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平成12年神審第25号
件名

漁船天神丸漁具・貨物船タハロア エクスプレス衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年9月20日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(大本直宏、西田克史、小金沢重充)

理事官
小寺俊秋

受審人
A 職名:天神丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:タハロア エクスプレス水先人 水先免状:内海水先区
指定海難関係人
C 職名:タハロア エクスプレス船長

損害
天神丸・・・転覆、操舵室右舷側等及び漁具を損傷、機関等を濡損、船長が頸椎捻挫等
タ号・・・損傷ない

原因
天神丸・・・動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守
タ号・・・船員の常務(衝突回避措置)不遵守

主文

 本件衝突は、天神丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、タハロア エクスプレスが、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bの懲戒を免除する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年5月7日23時18分
 播磨灘北東部

2 船舶の要目
船種船名 漁船天神丸 貨物船タハロア エクスプレス
総トン数 4.9トン 74,364トン
全長   269.53メートル
登録長 11.42メートル 260.81メートル
3.02メートル 43.00メートル
深さ 0.93メートル 23.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   11,304キロワット
漁船法馬力数 15  

3 事実の経過
 天神丸は、小型底びき網漁業に従事する中央操舵室型のFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.30メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、平成11年5月7日16時30分兵庫県坊勢漁港を発し、播磨灘北東部の漁場に向かった。
 17時10分A受審人は、鞍掛島南東方沖に至って1回目の投網を行い、その後日没を迎えたとき、マスト灯1個、両舷灯及び船尾灯のほか、甲板上に明るい作業灯白4灯及び船尾櫓上部に白色全周灯1個を点灯したが、トロールにより漁ろうに従事している船舶の灯火で、垂直線上に連掲の全周灯である緑、白灯火(以下「トロール灯火」という。)設備が無く、同灯火を表示していなかった。
 A受審人は、袖網口からの長さ約90メートルのロープ2本に、径9ミリメートル長さ約200メートルのワイヤロープ2本を連結し、開口板2枚を使い、えい網約1時間の操業を数回繰り返した。
 22時48分A受審人は、上島灯台から209度(真方位、以下同じ。)1.3海里の地点で投網し、針路を139度に定め、機関を2.5ノット(対地速力、以下同じ。)のえい網速力にかけ、自動操舵により進行中、間もなく操舵室前の甲板上へ赴き、前方を向き前かがみの姿勢で漁獲物の選別作業を開始した。
 A受審人は、23時08分上島灯台から184度1.8海里の地点でふと顔を上げたとき、右舷船首37度1.8海里に、タハロア エクスプレス(以下「タ号」という。)の白、白、紅3灯を初認し、操舵室に入りレーダー画面を見て、タ号が大型船で北上模様であることを知ったが、少し右転しておけば大丈夫と思い、針路を149度に転じ、その後タ号と衝突のおそれの有無を判断できるよう、同灯火の方位変化を確かめるなど、タ号の動静監視を十分に行うことなく、再び前示の要領で漁獲物の選別作業を続けた。
 こうして、A受審人は、右舷船首27度となったタ号の方位がほとんど変わらず、タ号と衝突のおそれがあるまま接近していることに気付かず、自船の機関音の大きさや作業灯の明るさが影響したか、前示の作業に没頭していたかして、タ号の繰り返し吹鳴した汽笛信号にも移動式昼間信号灯による照射にも気付かず、速やかに機関を中立にするなど、衝突を避けるための措置をとらずに続航し、23時18分少し前ふと右舷側を振り向いたところ、至近に迫った船影を認め、操舵室に急ぎ機関を全速力前進にかけ、かろうじて自船船尾がタ号船首を替わって直ぐ、23時18分上島灯台から177度2.2海里の地点において、タ号船首が、天神丸船尾から30メートルのところの、ワイヤロープである漁具に、前方から70度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 また、タ号は、船首端から操船位置まで230メートルの鋼製の鉱石専用船で、C指定海難関係人ほか日本人2人とフィリピン人19人が乗り組み、砂鉄124,000トンを載せ、船首15.85メートル船尾15.50メートルの喫水をもって、同年4月22日12時45分(現地時)ニュージーランドのタハロア港を発し、兵庫県東播磨港に向かった。
 越えて5月7日C指定海難関係人は、バラスト調整等により船首尾16.00メートルの等喫水とし、20時50分神戸港和田岬沖で自ら操船指揮をとり、操船補佐に当直航海士を、手動操舵にフィリピン人操舵手を就け、B受審人を乗せて同人に嚮導させ、その後明石海峡を経て播磨灘を西進した。
 B受審人は、鹿ノ瀬西方灯浮標付近に至り、同灯浮標を付け回して右転し、22時54分上島灯台から180度6.4海里の地点において、同灯台を船首目標に針路を000度に定め、機関を港内全速力前進にかけ、速力12.0ノットで進行中、二等航海士が昇橋して船長補佐に就き、一等航海士ほか3人が船首配置にいる状況下、東播磨港の錨地に向かった。
 ところで、B受審人は、投錨操船計画として、上島灯台南方2.5海里付近で右転し、レーダー反射器付きの東播磨航路第1号灯浮標又は同第2号灯浮標を船首目標にして、同灯台南南東方3海里の予定錨地に向かう針路と各減速の予定を立てており、同予定にのっとり、23時04分同灯台から180度4.2海里の地点で半速力前進とし、同時05分半速力10.0ノットで微速力前進を命じ、徐々に減速しながら続航した。
 23時07分B受審人は、上島灯台から180度3.7海里の地点で、左舷船首4度2.0海里に、天神丸の明るい白数灯のなかに緑1灯を初認し、間もなく同灯火のコンパス方位の変化がほとんどないことを確かめ、同時08分同灯台から180度3.6海里の地点で、左舷船首4度1.8海里に天神丸を見るようになり、多年の水先業務の経験から同船が低速力で網か何かを曳いていることを認め、同船と衝突のおそれがあることを知ったが、天神丸に注意を促せば大丈夫と思い、速やかに減速を開始するなど、衝突を避けるための措置をとらず、同時10分長音と短音を適宜織り交ぜた汽笛の吹鳴を開始して同吹鳴を繰り返し、次いで右舷ウイングから移動式昼間信号灯により、二等航海士による照射を加え、天神丸の避航を期待しながら進行した。
 一方、C指定海難関係人は、B受審人とほぼ同時に天神丸を初認し、その後同人から同船のコンパス方位に変化がない旨を聞き、同船が低速力で何かを曳いている気配を感じ、同船と衝突のおそれがあることを知ったが、水先人が嚮導しているので大丈夫と思い、同人に対し速やかに避航措置をとるよう具体的に要請することも、自ら操船指揮を執り早期に減速を開始するなど、衝突を避けるための措置をとることもなく、前示の汽笛信号音と移動式昼間信号灯による照射を認めながら在橋し、トランシーバーにより船首配置の一等航海士と錨泊作業要領の打合わせを始めた。
 こうして、B受審人は、23時15分天神丸が船首方1,000メートルに迫って、ようやく衝突の危険を感じ、右舵一杯を令し、同時16分速力9.0ノットで機関を全速力後進にかけたが間に合わず、右転中のタ号が039度に向首して速力が5.0ノットのとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、タ号には損傷がなく、天神丸は、えい網用ワイヤロープでタ号に引き寄せられ右舷側に転覆し、操舵室右舷側等及び漁具の損傷、後部櫓の曲損、機関等の濡損を生じたが、のち坊勢漁港に引き寄せられて修理された。また、A受審人は、頚椎捻挫等を負った。

(航法の適用)
 本件は、夜間、播磨灘北東部において、両船が互いに視野の内にある状況下、南東進中の天神丸と北上中のタ号が衝突したもので、港則法又は海上交通安全法を適用される水域で発生していないから、海上衝突予防法(以下「法」という。)により律することになるが、以下、航法の適用を検討する。
1 天神丸の操業模様
 天神丸の操業模様は、事実の経過で示したとおり、トロールにより漁ろうに従事していたものである。
2 両船の灯火表示模様等
(1)天神丸は、マスト灯1個、両舷灯及び船尾灯を表示したほか、作業灯など白 5灯を掲げていたが、トロールにより漁ろうに従事していたから、法第26条 第1項によって、トロール灯火を表示すべきところ、同船に同灯火の設備がな く、同灯火を表示していなかった。
(2)タ号は、航行中の動力船の灯火を表示していて、B受審人及びC指定海難関 係人は、トロール灯火不表示の天神丸を認めて同船の動静監視を行い、同船が 低速力で何かを曳いている気配を察していたものである。
3 両船の相対位置関係
 両船の相対位置関係は、互いに船舶の方位にほとんど変化がなく、衝突のおそれがあるまま接近している状況下、天神丸からはタ号の左舷灯を、タ号からは天神丸の右舷灯を、相互に認められなかったもので、「天神丸が航行中の動力船である」とする条件を満たせば、両船が航行中の動力船であって、法第14条「行会い船」又は法第13条「追越し船」の各航法に該当しないから、法第15条「横切り船の航法」を適用し、天神丸が法第16条の避航船に、タ号が法第17条の保持船に相当する。
 その場合、天神丸は、タ号の進路を避けなければならず、タ号は、針路速力を保持して法第34条第5項による警告信号を行うほか、天神丸と間近に接近したとき、衝突を避けるための最善の協力動作をとらなければならない。
 一方、タ号が航行中の動力船で、天神丸が純に漁ろうに従事している船舶の条件を満たせば、法第18条「各種船舶間の航法」第3項によって、タ号が天神丸の進路を避けなければならず、上記の避航船・保持船の立場が逆転する。
 したがって、上記の2と3を勘案すると、「横切り船の航法」又は「各種船舶間の航法」のいずれかに断定するまでの条件を満足する段階まで至らず、本件は、法第39条の「船員の常務」によって律するのが相当である。

(原因)
 本件衝突は、夜間、播磨灘北東部において、航行中の動力船が表示する所定の灯火と作業灯など白5灯とを掲げ、トロール灯火を表示しないまま、えい網している天神丸と、所定の灯火を表示したタ号とが互いに衝突のおそれがある態勢で接近中、南東進中の天神丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、北上中のタ号が衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、夜間、播磨灘北東部において、航行中の動力船が表示する所定の灯火と作業灯などを掲げ、トロール灯火を表示しないまま、えい網しながら南東進中、右舷船首方にタ号の白、白、紅3灯を認め、レーダー画面を見て、タ号が大型船で北上模様であることを知った場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同灯火の方位変化を確かめるなど、タ号の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、少し右転しておけば大丈夫と思い、タ号の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、タ号と衝突のおそれがあるまま接近していることに気付かず、漁獲物の選別作業を続け、機関を中立にするなど、衝突を避けるための措置をとらずに進行し、自船のえい網索とタ号とが衝突して自船の転覆を招き、自船の船体、属具類及び漁具の損傷を生じさせ、自ら頚椎捻挫等を負うに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、播磨灘北東部において、タ号の嚮導に当たり北上中、左舷船首方に天神丸の明るい白数灯のなかに緑1灯を初認し、その後水先業務の経験から同船が低速力で網か何かを曳いていることを認め、同船と衝突のおそれがあることを知った場合、早期に減速を開始するなど、衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、天神丸に汽笛や移動式昼間信号灯で注意を促せば大丈夫と思い、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、天神丸の避航を期待したまま進行して衝突を招き、前示の損傷等を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告すべきところ、同人が本件について深く反省し、同種海難再発防止に資する意思を強固にしている点に加え、同人が多年にわたり水先業務に携わり、その使命達成に貢献した功績によって、平成6年7月20日運輸大臣から表彰された閲歴に微し、同法第6条を適用してその懲戒を免除する。
 C指定海難関係人は、夜間、播磨灘北東部において在橋し乗組員を各配置に就け、水先人に嚮導させて北上中、左舷船首方に天神丸の明るい白数灯を認め、同灯火のコンパス方位がほとんど変わらない旨を聞き、同船が低速力で何かを曳いている気配を感じ、同船と衝突のおそれがあることを知った際、衝突を避けるための措置が遅れないよう、自ら操船指揮を執り早期に減速を開始するなど、衝突を避けるための措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人に対しては、自ら衝突を避けるための措置をとらなかったことについて深く反省し、本件を貴重な教訓として、将来の同種海難再発防止に生かす意思を強固にしている点に鑑み、勧告するまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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