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平成12年横審第65号
件名

漁船第二十一大徳丸
押船1こんごう丸被押バージ2001松山丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年9月5日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(葉山忠雄、黒岩 貢、長谷川峯清)

理事官
供田仁男

受審人
A 職名:第二十一大徳丸一等航海士兼漁撈長 海技免状:六級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:1こんごう丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
大徳丸・・・右舷船首外板に亀裂、一等航海士が右肋骨を骨折
こんごう丸・・・損傷ない
松山丸・・・右舷船首部外板に凹損

原因
大徳丸・・・動静監視不十分、船員の常務(新たな危険)不遵守(主因)
こんごう丸・・・警告信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、第二十一大徳丸が、動静監視不十分で、1こんごう丸被押バージ2001松山丸に対して新たな衝突のおそれを生じさせたことによって発生したが、1こんごう丸被押バージ2001松山丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成10年3月30日15時20分
 千葉県銚子港

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十一大徳丸
総トン数 65トン
全長 29.05メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット

船種船名 押船1こんごう丸 バージ2001松山丸
総トン数 19トン  
積トン数 3,400トン  
全長 13.50メートル 62.00メートル
  16.00メートル
深さ   5.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 882キロワット  

3 事実の経過
 第二十一大徳丸(以下「大徳丸」という。)は、鋼製沖合底びき網漁船で、A受審人、船長Cほか5人が乗り組み、犬吠埼沖合においての操業を終え、銚子港西防波堤灯台(以下、港湾施設及び航路標識の名称については「銚子港」の冠称は省略する。)から151度(真方位、以下同じ。)530メートルの第2ふ頭東岸壁に接岸して漁獲物の水揚げをしたのち、船首1.6メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、平成10年3月30日15時18分半同岸壁を離岸し、銚子港内の内浜町の係留地に向かった。
 A受審人は、乗組員全員を甲板整理作業につけ、自ら操舵操船に当たり、15時19分少し過ぎ西防波堤灯台から149度540メートルの地点に達し、前方に係留中の同型船をほぼ船幅に離したとき、針路を012度に定め、機関を5.0ノットの微速力前進として進行した。
 そのころA受審人は、左舷船首28度150メートルに第2ふ頭上の建造物の陰から現れた、1こんごう丸(以下「こんごう丸」という。)被押バージ2001松山丸(以下「松山丸」といい、両船を総称するときには「こんごう丸押船列」という。)の船首部を初認し、一瞥して、その船形から港口を向いて引かれているか、停留している船舶と思って、こんごう丸押船列と第2ふ頭北側岸壁との間を通航することとし、その後、同押船列から目を離して同岸壁にいる釣り人の出す釣り竿に注意しながら続航したため、こんごう丸押船列が港奥に向け航行中で、自船がその前路を無難に航過する態勢にあることに気付かなかった。
 15時19分半少し過ぎ、A受審人は、西防波堤灯台から143度490メートルの地点に至り、針路を第2ふ頭北側岸壁面にほぼ並行となる285度とする転針地点に達しても、依然、前示釣り竿に気をとられ、こんごう丸押船列に対する動静監視を十分に行っていなかったので、そのころ同押船列の船首部が左舷船首43度70メートルに接近していることに気付かず、釣り竿に近づかないよう、小舵角の左舵をとって回頭を始めたところ、無難に航過する態勢にあったこんごう丸押船列に対して新たな衝突のおそれのある関係を生じさせることとなった。
 A受審人は、15時20分少し前、西防波堤灯台から142度480メートルの地点で、こんごう丸押船列の進路線上に達しても、依然、その接近に気付かないで回頭中、同時20分わずか前、右舷船首至近に迫った松山丸を見て、急ぎ左舵一杯としたが、効なく、15時20分西防波堤灯台から142度440メートルの地点において、大徳丸は、原速力のまま270度を向いたとき、その右舷船首が松山丸の右舷船首部に、後方から53度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期であった。
 A受審人は、衝突の衝撃で上半身を強打したが機関を停止とし、C船長に操舵を任せて操舵室内で休息するうち、大徳丸は、同港内の新地町の岸壁に係留された。
 また、こんごう丸は、二基二軸を備えた鋼製押船で、東防波堤の内側海面において、浚渫土を積載したバージを押航する浚渫作業に従事していたところ、B受審人が単独で乗り組み、その船首部を、約2,700トンの浚渫土砂を積載して船首尾とも4.0メートルの等喫水となった、松山丸の船尾に結合して全長75.5メートルの押船列を形成し、船首0.3メートル船尾1.4メートルの喫水をもって、同日15時10分西防波堤灯台から105度195メートルの地点で作業中の浚渫船第一金剛丸の左舷側を離れ、同港港奥で待機している揚土船に向かった。
 ところで、B受審人は、押航時には、松山丸の甲板上構造物によりこうごう丸の操舵室から前方の見通しが困難であることから、同船の操舵室天井に脚立を括りつけて足場とした操舵場所を設け、ここに立って前方の見通しを改善した状態で、操舵室から遠隔操舵用コードを延ばして操船に当たっていた。
 こうして、B受審人は、離舷後、一旦北西に向かい、西防波堤灯台の東方約80メートルの海面で舵と機関とを種々に使用して船首が港奥に向くよう反転し、15時16分半少し過ぎ西防波堤灯台から140度180メートル(以下、こうごう丸押船列に関わる地点については、こんごう丸の操舵室の地点である。)で、針路を143度に定め、2.0ノットの押航速力とし、第一金剛丸の甲板員1人をこんごう丸押船列の船首に立たせ、前方の見張りに当たらせて進行した。
 B受審人は、15時19分少し過ぎ西防波堤灯台から141度330メートルの地点に達したとき、大徳丸を認めた同甲板員から手信号で合図を受け、第2ふ頭方向を見たところ右舷船首15度210メートルに同ふ頭上の建造物の陰から現れて港口に向かう同船を初認し、船首方を左方に替わる態勢であり、また、平素同ふ頭から出航する漁船は自船の前路を左方に横切ったのちに左転するから、このままでも無難に左舷を対して航過するものと判断して続航した。
 15時19分半少し過ぎB受審人は、西防波堤灯台から141度360メートルの地点に至ったとき、大徳丸が右舷船首4度135メートルのところで左転を始め、新たな衝突のおそれを生じさせながらこんごう丸押船列に接近するのを認めたが、そのうち大徳丸が同押船列に気付いて衝突を避けるための動作をとるものと思い、警告信号を行うことなく進行中、同時20分わずか前、大徳丸が更に左転したのを見て衝突する危険を感じ、機関を全速力後進に掛けたものの、効なく、こんごう丸押船列は、同針路、わずかの前進行きあしで、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、大徳丸は右舷船首外板に亀裂を生じ、こんごう丸は損傷はなく、松山丸は右舷船首部外板に凹損を生じたが、のちいずれも修理された。また、A受審人が右肋骨を骨折した。

(原因)
 本件衝突は、千葉県銚子港において、第2ふ頭を離岸して北上中の大徳丸が、動静監視不十分で、無難に航過する態勢にあったこんごう丸押船列に対して新たな衝突のおそれを生じさせたことによって発生したが、港奥に向け南下中のこんごう丸押船列が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、千葉県銚子港において、第2ふ頭を離岸して係留地に向かう場合、左舷船首方に認めたこんごう丸押船列と接近することとなるかどうかを判断できるよう、同押船列に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、岸壁から出ている釣り竿に気をとられ、こんごう丸押船列に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同押船列の接近に気付かないまま回頭を始め、無難に航過する態勢にあったこんごう丸押船列に対して新たな衝突のおそれを生じさせ、同押船列との衝突を招き、大徳丸の右舷船首外板に亀裂を、松山丸の右舷船首部外板に凹損をそれぞれ生じさせ、自らは右肋骨を骨折するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、千葉県銚子港において、港奥の揚土船に向け南下中、前路を無難に航過する態勢の大徳丸が左転を始め、新たな衝突のおそれを生じさせながらこんごう丸押船列に接近するのを認めた場合、大徳丸に衝突を避けるための動作をとることを促すよう、警告信号を行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、そのうち大徳丸が気付いて衝突を避けるための動作をとるものと思い、警告信号を行わなかった職務上の過失により、大徳丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるとともに、A受審人に右肋骨を骨折させる事態に至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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