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平成13年横審第42号
件名

貨物船第八盛幸丸
プレジャーボート幸進丸被引プレジャーボート坂岡市丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年9月13日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(長谷川峯清、半間俊士、小須田 敏)

理事官
供田仁男

受審人
A 職名:第八盛幸丸船長 海技免状:六級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:幸進丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
盛幸丸・・・船首部及び左舷錨に擦過傷
坂岡市丸・・・船首部を切断、浸水し沈没、のち廃船

原因
幸進丸・・・港則法の航法(防波堤入口)不遵守(主因)
盛幸丸・・・動静監視不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、坂岡市丸を曳航して入航する幸進丸が、防波堤の外で出航する第八盛幸丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第八盛幸丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年7月12日03時15分
 衣浦港

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第八盛幸丸
総トン数 170.03トン
登録長 30.29メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 155キロワット

船種船名 プレジャーボート幸進丸 プレジャーボート坂岡市丸
全長 9.10メートル 11.16メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 80キロワット 44キロワット

3 事実の経過
 第八盛幸丸(以下「盛幸丸」という。)は、左回りの固定ピッチプロペラを備え、専ら三河及び伊勢両湾内の諸港間でトウモロコシや鋼材などの輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人が機関長職を執る妻と2人で乗り組み、最大搭載量の約9割に当たる300トンのトウモロコシを積み、船首2.40メートル船尾2.75メートルの喫水をもって、平成12年7月12日03時10分愛知県衣浦港半田2号物揚場西岸を発し、同県三河港に向かった。
 ところで、盛幸丸は、港則法適用港である衣浦港の中央ふ頭西地区の北西方にある半田2号物揚場を基地としており、同物揚場から港外に向かうときには、同ふ頭西地区南岸とその南西方の中央ふ頭南地区北岸とで形成される長さ約950メートルの水路(以下、「航路筋」という。)及び同ふ頭西地区南岸と同ふ頭南地区の南東方にある9号地北岸とで挟まれた水域を通航していた。
 航路筋は、その南東端が衣浦港半田防波堤灯台(以下「半田灯台」という。)が設置されたくの字状の半田防波堤と中央ふ頭南地区北岸とで形成された幅約200メートルの南東方に開口した防波堤の入口となっており、同入口からその北西方にある港半田大橋まで約450メートルの間の同ふ頭南地区北岸寄り及び同橋以北の水深がそれぞれ浅いため、可航幅が同入口から同橋までが約100メートル及び同橋以北の最狭部が約70メートルになっていた。
 発航後A受審人は、船首に機関長を配し、自ら単独の船橋当直に就いて操船に当たり、いつものように港半田大橋の桁高さを考慮し、同橋下を通過したのちに、マスト灯を取り付けた長さ5メートルの船首マストを立てて同灯火を表示することとし、同灯を除く法定灯火を表示し、航路筋に沿ってその中央を南下した。
 03時13分半少し過ぎA受審人は、半田灯台から301度(真方位、以下同じ。)250メートルの地点で、中央ふ頭南地区北岸寄りの浅所を離して航行することに気をとられ、マストを立てないまま、針路を同灯台から南方約30メートルに向く127度に定め、機関を全速力前進にかけ、9.0ノットの速力で、手動操舵により進行した。
 定針時にA受審人は、左舷船首1度510メートルのところに、白色全周灯1個及び同灯直下に船首部、船尾部をそれぞれ照射する笠により灯光が遮蔽された作業灯(以下「笠付き作業灯」という。)各1個を点灯した航行不能の坂岡市丸を船尾方に曳航(えいこう)する白色全周灯1個、舷灯1対及び同じ形態の作業灯各1個を点灯した幸進丸(以下「幸進丸引船列」という。)がおり、その後防波堤入口付近で出会うおそれがある状況であったが、坂岡市丸の灯火が幸進丸の灯火に紛れていたこともあって、船首方を一瞥(いちべつ)して半田防波堤の外側に幸進丸が表示する白灯1個のほか数個の作業灯の明かりを認め、これらの灯火がいつも港内で操業している漁船の明かりであり、いずれ自船の接近に気づいて避けてくれるものと思い、同灯火に対する動静監視を十分に行うことなく、この状況に気づかず、防波堤の外で自船の進路を避けることを促すための警告信号を行うことも、更に接近しても行きあしを減じるなど衝突を避けるための措置もとらないまま、半田防波堤との距離の確認に注意しながら、同じ針路、速力で続航した。
 03時14分半A受審人は、半田灯台から223度30メートルの地点に達し、幸進丸曳船列が点灯した明かりの方位が変わらず160メートルに接近したとき、幸進丸が表示した舷灯と同船船体とを初めて認め、ようやく同船が漁船以外の船舶であり、衝突のおそれがある態勢で互いに接近していることに気づき、急いで機関を中立に落として引き続き全速力後進にかけ、このとき幸進丸が右転したことで同船との衝突を免れたものの、その直後に、同船が曳航していた坂岡市丸の存在に初めて気づいたがどうすることもできず、03時15分半田灯台から146度100メートルの地点において、盛幸丸は、機関後進時のプロペラ放出流の影響で船首が左方に振れて122度を向き、速力が4.0ノットになったとき、その船首が、坂岡市丸の左舷船首に前方から40度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の南東風が吹き、潮侯は下げ潮の初期であった。
 また、幸進丸は、FRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、友人であり海技免状を受有するDを乗せ、航行不能になった坂岡市丸を曳航する目的で、船首0.03メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、同月11日23時45分衣浦港武豊岸壁の北側船だまり奥の係留地を発し、航行中の動力船の灯火を表示して愛知県河和漁港の沖合に向かった。
 これより先B受審人は、D同乗者から、坂岡市丸が自船のロープをプロペラに巻き付けて航行不能になったので曳航して欲しいと、同同乗者の友人である同船船長Cから要請があった旨の連絡を受け、快諾してD同乗者とともに発航に至ったものであった。
 23時55分B受審人は、河和漁港沖合で投錨待機していた坂岡市丸に到着後、C船長が潜水夫等の手配を行うため下船するということで同船長を同漁港まで運んで戻り、その後曳航中に坂岡市丸と連絡が取れるようにD同乗者1人を同船に、また、同船に同乗して終日遊漁を行って疲労していた2人を自船にそれぞれ移乗させ、自船の船尾と坂岡市丸の船首とを直径15ミリメートル長さ約8メートルの合成繊維ロープで接続して全長約28メートルの幸進丸引船列を構成した。
 ところで、幸進丸は、坂岡市丸を曳航するに当たり、通常曳航作業に従事しないので、航行中の曳航船が表示しなければならない灯火を装備していないため、白色全周灯1個及び舷灯1対を表示し、かつ、船舶を引いていることを示すため、自船の船首部、船尾部をそれぞれ照射する12ボルト21ワットの笠付き作業灯各1個を点灯して曳航索を照射したが、坂岡市丸は、他の動力船に引かれていることを示すため、自船に装備した幸進丸と同じ形態の作業灯を利用して曳航索を照射し、船尾灯に代えて白色全周灯1個を点灯したものの、両舷灯を消灯したままであった。
 翌12日01時23分B受審人は、河和漁港南防波堤灯台から041度120メートルの地点を発進し、陸岸の近くには定置網などが多いため、一旦東方に沖出ししたのち北上することとして坂岡市丸を船尾方に引き、港半田大橋の中央ふ頭南地区側付け根にある衣浦港半田1号物揚場に向かった。
 02時19分B受審人は、衣浦港東防波堤西灯台から273度120メートルの地点で、衣浦港東防波堤に並航したとき、針路を005度に定め、機関を微速力前進にかけ、4.0ノットの速力で、手動操舵により進行した。
 03時08分少し過ぎB受審人は、半田灯台から151度890メートルの地点に達したとき、同灯台から半田1号物揚場までの間の航路筋を通航することになるため、同航路筋の右側端に寄るよう小舵角で左回頭を始め、同時13分半少し過ぎ同灯台から132度270メートルの地点で、針路を同灯台の南方約30メートルに向く304度に転じ、同じ速力で続航した。
 転針時にB受審人は、右舷船首2度510メートルのところに、盛幸丸が表示した紅、緑2灯を初めて認め、その後両灯の接近模様から同船と防波堤入口付近で出会うおそれがあることを知ったが、同船を半田1号物揚場から出航する操舵位置の高いタグボートと思い込み、自船も曳航されている坂岡市丸も作業灯を明るく点灯して航路筋の右側端に寄るよう航行しているので、いずれ相手船が幸進丸引船列の灯火に気づいて右転し、互いに左舷を対して航過できるものと思い、防波堤の外で出航する盛幸丸の進路を避けることなく、同じ針路、速力のまま進行した。
 03時14分半B受審人は、半田灯台から138度170メートルの地点に達し、盛幸丸の方位が変わらず160メートルに接近したとき、ようやく衝突のおそれがある態勢で互いに接近していることに気づき、大声を出して手を振って右転を促す合図を行ったが、依然その気配を見せないまま接近するので、衝突の危険を感じて急いで右舵一杯にとり、自船は右転したことで盛幸丸との衝突を免れたものの、船首が043度に向いたとき、坂岡市丸は、その船首が幸進丸に右方に引かれて342度に向き、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、盛幸丸は、船首部及び左舷錨に擦過傷を生じただけであったが、坂岡市丸は、衝突時に盛幸丸が右舷方に乗り切り、曳航索が切断されるとともに船首部が切断されて浸水のうえ沈没し、のち引き揚げられたものの廃船とされ、D同乗者が海中に放り出されたが、幸進丸に救助された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、衣浦港において、入航する幸進丸引船列と出航する盛幸丸とが、防波堤入口付近で出会うおそれがあった際、坂岡市丸を曳航して入航する幸進丸が、防波堤の外で出航する盛幸丸の進路を避けなかったことによって発生したが、盛幸丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、衣浦港において、航行不能の坂岡市丸を曳航して入航中、防波堤入口付近で出会うおそれがある出航中の盛幸丸の灯火を認めた場合、防波堤の外で出航船の進路を避けるべき注意義務があった。ところが、同人は、幸進丸引船列が航路筋の右側端に寄るように航行しているので、いずれ相手船が右転し、互いに左舷を対して航過できるものと思い、防波堤の外で出航する盛幸丸の進路を避けなかった職務上の過失により、原針路、原速力のまま進行し、衝突直前に右転して幸進丸は衝突を免れたものの、曳航中の坂岡市丸と盛幸丸との衝突を招き、盛幸丸の船首部及び左舷錨に擦過傷を生じさせ、坂岡市丸の船首部を切断して浸水のうえ沈没させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、夜間、衣浦港において、航路筋を防波堤入口に向けて出航中、前路に幸進丸の灯火を認めた場合、同灯火に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、幸進丸の灯火が防波堤の外で操業する漁船の明かりであり、いずれ自船の接近に気づいて避けてくれるものと思い、幸進丸の灯火に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船と防波堤入口付近で出会うおそれがある態勢で接近している状況に気づかず、防波堤の外で自船の進路を避けることを促すための警告信号を行うことも、更に接近しても行きあしを減じるなど衝突を避けるための措置もとらないまま進行して幸進丸が曳航していた坂岡市丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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