(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年10月6日06時50分
茨城県大津岬南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船俵丸 |
漁船大眞丸 |
総トン数 |
4.9トン |
1.15トン |
全長 |
18.05メートル |
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登録長 |
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5.54メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
404キロワット |
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漁船法馬力数 |
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25 |
3 事実の経過
俵丸は、機船船びき網漁業に従事する船体中央部船尾寄りに操舵室を設けたFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、しらすひき網漁の目的で、船首0.5メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、平成12年10月6日05時30分茨城県大津漁港を発し、大津岬南西方沖合の漁場に向かった。
ところで、A受審人は、毎年2月から12月にかけて主にしらすひき網漁に従事し、福島県小名浜港沖合から茨城県沖合にかけての、底質が砂地で水深20メートル以浅の海域を漁場としていた。また、同受審人は、操舵室の屋根後端上部に舵輪と主機遠隔操縦ハンドルを増設し、踏み台の上に立って同室の天井から顔を出して見張りと操船に当たっていたが、その姿勢のままでも操舵室の天井後部に設けた凹状の切込部を通して同室内前部に備えていたレーダー、GPSプロッター及び魚群探知器を見ることができた。
A受審人は、茨城県小野矢指沖合で当日第1回目の操業を行ったのち、魚群探索のためいったん南下して高戸鼻沖合に至ったものの、芳しい魚群反応が得られなかったことから、反転して大津岬南西方2.5海里の海底に存在する根と称する東西幅約200メートル南北幅約100メートルの岩場に向かうこととし、06時35分半大津岬灯台から218.5度(真方位、以下同じ。)5.4海里の地点で、針路を陸岸に沿う024度に定め、機関を前進にかけて15.0ノットの対地速力で手動操舵により北上した。
06時47分A受審人は、大津岬灯台から215度2.4海里に当たる根の西端部に達したとき、左舷船首3度800メートルのところに大眞丸を視認できる状況にあったが、周囲を一瞥(いちべつ)しただけで、北東方1海里のところに視認した数隻の僚船以外に他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかったので大眞丸に気付かず、魚群探知器の画面に目を移して魚群探索を再開するとともに、10.0ノットに減速して根の縁に沿うようにゆっくりと右転を開始した。
06時49分わずか過ぎA受審人は、魚群反応を探知することができないまま根を一周してその西端部付近に戻ったので、引き続き魚群探索を行いながら前示僚船の近くに移動することとし、針路を045度に再び定め、再び15.0ノットに増速した。このため、同受審人は、大眞丸を左舷船首11度500メートルのところに見る状況となり、それまで自船の東方を無難に航過する態勢であった大眞丸に対して新たな衝突のおそれを生じさせたものの、依然として魚群探索に気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかったのでこのことに気付かず、直ちに右転するなど衝突を避けるための措置をとらないまま同じ針路、速力で進行中、06時50分大津岬灯台から214度2.25海里の地点において、俵丸は、その船首が大眞丸の右舷前部に前方から45度の角度で衝突し、同船を乗り切った。
当時、天候は曇で風力3の北東風が吹き、視界は良好であった。
A受審人は、不意の衝撃に驚き、機関を中立回転として船尾方を振り返ったとき、初めて大眞丸を認めて同船との衝突に気付き、事後の措置に当たった。
また、大眞丸は、ひらめ曳釣漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.10メートル船尾0.35メートルの喫水をもって、同日05時50分福島県勿来漁港を発し、大津岬南西方沖合の漁場に向かった。
ところで、B受審人は、底質が岩場に続いた砂地で水深約20メートルの海域を漁場とし、漁具として長さ約30メートルの曳縄に縦35センチメートル横18センチメートルの潜航板を取り付け、同板に釣り針をつけた長さ4メートル及び5メートルの釣り糸を1本づつ結んで船尾から投入し、同板が海底から約1メートル上方に位置するように約5ノットの速力で曳釣りをしていた。
B受審人は、06時20分大津岬灯台から236度1.5海里の地点で、機関を中立回転として操業の準備に取り掛かり、同時38分同地点を発進し、針路を180度に定め、機関を前進にかけて5.0ノットの対地速力で手動操舵により操業を開始した。
B受審人は、沖に向かうしらすひき網漁の漁船数隻が自船の前後を替わして行くのを認めながら南下中、06時47分大津岬灯台から218度2.0海里の地点に達したとき、右舷船首21度800メートルのところに北上してきた俵丸を初めて認め、その後同船が減速してゆっくりと右転を始めたので、経験により根の西端部付近からその縁に沿ってしらすひき網漁の魚群探索を行っていることに気付き、このまま俵丸の東方を無難に航過するつもりで進行した。
06時49分わずか過ぎB受審人は、大津岬灯台から215度2.2海里の地点において、俵丸を右舷船首34度500メートルのところに視認したとき、同船が自船の前路に向けて定針し、さらに煙突から勢いよく煙が上がったのを見て増速したことを知り、自船に対して新たな衝突のおそれを生じさせたことに気付いたが、それまでは他船が操業中の自船を替わしてくれていたことから、いずれ俵丸も同様に替わすものと思い、右転するなど衝突を避けるための措置をとることなく続航した。
B受審人は、06時50分わずか前俵丸が避航の気配を示さないまま右舷前方100メートルのところに接近していることを認め、立ち上がって大声で叫んだが及ばず、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、俵丸は、船首及び船底外板に擦過傷を生じたが、のち修理され、大眞丸は、前部外板に損傷を生じて沈没し、のち引き上げられたが廃船処理された。また、B受審人は、衝突直前に海中に飛び込み、その後俵丸に救助された。
(原因)
本件衝突は、茨城県大津岬南西方沖合において、魚群探索をしながら北上中の俵丸が、見張り不十分で、無難に航過する態勢で操業しながら南下中の大眞丸に対して新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、大眞丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、茨城県大津岬南西方沖合において魚群探索を行う場合、接近する大眞丸を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、周囲を一瞥しただけで遠くに認めた僚船以外に他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、無難に航過する態勢の大眞丸に対して新たな衝突のおそれを生じさせたことに気付かず、右転するなど衝突を避けるための措置をとらないまま進行して同船との衝突を招き、俵丸の船首及び船底外板に擦過傷を生じさせ、大眞丸の前部外板に損傷を生じさせて沈没させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、茨城県大津岬南西方沖合において操業中、俵丸が新たな衝突のおそれを生じさせたことを認めた場合、右転するなどして衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、それまで他船が操業中の自船を替わしてくれていたことから、いずれ俵丸も替わすものと思い、衝突を避けるための措置をとることなく進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。