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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成13年広審第3号
件名

漁船砂吉丸プレジャーボート卑弥呼衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年8月30日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(横須賀勇一、竹内伸二、中谷啓二)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:砂吉丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士(5トン限定)
B 職名:卑弥呼船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
砂吉丸・・・船首部に擦過傷
卑弥呼・・・左舷後部に破口

原因
砂吉丸・・・見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
卑弥呼・・・注意喚起信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、砂吉丸が、見張り不十分で、帆走中の卑弥呼の進路を避けなかったことによって発生したが、卑弥呼が、有効な音響信号装置の準備が不十分で、避航を促す信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年6月25日13時20分
 日本海 鳥取県鳥取港北方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船砂吉丸 プレジャーボート卑弥呼
総トン数 4.98トン  
全長   7.40メートル
登録長 11.70メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力   5キロワット
漁船法馬力数 50  

3 事実の経過
 砂吉丸は、船橋内及び船橋後部入口の左舷側の2箇所に機関操縦ハンドル及び舵輪を有するFRP製の漁船で、小型底引き網漁業に従事し、A受審人が単独で乗り組み、船首1.3メートル船尾1.9メートルの喫水をもって、操業の目的で、平成12年6月25日13時ごろ鳥取港内の漁船だまりを発し、同港北方沖合約3海里の漁場に向かった。
 A受審人は、13時13分鳥取港灯台から044度(真方位、以下同じ。)1,250メートルの地点に達し、鳥取港第1防波堤を替わったとき、針路を漁場に向けて016度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて13.0ノットの対地速力で進行した。このとき、船橋後部入口左舷側甲板上に立って操船にあたり、左舷前方を先行する僚船を認めていたものの周囲を一瞥しただけで、その後、船橋内に入り操船操舵にあたりながら左舷側壁に設置されたGPSプロッターにより、操業開始地点の検討を開始した。
 13時17分A受審人は、鳥取港灯台から027度1.6海里の地点に達したとき、右舷船首4度1,300メートルのところに帆走中の卑弥呼を視認することができ、その後、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったものの、左舷前方の僚船以外付近に他船はいないものと思い、GPSプロッターの操作に専念し、前路の見張りを十分に行わなかったので、これに気付かず続航した。
 13時19分A受審人は、同方位400メートルに接近した卑弥呼に、依然、気付かず、同艇の進路を避けないまま進行中、13時20分鳥取港灯台から024度2.2海里の地点において、砂吉丸は同じ針路、速力のまま、その船首が卑弥呼の左舷後部に前方から59度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の南風が吹き、視界は良好であった。
 また、卑弥呼は、船尾甲板上で舵柄により操舵する高さ8.1メートルのマスト1本を備えたFRP製ヨットで、B受審人が1人で乗り組み、友人1人を乗せて帆走の目的で、1.6メートルの最大喫水をもって、同月25日09時ごろ鳥取港内のマリーナを発し、同港沖合に向かった。
 ところで、B受審人は、発航に先立ち、同艇の右舷船尾甲板上に取り付けていた号鐘の打ち子が外れていたので、それに替わる有効な音響信号手段としてハンディータイプの拡声器兼用のサイレンを用いることとしたものの、帆走中は、航行中の動力船の方で避けてくれるので、同サイレンは視界不良時に使用できればよいと思い、船室内の物入れに格納したままにし、舵柄を操作しながらでも、衝突のおそれがある態勢で接近する航行中の動力船に対し、速やかに避航を促す信号を行うことができるよう、同サイレンを手元に置くなど、有効な音響信号装置の準備を十分に行わなかった。
 13時13分B受審人は、鳥取港灯台から027度2.3海里の地点に達したとき、左舷後部の甲板上で舵柄を操作し、針路を長尾鼻灯台に向けて255度に定め、メインセール及びジブセールを展帆して左舷開きとし、弱い南風を受けて1.0ノットの対地速力で進行した。
 こうして帆走中、13時15分B受審人は、左舷船首55度1.2海里のところに、前路に向けて北上する砂吉丸を初認し、同時17分1,300メートルのところに接近した同船が、その後、その方位に明確な変化のないまま衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め、自船が帆走中で速力も遅いので、そのうち動力船である砂吉丸が進路を避けるものと見守るうち、同時19分半、依然、同船が避航の気配のないまま200メートルに接近し、衝突の危険を感じて避航を促す信号をしようとしたが、手元にサイレンがなく、舵柄を操作していたので艇座を離れて格納していたサイレンを取り出せず、速やかに避航を促す信号を行うことができないまま、同乗者に手で合図させて進行中、至近に迫った砂吉丸を見て、あわてて船首方へ逃げた直後、卑弥呼は、同じ針路、速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、砂吉丸の船首部に擦過傷を生じ、卑弥呼は、左舷後部に破口を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、鳥取港北方沖合において、砂吉丸が、見張り不十分で、帆走中の卑弥呼の進路を避けなかったことによって発生したが、卑弥呼が、有効な音響信号装置の準備不十分で、接近する砂吉丸に対して避航を促す信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人が、鳥取港北方沖合において、漁場に向かって航行する場合、帆走中の卑弥呼を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、操業開始地点の検討のためGPSプロッター操作に専念し、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、帆走中の卑弥呼の進路を避けないまま進行して衝突を招き、卑弥呼の左舷後部に破口を、砂吉丸の船首部に擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、帆走のため鳥取港北方沖合に向けて発航する場合、帆走中操舵から離れることができなかったのだから自船を避航しないで接近する動力船に対し、速やかに避航を促す信号を行うことができるよう、備え付けのサイレンを手元に置くなど有効な音響信号装置の準備を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、動力船の方で避けてくれるのでサイレンは視界不良時に使用できればよいと思い、船室内の物入れに格納したままにし、有効な音響信号装置の準備を十分に行わなかった職務上の過失により、避航動作をとらないで接近する砂吉丸に対して有効な音響信号で警告することができず、同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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