内に停留状態のいわさき丸を初認したが、C指定海難関係人に対して同船の動静監視を十分に行うよう指示することなく、ほぼ同じころ同指定海難関係人もいわさき丸を初認したが、両人とも同船が動き出すことはあるまいと思い、その動静監視を十分に行わないまま、同時59分宇品灯台から052度1,450メートルの地点で、針路を075度に転じて続航した。同時59分少し過ぎ右舷船首67度120メートルのところにいわさき丸を認めることができるようになったとき、同船が発進して新たな衝突のおそれのある関係を生じさせるようになったが、そのことに気付かなかった。
こうして、B受審人は、笛を使用するなどして避航を促すための有効な音響による信号を行うことも、機関を停止するなどして衝突を避けるための措置をとることもなく進行し、若葉丸引船列は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、いわさき丸は、船首部船底に擦過傷を生じただけであったが、若葉丸は、右舷前部外板に破口及び左舷前部外板に亀裂を生じ、ヨット部員D(昭和60年2月4日生)が大量出血で死亡し、同部員Eが6週間の通院加療を要する右腓骨内果骨折等の傷を負った。
(原因)
本件衝突は、広島港界内の金輪島北方沖合において、かき筏設置区域内で停留中のいわさき丸が、丹那船溜まりに向けて帰航する際、見張り不十分で、同筏設置区域の外側を無難に航過する態勢の若葉丸引船列に対し、発進して新たな衝突のおそれのある関係を生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、若葉丸引船列が、動静監視不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、機関を停止するなどして衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
若葉丸引船列の運航が適切でなかったのは、船長が無資格の操舵員にいわさき丸に対する動静監視を十分に行うように指示しなかったばかりか、自らその動静監視を十分に行わなかったことと、操舵員がいわさき丸の動静監視を十分に行わなかったこととによるものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、広島港界内の金輪島北方沖合において、かき筏設置区域内で停留中、丹那船溜まりに向けて帰航を開始する場合、操舵室周りの窓ガラスが塩により曇っていて周囲の見張りが妨げられた状態であったから、筏設置区域の外側を航行している若葉丸引船列を見落とすことのないよう、窓ガラスを水洗いするとか、操舵室の外側に出るなどして、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、旋回窓を通して前路を一瞥しただけで付近には他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、筏設置区域の外側を航行中の若葉丸引船列に気付かず、発進して新たな衝突のおそれのある関係を生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、いわさき丸の船首部船底に擦過傷を、若葉丸の右舷側外板に破口及び左舷側外板に亀裂をそれぞれ生じさせ、更にDヨット部員を死亡させ、E同部員に6週間の通院加療を要する右腓骨内果骨折等の傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、金輪島北方沖合において、無資格者に操舵を行わせて自らは見張りにあたり、FJ級ヨット3隻を曳航して同海域に設置されたかき筏の北側を航行中、右舷前方の同筏設置区域内に停留状態のいわさき丸を認めた場合、同船が発進してくるかどうか判断できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、同船が動き出すことはあるまいと思い、その動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、発進したいわさき丸と新たな衝突のおそれのある関係が生じたことに気付かず、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、両船に前示の損傷及び死傷者を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。
C指定海難関係人が、広島港界内の金輪島北方沖合において、FJ級ヨット3隻を曳航する若葉丸の船外機を操作して、かき筏設置区域の近くを航行中、同区域内に停留状態のいわさき丸を認めた際、その動静監視を十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
C指定海難関係人に対しては、本件後、事故に対して十分に反省している点に徴し、勧告するまでもない。
よって主文のとおり裁決する。