(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年10月17日06時42分
高知県足摺岬東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船福栄丸 |
漁船弁天丸 |
総トン数 |
195トン |
4.4トン |
登録長 |
50.26メートル |
9.9メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
404キロワット |
114キロワット |
3 事実の経過
福栄丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、石炭灰647トンを載せ、船首2.73メートル船尾3.97メートルの喫水をもって、平成11年10月16日14時40分広島県竹原港を発し、豊後水道経由で高知県須崎港へ向かった。
翌17日06時29分A受審人は、単独の船橋当直にあたり、足摺岬灯台から126度(真方位、以下同じ。)1.8海里の地点で、針路を022度に定め、機関をほぼ全速力前進にかけ、10.1ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で自動操舵により進行した。
06時38分A受審人は、足摺岬灯台から079度2.1海里の地点に達したとき、左舷船首17度1,750メートルのところに、南下中の弁天丸を視認できる状況であったが、先航する他船を追い越すことに気を取られ、左舷方の見張りを十分に行わなかったので、弁天丸の存在に気付かなかった。
こうして、A受審人は、弁天丸が前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき衝突を避けるための協力動作をとることもしないで続航し、06時42分足摺岬灯台から065度2.5海里の地点において、福栄丸は、原針路原速力のまま、その船首部が弁天丸の右舷船首部に前方から53度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の西北西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
また、弁天丸は、一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、かつお漁の目的で、船首0.7メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同月17日05時30分高知県下ノ加江漁港を発し、同港南東方沖合14海里の漁場へ向かった。
B受審人は、機関を回転数毎分1,600にかけ、7ないし8ノットの速力とし、高知県窪津漁港沖合の数隻の漁船を種々に替わしたのち、目的漁場に着くまで引き縄漁を行うこととし、その準備のため速力を減じて南下を続けた。
06時38分B受審人は、足摺岬灯台から057度2.5海里の地点で、漁具の設定を終えて針路を149度に定め、機関を半速力前進にかけ、6.0ノットの速力で手動操舵により、引き縄漁を行いながら進行した。
定針時、B受審人は、右舷船首36度1,750メートルのところに、北上中の福栄丸を認めたが、自船の速力が遅いので、自船の前路を替わっていくものと思い、その動静を十分に監視しなかった。
B受審人は、その後、福栄丸が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、同船の進路を避けないまま進行し、06時41分福栄丸が右舷船首38度400メートルに接近したとき、漁具の仕掛けに魚がかかったので、速力を4.0ノットに減じて船尾甲板に赴き、引き縄を手繰り始め、同時42分わずか前ふと右舷方を振り向いたとき、至近に迫った福栄丸を認めたが、どうすることもできず、弁天丸は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、福栄丸は、船首部に擦過傷を生じたのみであったが、弁天丸は、右舷船首部が損壊し、のち修理された。また、B受審人は、約4箇月間の入院加療を要する左肩甲骨骨折及び全身打撲等を負った。
(航法の適用)
本件は、高知県足摺岬東方沖合において、両船が互いに視野の内にある状況下、南下中の弁天丸と北上中の福栄丸が衝突したものであるが、弁天丸が引き縄漁を行っていて、衝突の1分前に減速しているので、以下、航法の適用を検討する。
1 両船の相対位置関係
事実の経過上、衝突の4分前及び1分前における、弁天丸から福栄丸を見る方位及び距離は、次のとおりである。
06時38分 右舷船首36度 1,750メートル
06時41分 右舷船首38度 400メートル
一方、福栄丸は衝突まで原針路、原速力のまま進行していることによって、両船の方位変化は1分間に約0.7度で、近距離であることから、明確な変化とはいえず、衝突するおそれがあると判断しなければならない状況であったものと認める。
また、弁天丸が衝突の1分前に減速しないで原速力のまま進行した場合、同船の船尾が福栄丸の正船首を通過し終えるとき、両船間の距離は06時41分48秒に約62メートルとなり、他船の船首方向を横切るときに、他船に疑問を抱かせたり不安を与えない距離は、自船の長さの12倍が必要であるといわれており、本件の場合120メートルであるから、約62メートルをもって無難に航過する態勢であったとは認められない。
2 各種船舶間の航法適否
弁天丸は、引き縄漁を行っていたが、船舶の操縦性能を制限する漁具を用いている状況にならず、海上衝突予防法第18条の各種船舶間の航法には相当しない。
したがって、本件は、両船とも行動の自由を制約されず、かつ、避航動作をとる十分な余裕がある衝突の4分前を航法適用の時機ととらえ、海上衝突予防法第15条の横切り船の航法を適用して律するのが相当である。
(原因)
本件衝突は、高知県足摺岬東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、弁天丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る福栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、福栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、足摺岬東方沖合において、引き縄漁を行いながら南下中、右舷方に北上中の福栄丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その動静を十分に監視すべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船の速力が遅いので、福栄丸が自船の前路を替わっていくものと思い、その動静を十分に監視しなかった職務上の過失により、方位変化がほとんどないまま接近していることに気付かず、前路を左方に横切る態勢の福栄丸の進路を避けないまま進行して衝突を招き、自船の右舷船首部に損壊を、福栄丸の船首部に擦過傷をそれぞれ生じさせ、自らが約4箇月間の入院加療を要する左肩甲骨骨折及び全身打撲等を負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、足摺岬東方沖合において、単独で船橋当直に就いて北上する場合、南下中の弁天丸を見落とさないよう、左舷方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、先航する他船を追い越すことに気を取られ、左舷方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する弁天丸に気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもしないまま進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、B受審人に前示の傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。