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平成12年神審第132号
件名

漁船開進丸防砂堤衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年8月28日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(内山欽郎、黒田 均、小金沢重充)

理事官
杉崎忠志

受審人
A 職名:開進丸船長 海技免状:六級海技士(航海)
B 職名:開進丸機関長 海技免状:六級海技士(機関)(機関限定)

損害
船首部を圧壊、燃料油タンクからA重油約2キロリットル海面上に流出

原因
発航時の主機減速逆転機の作動確認不十分

主文

 本件防砂堤衝突は、発航時の主機減速逆転機の作動確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年10月6日00時05分
 石川県橋立漁港

2 船舶の要目
船種船名 漁船開進丸
総トン数 55トン
登録長 24.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 507キロワット

3 事実の経過
 開進丸は、昭和58年7月に竣工した、沖合底びき網漁業に従事する全長約30メートルの中央船橋型鋼製漁船で、油圧操作式減速逆転機(以下「クラッチ」という。)付きのディーゼル機関を主機として装備し、就航以来、9月初めから翌年6月末までの漁期中、石川県橋立漁港を基地として、00時ごろ出漁して20時ごろ帰港する日帰り操業を、月間20ないし25回ほど繰り返していた。
 主機の遠隔操縦装置は、空気式で、船橋内の主機遠隔操縦ハンドルで主機の回転数制御とクラッチの切替え操作ができるようになっており、同ハンドルを中立位置である垂直から前方または後方に倒すと、コントロール弁からの操作空気が三位置シリンダのピストンの前進側または後進側に作用し、前進側または後進側に移動したピストンロッドを介して、クラッチの前後進切替え弁が切り替わるようになっていた。
 ところで、クラッチの空気式遠隔操縦装置は、系統内の錆などの異物が三位置シリンダに侵入したりすると、同異物がピストンにかみ込んでその動きが阻害され、クラッチの切替えが不確実になるなどのおそれがあるため、同装置の取扱説明書には、出港時などの主機使用前にクラッチの作動確認を行うよう記載されていた。
 また、橋立漁港の魚市場前の岸壁は、東西方向に延びた長さ約290メートルの岸壁で、その前面の泊地は、同岸壁西端から北方に延びた長さ約75メートルの中央防砂堤(以下「防砂堤」という。)、同堤北端から北東方に延びた長さ約60メートルの中央防波堤、同岸壁東端から北方に延びた長さ約150メートルのB防波堤及び同堤北端から西方に延びた長さ約220メートルのA防波堤で囲まれており、防砂堤と岸壁から突き出た長さ45メートル幅20メートルの中突堤と称する突堤の間約75メートルが、砕氷機前岸壁と呼ばれていた。
 A受審人は、竣工時から船長として乗り組み、出港する場合、普段開進丸を、砕氷機前岸壁中央の、船首が防砂堤から約25メートルの位置に左舷付けで係留していたので、乗組員に鉄パイプで岸壁を押させ、船首が岸壁から5ないし7メートル離れたころ、舵中央のまま微速力で15メートルほど前進し、その後、クラッチを中立に戻して左舵一杯とし、船首が防砂堤と岸壁との角に近づいたらクラッチを後進に切り替え、後進のまま中突堤を替わしたのち、クラッチを前進に切り替えて港口に向かうという方法で操船していた。また、同人は、就航前に、メーカーや造船所から各機器の取扱い説明を受け、自身も主機の遠隔操縦装置等の取扱説明書を読んでいたので、出港時にはクラッチの作動確認を行う必要があることを知っていた。
 開進丸は、平成11年9月初めの定期検査工事で主機及びクラッチを開放整備したのち、同月6日から操業を開始したが、以前から空気槽及び主機遠隔操縦空気系統のドレン抜きを月に1、2回程度しか行っていなかったので、操作空気中に含まれた湿気の影響により、いつしか同系統内に微小な錆が発生する状況となっていた。
 B受審人は、同月24日に海技免状を取得し、翌10月1日から機関長として乗り組んだばかりで、それ以前は甲板員として乗り組んでおり、乗船中に機関長の仕事を手伝いながら、主機の始動方法及び空気槽や主機遠隔操縦空気系統のドレン抜きを月に1、2回行うことなどを教わり、定期検査工事で主機及びクラッチを開放整備したことだけ前任機関長から引き継いで各機器の運転管理に従事していたので、主機の遠隔操縦空気系統内に微小な錆が発生していることを知る由もなかった。
 開進丸は、砕氷機前岸壁に係留中のところ、A、B両受審人ほか4人が乗り組み、操業の目的で、船首3.0メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、10月5日23時30分ごろ主機を始動して出港準備に取り掛かった。
 翌6日00時03分ごろA受審人は、船首に2人、左舷中央付近に2人及び船尾に1人の乗組員をそれぞれ配置し、自身は船橋内で離岸操船に当たったが、今までクラッチに不具合を生じたことがなかったので大丈夫と思い、離岸前にクラッチの作動確認を行わないまま、船首が岸壁から6メートルほど離れたのち、同時04分半クラッチを中立から前進に切り替えた。
 こうして、開進丸は、いつもどおり、舵を中央としたまま微速力で15メートルほど前進したのち、左舵一杯とし、00時05分少し前クラッチを前進から中立、続いて後進に切り替えたが、三位置シリンダのピストンが錆などの異物をかみ込むなどして前進位置で固着していたものか、クラッチが切り替わらず、クラッチが前進側に入った状態のまま進行し、00時05分橋立港防波堤灯台から真方位158度140メートルの地点において、その船首部が約2ノットの速力で防砂堤にほぼ直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の南東風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
 左舷側で出港配置に就いていたB受審人は、A受審人の大声を聞いて機関室に急行し、衝突後に機側で主機を停止した。
 衝突の結果、開進丸の船首部が圧壊し、破口を生じた燃料油タンクからA重油約2キロリットルが海面上に流出したが、のち、流出油が処理されるとともに、損傷部も修理された。

(原因)
 本件防砂堤衝突は、石川県橋立漁港を発航するに当たり、係留岸壁を離岸する際、クラッチの作動確認が不十分で、離岸後、クラッチが前進側に入ったまま切り替わらなくなったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、石川県橋立漁港の係留岸壁を離岸する場合、クラッチの作動に異常がないことを確認できるよう、クラッチの作動確認を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、今までクラッチに不具合を生じたことがなかったので大丈夫と思い、クラッチの作動確認を行わなかった職務上の過失により、離岸後にクラッチが前進側に入ったまま切り替わらなくなって防砂堤に衝突する事態を招き、開進丸の船首部を圧壊させたほか、破口を生じた燃料油タンクからA重油約2キロリットルを海面上に流出させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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