(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年5月1日14時05分
和歌山県田辺港西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船名晴丸 |
漁船濱源丸 |
総トン数 |
497トン |
6.1トン |
全長 |
75.83メートル |
15.40メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,323キロワット |
426キロワット |
3 事実の経過
名晴丸は、専ら鋼材輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、A、B両受審人ほか3人が乗り組み、鋼材約1,241トンを載せ、船首3.15メートル船尾4.20メートルの喫水をもって、平成11年5月1日04時45分広島県福山港を発し、京浜港に向かった。
A受審人は、船橋当直を自らとB受審人及び一等航海士による単独4時間3直制とし、出航時に各当直者を船橋に呼び、当直時間割り、漁船の多い海域では早めに避航すること及び視界不良時には報告することなどの指示事項を与え、出港操船後引き続き船橋当直に就き、鳴門海峡を通過したのち、一等航海士に当直を引き継ぎ、自室で休息した。
B受審人は、13時50分番所鼻灯台から285度(真方位、以下同じ。)10.9海里の地点で昇橋し、136度の針路及び機関を全速力前進とした12.0ノットの対地速力で航行している旨の引継ぎを受け、同時55分右舷前方3海里のところに前路を左方に横切る態勢の濱源丸と、その手前にほぼ同方向に航行中の小型漁船2隻を初めて視認し、14時00分濱源丸が1.5海里に接近したとき、一等航海士と交代して単独で船橋当直に就き、同一の針路速力で進行した。
B受審人は、濱源丸ほか2隻の漁船の動静を監視するうち、自船の船尾方を1隻が航過し、14時01分半番所鼻灯台から277度9.1海里の地点に達したとき、濱源丸が右舷船首42度1.0海里になり、同船の方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近していることを知ったが、そのころ、もう1隻の漁船が左転して自船の船尾方に向けたので、濱源丸もいずれ接近すれば左転するものと思い、早期に右転するなどして同船の進路を避けることなく、続航した。
B受審人は、依然として、濱源丸が左転することを期待して見守るうち、14時04分半わずか過ぎ同船と300メートルに接近し、ようやく衝突の危険を感じ、手動操舵に切り替えて左舵一杯とし、機関を中立としたが効なく、14時05分番所鼻灯台から274度8.6海里の地点において、名晴丸は、原速力のまま、船首が126度に向いたとき、その右舷前部に濱源丸の船首が後方から87度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力2の南東風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
A受審人は、衝突の報告を受けて直ちに昇橋し、事後の措置に当たった。
また、濱源丸は、船体後部に操舵室を備えた、一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人及び同人の息子のD受審人が乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同日03時00分和歌山県印南漁港を発し、紀伊水道南方沖合の土佐碆付近の漁場に向かった。
C受審人は、06時ごろ漁場に着いてかつお引き縄漁を開始し、13時00分かつお約40キログラムを獲て操業を打ち切り、番所鼻灯台から241度18.8海里の地点を発進し、針路を切目埼に向く039度に定め、機関を回転数毎分1,500にかけ、12.5ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
C受審人は、操舵室後部に設けたオーニング下の左舷側で、立った姿勢で見張りに当たり、13時55分左舷前方3海里のところに、名晴丸を視認することができる状況であったものの、同室左舷側の風防ガラスが海水のしぶきで曇っていて見難かったので船首方だけを見ていたことから、同船の存在に気付かなかった。
14時01分半C受審人は、番所鼻灯台から270.5度9.0海里の地点に達したとき、左舷船首41度1.0海里のところに、前路を右方に横切る態勢の名晴丸を視認することができ、その後同船の方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近することを認め得る状況であったが、依然船首方だけを見ていて、左舷方から接近する他船はいないものと思い、左舷方の見張りを十分に行っていなかったので、名晴丸の存在やその接近状況に気付かず、警告信号を行うことも、間近に接近したとき機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとることもなく、続航した。
14時03分C受審人は、右舷側の後部甲板上の清掃作業をしていたD受審人に、見張りをするよう声をかけたものの、同受審人の操舵室への入室を待たず、同室の床に座り、漁網の補修作業などを始めた。
一方、D受審人は、操業中に汚れた後部甲板上の清掃作業中、C受審人から周囲の状況について何も言われなかったことから、同作業を終了してから操舵室に行くこととし、14時05分少し前掃除を終えて操舵室に入り、操舵輪の後方に立ったとき、名晴丸を左舷船首至近に初めて視認し、衝突の危険を感じたものの、どうすることもできず、濱源丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
C受審人は、衝突の衝撃で名晴丸と衝突したことを知り、事後の措置に当たった。
衝突の結果、名晴丸は、右舷側前部外板から後部外板にかけ擦過傷を生じ、濱源丸は、船首部が圧壊したが、のち修理され、C受審人は、頭部打撲挫創などを負った。
(原因)
本件衝突は、和歌山県田辺港西方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、南下中の名晴丸が、前路を左方に横切る濱源丸の進路を避けなかったことによって発生したが、北上中の濱源丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、和歌山県田辺港西方沖合において、単独で船橋当直に当たって南下中、濱源丸が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近することを知った場合、早期に右転するなどして同船の進路を避けるべき注意義務があった。しかるに、同人は、濱源丸とほぼ同方向に航行中の小型漁船が、左転して自船の船尾方に向けたので、濱源丸もいずれ接近すれば左転するものと思い、早期に右転するなどして同船の進路を避けなかった職務上の過失により、そのまま進行して濱源丸との衝突を招き、名晴丸の右舷側前部外板から後部外板にかけ擦過傷を、濱源丸の船首部に圧壊をそれぞれ生じさせ、C受審人に頭部打撲挫創などを負わせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、和歌山県田辺港西方沖合を印南漁港に向け北上する場合、左舷方から接近する名晴丸を見落とさないよう、左舷方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷方から接近する他船はいないものと思い、船首方だけを見ていて、左舷方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、名晴丸の存在やその接近状況に気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせ、自らも負傷するに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
D受審人の所為は、操舵室への入室が衝突直前であったことにより、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。