(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年7月18日18時50分
山口県萩港西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
遊漁船真漁丸 |
漁船寿丸 |
総トン数 |
4.8トン |
2.94トン |
全長 |
14.72メートル |
11.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
264キロワット |
|
漁船法馬力数 |
|
15 |
3 事実の経過
真漁丸は、FRP製遊漁兼用船で、A受審人が1人で乗り組み、いか釣りの目的で釣り客5人を乗せ、船首尾とも0.3メートルの喫水をもって、平成11年7月18日18時40分山口県萩港内の、萩港浜崎北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から154度(真方位、以下同じ。)300メートルばかりの定係地を発し、同港北西方の相島付近の釣り場に向かった。
18時42分半A受審人は、北防波堤灯台を左舷側に数メートル離して航過したとき、針路を相島の少し西側に向く296度に定め、日没後暗くなる前に釣り場に着くため機関を全速力前進にかけ、20.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
ところで、真漁丸は、高速力で航行すると船首部が浮上し、A受審人が操舵室内で立って操舵に当たる場合も、船首構造物により船首方向左右約17度に渡り死角を生じる状態であったうえ、使用していたレーダーの調子が悪く、肉眼で認めることができる小型船舶の映像が、しばしばレーダー画面上に映らないことも経験していた。
18時48分A受審人は、北防波堤灯台から296度1.8海里の地点に達したとき、正船首方向1,250メートルのところに漂泊している寿丸を視認でき、その後同船の方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢で急速に接近する状況となったが、定針時に相島の方を見渡して他船を認めることができなかったうえ、その後も1.5海里レンジに設定したレーダー画面上に他船の映像を認めなかったことから、前路に他船はいないものと思い、船首を左右に振るように操舵するなど、死角を補う十分な見張りを行わないで、このことに気付かなかった。
こうしてA受審人は、前路の寿丸を避けずに続航中、18時50分北防波堤灯台から296度2.5海里の地点において、真漁丸は、原針路、原速力のまま、その船首が寿丸の左舷船首部に、前方から35度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で、風力1の北東風が吹き、潮候は下げ潮の末期にあたり、視界は良好で、日没時刻は19時26分であった。
また、寿丸は、FRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、底引き網漁を行う目的で、船首0.3メートル船尾1.4メートルの喫水をもって、同日18時20分北防波堤灯台から145度600メートルの、萩港内鶴江地区係留地を発し、同時40分前示衝突地点付近に至って機関を中立とし、船首を151度に向けた状態で漂泊して曳網の準備作業にかかった。
B受審人は、漂泊した海域が萩港へ入出港する漁船等が多く航行するところであったが、周囲の状況を確認して、自船の南方500メートルばかりに僚船が1隻漂泊していただけで、他に航行船がいなかったので安心し、操舵室前部の甲板において、漁具に付ける重りの調整など、曳網の準備作業を行った。
18時48分B受審人は、左舷船首35度1,250メートルのところに、自船に向首して来航する真漁丸を視認でき、その後も避航の気配を見せないまま衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、準備作業に気を奪われて周囲の見張りを十分に行うことなく、同船に気付かず、機関を使用するなど衝突を避けるための措置をとらないで漂泊中、同時50分わずか前、真漁丸の機関音を聞いて顔を上げ、近くに迫った同船を初めて認め、操舵室に駆け戻って機関を後進としたが及ばず、船首を151度に向けた状態のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、真漁丸は右舷船首部に小破口を伴う凹傷を生じ、のち修理され、寿丸は左舷船首部にくさび状破口を生じて転覆し、のち廃船とされ、B受審人は大腿部及び顔面に打撲傷を負った。
(原因)
本件衝突は、山口県萩港西方沖合を西行中の真漁丸が、見張り不十分で、漂泊中の寿丸を避けなかったことによって発生したが、寿丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、装備しているレーダーの性能に信頼がおけない状況のもと、単独で船橋当直に就いて山口県萩港西方沖合を西行する場合、高速力で航行すると船首部の浮上により、船首方向に死角を生じて前方の見張りが妨げられる状態であったから、前路で漂泊中の他船を見落とすことがないよう、船首を左右に振るように操舵するなど、死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、定針時に前方を見渡して他船を認めなかったうえ、その後もレーダーで他船の映像を認めなかったことから、前路に他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、漂泊中の寿丸に衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、真漁丸の船首部に小破口を伴う凹傷を生じさせ、寿丸の左舷船首部にくさび状破口を生じて転覆させ、同船を廃船にさせたほか、B受審人の大腿部及び顔面に打撲傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、山口県萩港西方沖合において、漂泊して底引き網漁の準備作業を行う場合、付近は萩港に入出港する漁船等が多く航行する海域であったから、衝突のおそれがある態勢で接近する他船を見落とすことがないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、操業準備に気を奪われて周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する真漁丸に気付かず、機関を使用するなど、同船との衝突を避けるための措置をとらないで漂泊を続けて衝突を招き、両船に前示のとおりの損傷を生じさせ、自らも大腿部及び顔面に打撲傷を負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。