(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年3月17日06時56分
高知県足摺岬南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船土佐力丸 |
油送船ニチリュー |
総トン数 |
17トン |
137,025トン |
全長 |
19.90メートル |
324.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
433キロワット |
20,079キロワット |
3 事実の経過
土佐力丸は、まぐろはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首尾とも0.9メートルの等喫水をもって、平成12年3月16日17時30分高知県清水漁港を発し、同県足摺岬南方40海里付近の漁場に向かった。
A受審人は、翌17日01時ごろ漁場に至って明け方まで待機したのち、05時40分北緯32度00分東経132度58分の地点で、はえ縄の投入を開始し、針路を344度(真方位、以下同じ。)に定め、機関を回転数毎分800にかけ、折からの北東流により右方へ16度圧流されながら4.9ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵により進行した。
A受審人は、定針したあとすぐに後部甲板に赴き、船尾方を向いて甲板員とともに投縄作業にあたり、その後日出となったものの、漁ろうに従事している船舶が表示する形象物を掲げないまま操業を続けた。
06時47分半A受審人は、左舷船首76度2.0海里のところにニチリュー(以下「ニ号」という。)を視認できる状況であったが、投縄作業に気を取られ、左舷前方の見張りを十分に行わなかったので、ニ号の存在に気付かなかった。
A受審人は、その後も依然見張り不十分で、ニ号が前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき衝突を避けるための協力動作もとらずに続航中、土佐力丸は、06時56分北緯32度06分東経132度58分の地点において、原針路原速力のまま、その船首部がニ号の右舷側前部に後方から85度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力6の北西風が吹き、視界は良好で、付近には1.5ノットの北東流があり、日出時刻は06時16分であった。
また、ニ号は、ペルシャ湾岸と本邦諸港間において原油輸送に従事する船尾船橋型鋼製油送船で、B指定海難関係人ほか日本人4人及びフィリピン人20人が乗り組み、原油245,743トンを積載し、船首尾とも19.42メートルの等喫水をもって、同年2月26日09時00分(現地時間)サウジアラビア王国ラスタヌラ港を発し、名古屋港に向かった。
翌3月17日05時47分北緯32度00分東経132度39分の地点で、操舵手とともに船橋当直に当たっていたB指定海難関係人は、針路を069度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの北東流に乗じて15.0ノットの速力で自動操舵により進行した。
06時47分半B指定海難関係人は、右舷船首19度2.0海里のところに土佐力丸を視認できる状況であったが、しけ模様なので出漁中の漁船はいないものと思い、右舷前方の見張りを十分に行わなかったので、土佐力丸の存在に気付かなかった。
B指定海難関係人は、その後も依然見張り不十分で、土佐力丸が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、同船の進路を避けることなく続航中、ニ号は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
B指定海難関係人は、衝突に気付かないまま続航し、08時ごろ高知海上保安部から連絡を受け、土佐力丸との衝突の事実を知った。
衝突の結果、土佐力丸は、船首部を圧壊したが、のち修理され、ニ号は、右舷船首部外板に擦過傷を生じた。
(原因)
本件衝突は、高知県足摺岬南方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、ニ号が、見張り不十分で、前路を左方に横切る土佐力丸の進路を避けなかったことによって発生したが、土佐力丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、高知県足摺岬南方沖合において、はえ縄を投入しながら北上する場合、左舷前方の他船を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、投縄作業に気を取られ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、ニ号の存在と接近に気付かず、警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき衝突を避けるための協力動作もとらずに進行して同船との衝突を招き、自船の船首部を圧壊させ、ニ号の右舷船首部外板に擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、高知県足摺岬南方沖合を船橋当直に就いて東行する際、右舷前方の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。