(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年9月23日14時31分
徳島県橘浦
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船豊久丸 |
漁船石鯛丸 |
総トン数 |
4.4トン |
0.6トン |
全長 |
13.27メートル |
6.20メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
220キロワット |
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漁船法馬力数 |
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30 |
3 事実の経過
豊久丸は、たちうお漕ぎ漁に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成11年9月23日04時30分徳島県橘港を発し、蒲生田岬沖合の漁場で操業したのち、橘浦に移動して操業を続け、60キログラムの漁獲を得て、14時28分半舟磯灯標から152度(真方位、以下同じ。)3,230メートルの地点を発進して、帰途についた。
発進時、A受審人は、船首が北東方に向いていたので、右舷船尾で主機及び舵のコード付遠隔操縦装置(以下「リモコン」という。)により橘港長島灯台付近を見ながら左舵を取り、機関を全速力前進にかけ、リモコンを持ったまま操舵室に入り、左舷側のいすに腰掛けてリモコンにより操舵に当たり、針路を284度に定め、14.0ノットの対地速力で進行した。
ところで、豊久丸は、全速力にすると船首が浮き上がって高くなり、前示のいすに腰掛けた状態で、左舷船首5度から右舷船首15度にわたって死角を生じていた。
14時29分A受審人は、舟磯灯標から155度3,080メートルの地点に達したとき、ほぼ正船首方860メートルのところに、静止状態にある石鯛丸を視認することができる状況であったが、台風18号の接近で漁船は既に帰港して、前方には航行の妨げになる他船はいないものと思い、石鯛丸を見落とさないよう、立ち上がるなどして死角を補う見張りを十分に行うことなく、同船の存在に気付かないまま西行した。
A受審人は、その後石鯛丸が錨泊中の形象物を掲げていないものの、折からの風向と静止状況から、船首を南方に向けて錨泊中であることが分かる同船に、衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、右転するなど、石鯛丸を避けることなく続航中、14時31分わずか前船首至近に同船を初めて視認したが、どうすることもできず、14時31分舟磯灯標から170度2,630メートルの地点において、豊久丸は、原針路原速力のまま、その左舷船首部が、石鯛丸の左舷後部に前方から60度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力2の南寄りの風が吹き、視界は良好で、潮候は上げ潮の中央期であった。
また、石鯛丸は、船外機装備のFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、あじ釣り漁の目的で、船首0.1メートル船尾0.2メートルの喫水をもって、同日08時00分橘港を発し、同港北東方の青島沖合の漁場で操業したのち漁場を移動し、12時00分前示衝突地点付近に到着した。
到着時、B受審人は、水深約15メートルのところで、機関を停止のうえ、船首部から重さ5キログラムの鋼製錨を投じ、長さ40メートル直径12ミリメートルの合成繊維索を延出して錨泊したのち、他の船舶が通常航行する水域であったが、錨泊中の形象物を掲げないまま、息子の甲板員白石賢を右舷側中央部のさ蓋に座らせ、自らは右舷側後部のクーラーボックスに同舷を向いて座り、竿釣り漁を始めた。
14時29分B受審人は、船首が164度に向いていたとき、左舷船首60度860メートルのところに、自船に向かって接近する豊久丸を視認できる状況であったが、折からの上げ潮流の影響を受け、右舷船尾方に釣り糸が流されるので、同糸を見ることに気を取られ、接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うことなく、豊久丸の存在に気付かないまま錨泊を続けた。
B受審人は、その後豊久丸が避航動作をとらないまま衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、機関を使用するなど、衝突を避けるための措置をとることなく錨泊中、石鯛丸は、船首が164度を向いて、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、豊久丸は左舷船首部に擦過傷を生じ、石鯛丸は両舷後部外板及び船外機にそれぞれ破損を生じたが、のちいずれも修理され、また、B受審人が右下腿開放性骨折などを負った。
(原因)
本件衝突は、徳島県橘浦において、帰航中の豊久丸が、見張り不十分で、錨泊中の石鯛丸を避けなかったことによって発生したが、石鯛丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、徳島県橘浦において、漁場から帰航する場合、操舵位置から船首方向に死角があったから、前路で錨泊している他船を見落とさないよう、立ち上がるなどして、死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、台風18号の接近で漁船は既に帰港して、前方には航行の妨げになる他船はいないものと思い、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、石鯛丸の存在と接近とに気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、自船の左舷船首部に擦過傷を、石鯛丸の両舷後部外板及び船外機に破損をそれぞれ生じさせ、B受審人に右下腿開放性骨折などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、徳島県橘浦において、錨泊してあじ釣り漁を行う場合、接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、潮流の影響を受けて右舷船尾方に釣り糸が流されるので、同糸を見ることに気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、豊久丸の存在と接近とに気付かず、機関を使用するなど、衝突を避けるための措置をとらないまま錨泊を続けて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自らも負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。