(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年4月18日16時15分
長崎県長崎オランダ村ウィレムスタッド桟橋
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船アメリア |
総トン数 |
414トン |
全長 |
40.36メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット2基 |
3 事実の経過
アメリアは、長崎県大村湾内において、佐世保市ハウステンボス町と長崎県長崎オランダ村間の航程6.1海里を所要時間40分の定期運航に従事し、推進器2基を有する軽合金製の前部船橋型双胴旅客船で、A受審人ほか2人が乗り組み、旅客2人及び同乗者2人を乗せ、船首1.9メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成12年4月18日15時40分ハウステンボス町の桟橋を発し、長崎オランダ村ウィレムスタッド桟橋に向かった。
ところで、ウィレムスタッド桟橋は、大村湾北西部の大串湾奧部に位置し、同桟橋まではその入口から南方約600メートルまで可航幅約100メートルの水路を経由して至り、同桟橋は南北に延びる入江東岸に沿って構築され、その長さは52メートルで、桟橋北端から更に長さ60メートル幅10メートルの浮き桟橋が延長してあった。
桟橋の中央部には縦2.0メートル横4.0メートルのフェンダーが14メートルの間隔で水面上2メートル突き出して2基設けられ、フェンダー間には長さ4.6メートル幅1.0メートルの可動式鋼製乗下船用の渡し板(以下「昇降装置」という。)が設置され、アメリアは左舷入り船付けで着桟することになっていた。
アメリアの運航中止基準は、風速15毎秒メートル(以下「毎秒」を省略する。)以上と定められていたが、水面上構造物側面投影面積が水面下船側投影面積の約2.5倍あって、漂泊中に正横からの風速10メートルの風を受けると1秒間に0.6メートルの速さで横移動するため、桟橋に向かって吹く強い南西風があるときの着桟操船において、風の圧流に対して厳重な注意が必要であった。
また、A受審人は、南西風が、平島の島影となる桟橋北端に達するまでは湾外の半分程度まで減衰し、桟橋付近に差し掛かると再び桟橋の南西側に拡延する入江から吹き抜けて強くなることをこれまでの経験から承知し、同人は、通常の桟橋への着桟操船として、船首が浮き桟橋の北端に並ぶころその距離を7メートルとして左舷機のみを使用して5ノットの速力で進行し、桟橋南側フェンダーと船首が並ぶころその距離を約2メートルとし、3ノットの速力から右舷機を半速力後進にかけて船体を桟橋と平行として行きあしを止め、前後位置を調整しながら係留索により桟橋に引き寄せることにしていた。
16時10分A受審人は、目的地の着桟位置から250メートル手前の大串湾南部三島島頂の三角点から107度(真方位、以下同じ。)820メートルの地点に達し、針路を桟橋南側フェンダーに向く144度の針路に定め、機関を6ノットの微速力前進から中立とし、乗組員を船首と船尾に配置し、操舵場所を桟橋側左舷ウィングに移動して遠隔による手動操舵により惰力で進行した。
定針時にA受審人は、桟橋北端に差し掛かったころから南西風が増勢して圧流されるおそれがあったが、南西風を考慮して通常の船首が桟橋南側フェンダーから1メートル余計に離れた位置で船体を桟橋に平行にして姿勢制御すれば良いと思い、風の増勢に備えて桟橋から遠ざかった位置で行きあしを止めてフェンダーとの前後位置を調整し、余裕のある船体姿勢制御ができるよう、圧流に対して十分に配慮しなかった。
16時14分A受審人は、通常どおり着桟位置から100メートル手前の船首が浮き桟橋の北端部に7メートルの距離で並んだころから、船体が桟橋と平行となるよう、右舷機を中立のまま、左舷機を極微速力前進にかけて舵を中央とし、6ノットの対地速力で進行した。
16時15分わずか前A受審人は、船首が南側フェンダーに並んで同フェンダーから3メートル離れた位置において、3ノットの対地速力で続航していたとき、南西風が強くなって船首が急激に圧流され始めたことから、桟橋との衝突を避けるために両舷機とも全速力後進にかけたが、船体と桟橋の距離に余裕がなく、16時15分三島島頂から116度1,050メートルの地点において、船首尾線と桟橋方位線との交角が20度となったとき、1ノットの前進行きあしで右舷船首が桟橋から1メートル突き出した昇降装置の先端に衝突した。
当時、天候は晴で風力4の南西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
衝突の結果、左舷船首に破口を生じ、桟橋の昇降装置のハンドレールに曲損を生じたが、のちそれぞれ修理された。
(原因)
本件桟橋衝突は、強風下、長崎県長崎オランダ村において着桟する際、圧流に対する配慮が不十分で、十分離れたところから桟橋に寄せるなどの措置をとらなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、強風下の長崎県長崎オランダ村において着桟する場合、増勢する風に備えて十分余裕のある船体姿勢制御ができるよう、十分離れたところから桟橋に寄せるなど圧流に対して十分に配慮する注意義務があった。しかしながら、同人は、桟橋から通常より1メートル余計に離れていれば姿勢制御ができると思い、圧流に対して十分に配慮しなかった職務上の過失により、桟橋と船体との距離に余裕がなく、船体の姿勢制御ができずに桟橋の昇降装置との衝突を招き、左舷船首に破口及び桟橋昇降装置のハンドレールを曲損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。