(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年3月28日10時20分
和歌山県市江埼南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船伸栄丸 |
漁船恵美酒丸 |
総トン数 |
682トン |
4.5トン |
全長 |
79.26メートル |
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登録長 |
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11.64メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,618キロワット |
161キロワット |
3 事実の経過
伸栄丸は、船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、砕石2,100トンを積載し、船首4.35メートル船尾5.05メートルの喫水をもって、平成12年3月28日01時45分高知県須崎港を発し、京浜港に向かった。
A受審人は、08時00分単独で船橋当直に就き、同時38分市江埼灯台から248度(真方位、以下同じ。)28.0海里の地点で、針路を091度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの東流に乗じて12.8ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
A受審人は、10時10分ごろ機関回転計の調整のため昇橋した機関長と話をしたり、その作業を見守りながら、操舵輪後方に立ち、時折前方を向いて見張りにあたり、10時13分半市江埼灯台から207度12.3海里の地点に達したとき、右舷船首17度1.5海里のところに恵美酒丸を視認できる状況であったが、前方を一べつしただけで、付近に他船はいないものと思い、右舷方の見張りを十分に行わなかったので、白波に紛れた恵美酒丸の白色の船体を見落としたまま続航した。
こうして、A受審人は、恵美酒丸が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、その進路を避けないまま続航中、10時19分半ふと右舷方を向いたとき、至近に迫った恵美酒丸を初めて視認し、手動操舵に切り換え、右舵一杯をとったが効なく、10時20分市江埼灯台から201度11.7海里の地点において、伸栄丸は、121度に向首したとき、原速力のまま、その右舷側後部に恵美酒丸の船首部が前方から39度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力5の南風が吹き、視界は良好で、付近には1.5ノットの東流があった。
また、恵美酒丸は、一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、同日04時00分和歌山県田辺港を発し、市江埼南方沖合の漁場に向かった。
B受審人は、06時ごろ漁場に至ってかつお引き縄漁を続けていたところ、次第に天候が悪化してきたので操業を止めることとし、10時05分市江埼灯台から199度12.7海里の地点で、針路を340度に定め、引き縄の潜航板を揚収するため機関を回転数毎分550にかけ、折からの東流により右方へ20度圧流されながら4.0ノットの対地速力で、後部甲板での遠隔操舵により進行した。
10時13分半B受審人は、市江埼灯台から200度12.1海里の地点に達したとき、左舷船首52度1.5海里のところに伸栄丸を視認できる状況であったが、潜航板の揚収作業に気を取られ、左舷方の見張りを十分に行わなかったので、伸栄丸の存在に気付かなかった。
こうして、B受審人は、伸栄丸が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき、衝突を避けるための協力動作をとることもしないで続航中、恵美酒丸は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、伸栄丸は、右舷側後部ブルワークに擦過傷を生じ、恵美酒丸は、船首部を圧壊したが、のち修理された。
(原因)
本件衝突は、和歌山県市江埼南方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、伸栄丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る恵美酒丸の進路を避けなかったことによって発生したが、恵美酒丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、和歌山県市江埼南方沖合において、単独で船橋当直に就いて東行する場合、恵美酒丸を見落とさないよう、右舷方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前方を一べつしただけで、付近に他船はいないものと思い、右舷方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、白波に紛れた恵美酒丸が前路を左方に横切り衝突のおそれがあるまま接近していることに気付かず、その進路を避けることなく進行して同船との衝突を招き、自船の右舷側後部ブルワークに擦過傷を生じさせ、恵美酒丸の船首部を圧壊させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、和歌山県市江埼南方沖合において、引き縄の潜航板を揚収しながら北上する場合、伸栄丸を見落とさないよう、左舷方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、潜航板の揚収作業に気を取られ、左舷方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、伸栄丸が前路を右方に横切り衝突のおそれがあるまま接近していることに気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。