(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年4月29日03時20分
房総半島南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第十日徳丸 |
漁船弘昌丸 |
総トン数 |
748トン |
4.61トン |
全長 |
84.22メートル |
12.80メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,368キロワット |
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漁船法馬力数 |
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50 |
3 事実の経過
第十日徳丸(以下「日徳丸」という。)は、船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか5人が乗り組み、大豆粕868トンを載せ、船首3.42メートル船尾4.56メートルの喫水をもって、平成12年4月28日16時45分清水港を発し、苫小牧港に向かった。
ところでA受審人は、出航に先立って日徳丸に初めて乗船したものの、昭和61年に四級海技士(航海)の海技免状を取得したのち、内航の油送船などに一等航海士や船長として乗船していたので、船舶の運航には十分慣れていた。また、日徳丸は、同受審人が00時から04時まで、次いで船長、次席一等航海士の順に、船橋当直を単独の4時間3直制で行うこととしていた。
A受審人は、出航作業を終えたのち19時ごろから深夜の船橋当直に備えて自室で休息をとり、翌29日00時00分洲埼灯台の南南西方約8海里の地点において、法定灯火の点灯を航海灯警報装置の点灯表示ランプで確認したのち同当直に就き、同時50分野島埼灯台から172度(真方位、以下同じ。)3.0海里の地点で、針路を061度に定め、機関を全速力前進にかけて13.1ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
03時02分少し前A受審人は、勝浦灯台から127度5.3海里の地点において、針路を036度に転じて続航し、同時12分同灯台から104度5.7海里の地点に達したとき、左舷船首34度1.9海里のところに東行する弘昌丸の白、緑2灯を視認でき、その後その方位が変わらず、同船が前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近したが、そのころ左舷前方に集団で出漁する漁船群の灯火を認めたことから、その集団以外に沖へ向かう他船はいないものと思い、双眼鏡などを用いて前路の見張りを十分に行わなかったので弘昌丸に気付かなかった。
A受審人は、03時19分弘昌丸が自船を避ける様子を見せないまま450メートルのところに接近していたものの、折から船尾方近距離のところを航過する別の漁船に気を取られるなどしていて、前路の見張りを十分に行っていなかったので、依然として弘昌丸に気付かず、警告信号を行うことも、更に間近に接近するに至っても衝突を避けるための協力動作もとらずに進行し、03時20分勝浦灯台から089度6.6海里の地点において、日徳丸は、原針路、原速力のまま、その船首が弘昌丸の右舷前部に後方から81度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で、風力3の北北西風が吹き、視界は良好であった。
日徳丸は、弘昌丸との衝突後もそのまま北上を続けていたところ、銚子海上保安部からの指示により、10時40分銚子港港外に仮泊し、その後衝突の事実を知るところとなった。
また、弘昌丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が単独で乗り組み、かつお曳縄漁の目的で、船首0.1メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、同月29日02時40分航行中の動力船が掲げる灯火を表示して千葉県岩和田漁港を発し、同漁港の東南東方沖合の漁場に向かった。
ところで、B受審人は、同年2月下旬から30数隻の僚船とともに18度から22度までの水温海域において、日出時から正午過ぎまでかつお曳縄漁を行っており、それまでの漁模様などから、水温18度から19度までの海域において操業するつもりで発航したものであった。
B受審人は、弘昌丸の速力が遅いことから、僚船に先んじて出漁し、02時50分岩和田港防波堤灯台から138度200メートルの地点において、漁場に向けて針路を117度に定め、機関を前進にかけて10.0ノットの対地速力で自動操舵により進行し、操舵室天井に設けた開口部から顔を出して周囲の見張りに当たった。
03時11分B受審人は、勝浦灯台から083度5.6海里の地点に差し掛かったとき、左舷前方に前路を右方に横切る態勢の2隻の南下船を認め、両船の船尾を替わすつもりで8.0ノットに減速するとともに、そのころ、操舵室内左舷前方に備えていた水温計が18度前後の値を示すようになったので、水温計が見えやすい同室内に見張り場所を移して続航した。
B受審人は、03時12分勝浦灯台から084度5.7海里の地点に達したとき、右舷船首65度1.9海里のところに北上する日徳丸の白、白、紅3灯を視認でき、その後その方位が変わらず、同船が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近したが、無難に替わる態勢の南下船以外に他船はいないものと思い、操業場所を決めるためしばしば水温計に目を向けるなどしていて、前路の見張りを十分に行わなかったので日徳丸に気付かず、同船の進路を避けることなく進行した。
03時19分B受審人は、日徳丸が450メートルのところに接近していたものの、前路の見張りを十分に行っていなかったので、依然として同船に気付かずに続航し、弘昌丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、日徳丸は、船首外板に擦過傷を生じたが、のち修理され、弘昌丸は、右舷前部を大破し、来援した僚船によって岩和田漁港にえい航されたが、のち廃船となり、B受審人が頚椎捻挫などを負った。
(原因)
本件衝突は、夜間、房総半島南東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、東行中の弘昌丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る日徳丸の進路を避けなかったことによって発生したが、北上中の日徳丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、房総半島南東方沖合を漁場に向けて東行する場合、前路を左方に横切る態勢で接近する日徳丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、無難に替わる態勢の南下船以外に他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのある態勢で接近する日徳丸に気付かず、その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、日徳丸の船首外板に擦過傷を生じさせ、弘昌丸の右舷前部を大破させ、自らは頚椎捻挫などを負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、房総半島南東方沖合を北上する場合、前路を右方に横切る態勢で接近する弘昌丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、左舷前方に集団で出漁する漁船群の灯火を認めたことから、その集団以外に沖へ向かう他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのある態勢で接近する弘昌丸に気付かず、警告信号を行うことも、更に間近に接近するに至っても衝突を避けるための協力動作をとらずに進行して同船との衝突を招き、前示の事態を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。