(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年12月24日02時35分
青森県尻屋埼南南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第三十七幸栄丸 |
漁船第八正進丸 |
総トン数 |
499トン |
125トン |
全長 |
76.14メートル |
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登録長 |
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31.05メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,176キロワット |
735キッロワット |
3 事実の経過
第三十七幸栄丸(以下「幸栄丸」という。)は、主として鋼材を運搬する船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長C及びA受審人ほか3人が乗り組み、鋼材900トンを載せ、平成11年12月22日10時00分宮城県石巻港を出航して北海道苫小牧港に向かっていたところ、荒天に遭遇したので避難するため、翌23日02時20分青森県八戸港内の八戸港外港中央防波堤北灯台(以下「八戸港北灯台」という。)から181度(真方位、以下同じ。)1,500メートルばかりの地点に投錨仮泊した後、船首2.85メートル船尾3.80メートルの喫水をもって、同日23時00分同地点を発し、苫小牧港に向かった。
C船長は、船橋当直を自らとA受審人及び一等航海士の3直4時間交代の単独当直制として、出航時より航行中の動力船の灯火を表示して船橋当直に当たり、23時40分三沢港内東防波堤灯台から073度4.2海里の地点で、昇橋してきたA受審人に、視界が悪くなってきたとき、あるいは、不安を感じたときには報告するよう指示して同当直を交代し、降橋して自室で休息した。
A受審人は、船橋当直に就いたとき、針路を001度に定め、機関を全速力前進として11.0ノットの対地速力で、自動操舵によって進行した。
A受審人は、舵輪を前にして立った状態で船橋当直に当たって、折からの南西風によりわずかに右方に圧流されながら続航し、翌24日00時35分陸奥塩釜灯台から058度7.2海里の地点に達したとき、6海里レンジとしたレーダーで右舷船尾4度4.0海里のところに第八正進丸(以下「正進丸」という。)の映像を初めて認め、01時35分白糠港焼山北防波堤灯台から114度7.2海里の地点において、同船との距離が2.0海里となり、同船の白、紅2灯を視認できるようになるとともに、自船を追い越す態勢で正進丸が接近していることを知った。
A受審人は、02時25分尻屋埼灯台から165度14.0海里の地点に達したとき、正進丸が正船尾少し右方600メートルのところに衝突のおそれのある態勢で更に接近していたが、後方から接近する同船が避航動作をとるものと思い、警告信号を行わないまま進行した。
A受審人は、02時34分正進丸が近距離となったが、速やかに針路を大きく左に転ずるなど衝突を避けるための協力動作をとらないまま続航中、02時35分わずか前自動操舵のまま左舵をとったが及ばず、02時35分尻屋埼灯台から162度12.3海里の地点において、幸栄丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船尾に正進丸の左舷船首がほぼ平行に衝突した。
当時、天候は晴で風力4の南西風が吹き、視界は良好であった。
C船長は、自室で就寝中、衝撃で衝突したことを知り、急いで昇橋して事後の措置に当たった。
また、正進丸は、沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、B受審人ほか13人が乗り組み、操業の目的で、船首2.5メートル船尾3.7メートルの喫水をもって、同月23日23時15分八戸港を発し、尻屋埼北方沖合の漁場に向かった。
B受審人は、出航時より1人で操舵操船に当たり、航行中の動力船の灯火を表示するとともに後部マストの作業灯3個を点灯して港内を航行し、23時30分八戸港北灯台から320度400メートルの地点で、針路を000度に定め、機関を全速力前進にかけて13.0ノットの対地速力で、自動操舵によって進行した。
B受審人は、操舵室内を左右に移動したり、時折同室後部中央のいすに腰掛けたりして見張りに当たり、翌24日01時17分むつ小川原港新納屋南防波堤灯台から076度6.6海里の地点に達したとき、3海里レンジとしたレーダーで左舷船首3度2.6海里のところに幸栄丸の映像を初めて認め、折からの南西風によりわずかに右方に圧流されながら続航した。
B受審人は、02時20分幸栄丸との距離が0.5海里までに接近して、自船が同船を追い越す態勢であることを知り、同時25分尻屋埼灯台から165度14.3海里の地点に達したとき、更に幸栄丸が正船首少し左方600メートルとなり、衝突のおそれのある態勢で接近していたが、まだ同船までの距離は十分あるので大丈夫と思い、衝突のおそれの有無を判断できるよう、動静監視を十分に行わないまま進行した。
B受審人は、針路を右に転ずるなど幸栄丸の進路を避けることなく、同じ針路、速力で続航中、02時35分わずか前同船の船尾灯を左舷船首至近に視認し、操舵を手動に切替えて右舵10度をとり、機関を微速力前進としたが及ばず、正進丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、幸栄丸は右舷船尾部外板及びブルワークに凹損を、同部ハンドレールに曲損を生じ、正進丸は左舷船首部外板に凹損を生じたが、のち幸栄丸は修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、尻屋埼南南東方沖合において、幸栄丸を追い越す正進丸が、動静監視不十分で、その進路を避けなかったことによって発生したが、幸栄丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、尻屋埼南南東方沖合を北上中、幸栄丸を追い越す態勢になったのを認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、幸栄丸までの距離が十分あるので大丈夫と思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのある態勢となったことに気付かないまま航行を続け、同船との衝突を招き、幸栄丸の右舷船尾部外板及びブルワークに凹損を、同部ハンドレールに曲損をそれぞれ生じさせ、正進丸の左舷船首部外板に凹損を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、尻屋埼南南東方沖合を北上中、後方の正進丸が、衝突のおそれのある態勢のまま自船の間近に接近するのを認めた場合、速やかに針路を大きく左に転ずるなど衝突を避けるための協力動作とるべき注意義務があった。しかるに、同人は、正進丸が自船の進路を避けてくれるものと思い、衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、両船に前示のとおりの損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。