(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年2月21日11時17分
愛媛県松山港
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船石手川 |
総トン数 |
699トン |
全長 |
55.90メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,912キロワット |
3 事実の経過
石手川は、広島県広島港、同県呉港及び愛媛県松山港の3港間の定期運航に従事する、船首端から10メートル後方に船橋を備え、主機にクラッチ付逆転減速機を連結した旅客船兼自動車渡船で、A受審人ほか5人が乗り組み、乗客26人及び車輌10台を載せ、船首1.9メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、平成12年2月21日09時28分呉港を発し、松山港に向かった。
A受審人は、出航操船に引き続き、甲板手1人と共に船橋当直に就き、全速力前進の15.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で安芸灘を南下し、11時12分着岸予定地である松山港の第1フェリー岸壁を南方約0.9海里に見る、松山港高浜5号防波堤灯台(以下「高浜灯台」という。)から331度(真方位、以下同じ。)1,160メートルの地点に達したとき、針路を同岸壁に向けて164度に定め、そのままの速力で、手動操舵により進行した。
ところで、第1フェリー岸壁は、その西方が高浜瀬戸に面した、南北方向に約150メートルの長さの逆L字型の岸壁で、南端部に側壁に沿って幅約9メートル長さ約20メートルの可動橋が設置されており、石手川は、北方から接近して入船左舷付けにすることから、船首部エプロンを同可動橋先端部に掛けて停泊することになった。
また、A受審人は、接岸に際しての行きあし制御にあたっては、主機及びクラッチに悪影響を及ぼさないようプロペラの前進回転数が毎分80以下でクラッチの後進切替え操作を行うようになっていたことから、定針後、付近海域の九十九島、四十島及び左方の陸岸物標などを目安に順次減速し、九十九島を航過して可動橋先端まで約400メートルになる、高浜灯台から235度280メートルの地点で、いったん機関を中立とし、その後、プロペラ回転数が毎分80以下に低下するのを待って後進をかけるという方法で行っていた。
11時13分少し過ぎA受審人は、10.0ノットに減速し、船内放送により乗客に安全のため着岸し終わるまで着席していて欲しい旨を連絡し、同時14分高浜灯台から303度400メートルの地点で、8.5ノットの速力として予定通りに続航した。
11時15分半A受審人は、九十九島を航過して前示の機関を中立とする地点に差し掛かり、着岸予定岸壁に接近していたが、そのころこの海域特有の不規則な南西流の影響を受けて船尾が落とされ、船首が左方に向き始めたことから、舵効を得るのに気をとられ、機関を中立にするなど適切に行きあしを逓減する措置をとることなく、そのままの速力で操舵により態勢を直しながら進行した。
11時16分少し過ぎA受審人は、高浜灯台から205度400メートルの地点で、態勢を復して可動橋に向首したとき、急ぎ機関を中立としたものの、同橋先端まで180メートルに近づいており、行きあしが過大で、そのころ毎分約150回転であったプロペラ回転数が低下するのを待つうち可動橋にさらに接近し、同時17分少し前同回転数が約110になったころ危険を感じて全速力後進にかけたが及ばず、11時17分石手川は、高浜灯台から194度560メートルの地点で、189度に向首したとき、船首が可動橋に約4ノットの速力で衝突した。
当時、天候は曇で風力2の北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
その結果、石手川の船首部エプロン受け及び可動橋先端部に凹損が生じたが、いずれものち修理され、乗客4人が衝撃で転倒し、それぞれ全治5日間から2週間の胸部打撲、頚椎捻挫等を負った。
(原因)
本件岸壁衝突は、愛媛県松山港において、第1フェリー岸壁に接岸する際、行きあしの逓減措置が不適切で、過大な行きあしのまま同岸壁に接近したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、愛媛県松山港において、第1フェリー岸壁に接岸する場合、過大な行きあしで同岸壁に接近することのないよう、行きあしの逓減措置を適切にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、船首が潮流の影響で偏向したことから、舵効を得るのに気をとられ、行きあしの逓減措置を適切にとらなかった職務上の過失により、過大な行きあしのまま同岸壁に接近して衝突を招き、石手川の船首部エプロン受け及び可動橋先端部に凹損を生じさせ、石手川の乗客4人に胸部打撲、頚椎捻挫等の負傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。