(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年11月27日11時30分
神戸港西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
遊漁船たちばな丸 |
プレジャーボートバロン |
総トン数 |
4.9トン |
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全長 |
14.85メートル |
3.69メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
264キロワット |
6キロワット |
3 事実の経過
たちばな丸は、船体中央部に操舵室を備えたFRP製遊漁兼警戒船で、A受審人が1人で乗り組み、釣り客3人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.1メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、平成11年11月27日06時30分兵庫県垂水漁港を発し、同漁港南東方沖合3海里の釣り場に向かった。
A受審人は、07時45分前示釣り場に着き、2時間ばかりたち魚釣りを行わせたが、釣果が芳しくなかったことから、11時00分神戸市立須磨海づり公園(以下「須磨海づり公園」という。)東南東方沖合500メートルの釣り場に移動し、釣りを再開したが小物しか釣れず、同公園の西方海域に設置されているのり養殖施設と陸岸との間を経由して平磯の魚礁に向かうこととし、11時26分同釣り場を発進し、機関を半速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で西行した。
ところで、当時、須磨海づり公園の西方海域には、多数ののり養殖施設が、陸岸から330ないし550メートル沖合のところに東西方向に設置されており、同施設の端から海中に固定用の錨綱が張りめぐらされ、陸岸沿いには杭が打ち込まれていたことから、同海域の可航幅が約150メートルに狭められていた。
A受審人は、舵輪後方のいすに腰掛けて見張りに当たり、11時28分少し前須磨海づり公園南西端を右舷正横方70メートルに並航し、神戸港外須磨海釣公園塔灯(以下「公園塔灯」という。)から166度(真方位、以下同じ。)140メートルの地点で、針路を290度に定め、引き続き同じ速力で手動操舵により続航した。
11時29分少し前A受審人は、公園塔灯から265度270メートルの地点に達し、針路を平磯方面に向く265度に転じたとき、正船首380メートルのところにバロンを視認でき、やがて、同船が錨泊中を表示する形象物を掲げていなかったものの、船首を北方に向けたままで移動していないことから錨泊中であることが分かり、同船に向首し衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、左舷方ののり養殖施設に近寄らないよう、これを注視することに気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかったので、この状況に気付かず、転舵するなどして同船を避けずに進行中、11時30分突然船体に衝撃を受け、公園塔灯から265度650メートルの地点において、たちばな丸は、原針路原速力のまま、その船首がバロンの右舷中央部に前方から71度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北寄りの風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
また、バロンは、船外機を備えた和船型のFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首尾とも0.3メートルの喫水をもって、同日08時00分兵庫県塩屋漁港を発し、須磨海づり公園西方沖合の釣り場に向かった。
09時30分B受審人は、衝突地点付近の釣り場に着き、その後、漂泊しながら流し釣りを行い、11時ごろ釣りを打ち切り、持参した昼食を取ってから帰航することとし、同時20分衝突地点において機関を停止し、重さ5キログラムの錨を船首から投じ、直径14ミリメートルのマニラ麻製の錨索を20メートル延出して船首部に係止し、法定の形象物を掲げないまま、船首を北方に向けて錨泊した。
B受審人は、右舷側船尾部で左舷方を向いて座り、11時29分少し前船首が014度に向いていたとき、右舷船首71度380メートルのところに、自船に向首するたちばな丸を視認でき、その後衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、遠景を見ることや海鳥に餌をやることに気をとられ、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、この状況に気付かず、船外機を始動して衝突を避けるための措置をとらないまま錨泊を続けた。
11時30分少し前B受審人は、右舷正横方至近にたちばな丸を初めて視認し、立ち上がって両手を振ったが避ける様子がなく、衝突の危険を感じ、海中に飛び込んだ直後、バロンは、014度を向いたまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、たちばな丸は、損傷がなかったが、バロンは、右舷側中央部外板に亀裂を伴う破口を生じて転覆し、のち解体処分された。また、B受審人は、たちばな丸に救助されたが、左肩腱板部断裂を負った。
(原因)
本件衝突は、須磨海づり公園西方沖合において、たちばな丸が、釣り場に向け航行中、見張り不十分で、前路で錨泊中のバロンを避けなかったことによって発生したが、バロンが、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、須磨海づり公園西方沖合を釣り場に向け航行する場合、錨泊中の他船を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、左舷方ののり養殖施設に近寄らないよう、これを注視することに気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊中のバロンに気付かず、同船を避けずに進行して衝突を招き、バロンの右舷側中央部外板に亀裂を伴う破口を生じて転覆させ、B受審人に左肩腱板部断裂を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、須磨海づり公園西方沖合において、錨泊して昼食を取る場合、自船に接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、遠景を見ることや海鳥に餌をやることに気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、接近するたちばな丸に気付かず、機関を使用して衝突を避けるための措置をとらないまま錨泊を続けて衝突を招き、前示の損傷を生じさせ、自らも負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。