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平成13年函審第25号
件名

漁船第十一吉昭丸漁船第八輝丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年8月28日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(工藤民雄、安藤周二、織戸孝治)

理事官
大石義朗

受審人
A 職名:第十一吉昭丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第八輝丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
吉昭丸・・・球状船首部に擦過傷、シーアンカー用ローラに損傷
輝丸・・・右舷中央部外板に亀裂、操舵室右舷側に凹損及びいか釣り機に損傷

原因
吉昭丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守(主因)
輝丸・・・狭視界時の航法(信号)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第十一吉昭丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことによって発生したが、第八輝丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年8月31日16時28分
 北海道浦河港南西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第十一吉昭丸 漁船第八輝丸
総トン数 9.7トン 6.2トン
全長 17.90メートル 13.32メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 301キロワット 250キロワット

3 事実の経過
 第十一吉昭丸(以下「吉昭丸」という。)は、レーダー及び電気ホーンを装備したFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、いか一本釣り漁の目的で、船首0.85メートル船尾2.00メートルの喫水をもって、平成12年8月31日13時00分北海道浦河港を発し、14時ごろ同港南西方7海里付近の漁場に到着したのち、霧模様のなか多数の同業船とともに魚影を追って移動しながら操業を繰り返した。
 16時25分A受審人は、霧のため視程が約50メートルに制限された状況下、浦河港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から215度(真方位、以下同じ。)7.0海里の地点で漁場を移動することとし、針路を081度に定め、機関を微速力前進にかけて3.0ノットの対地速力とし、航海灯のほか作業灯4個を甲板上に点灯したものの、霧中信号を行わず、操舵室右舷側に立ち遠隔操舵により進行を開始した。
 発進したときA受審人は、左舷船首6度115メートルのところに第八輝丸(以下「輝丸」という。)が存在し、その後同船が徐々に離れる状況で先航していたが、3海里レンジとしたレーダーで船首方約300メートルに停止状態と認められる大型同業船(以下「第三船」という。)の映像を認めていたものの、レーダーレンジを短距離に切り替えるなどしてレーダーによる見張りを十分に行わず、輝丸の映像を見落としたまま、第三船の東方海域に移動するつもりで東行した。
 16時26分A受審人は、輝丸が左舷船首4度180メートルのところで行きあしを止めて漂泊を開始し、その後、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、魚群探知器の監視に気をとられ、依然としてレーダーによる見張りを十分に行っていなかったので、この状況に気付かず、速やかに行きあしを停止しなかった。
 A受審人は、16時27分半少し過ぎ、霧の中から現れた南方に向首して漂泊中の第三船の船体右舷側を船首方約40メートルに視認し、同船の船尾方を航過しようと急いで左舵一杯をとって左転中、同時28分わずか前、正船首に右舷側を見せた輝丸の船体を初めて認めたがどうすることもできず、16時28分南防波堤灯台から214度6.9海里の地点において、吉昭丸は、その船首が011度に向いたとき、ほぼ原速力のまま、輝丸の右舷中央部に後方から70度の角度で衝突した。
 当時、天候は霧で風はほとんどなく、視程は約50メートルで、潮候は上げ潮の末期であった。
 また、輝丸は、レーダー及び電気ホーンを装備したFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、いか一本釣り漁の目的で、船首0.80メートル船尾1.80メートルの喫水をもって、同日13時00分浦河港を発し、14時ごろ同港南西方7海里付近の漁場に到着したのち、霧模様のなか多数の同業船とともに魚影を追って移動しながら操業を繰り返した。
 16時16分B受審人は、霧のため視程が約50メートルに制限された状況下、南防波堤灯台から218度7.5海里の地点で漁場を移動することとし、針路を081度に定め、機関を微速力前進にかけて5.0ノットの対地速力とし、航海灯のほかマストの黄色回転灯を点灯したものの、霧中信号を行わず、操舵室中央に立ち手動操舵により進行した。
 B受審人は、16時25分南防波堤灯台から214.5度7.0海里の地点に達したとき、右舷船尾6度115メートルのところに航行を開始したばかりの吉昭丸が後続するようになったが、これに気付かないまま東行を続けた。
 16時26分B受審人は、南防波堤灯台から214度6.9海里の前示衝突地点に移動を終え、第三船の西北西方約40メートル離れたところで081度に向けたまま機関のクラッチを中立とし、引き続き前示灯火を点灯して漂泊を開始したが、対水速力を有しない場合の霧中信号を行わなかった。
 漂泊を開始したときB受審人は、吉昭丸が右舷船尾4度180メートルとなり、その後、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、航行船に留意しないまま、依然として霧中信号を行わず、いか釣り機を準備したのち操業を再開中、16時28分少し前、甲板上で魚箱の整理に当たっていた甲板員の「衝突する」との叫び声を聞き、右舷正横至近に吉昭丸の船首を初めて視認したもののどうすることもできず、輝丸は、081度に向いたまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、吉昭丸は、球状船首部に擦過傷及びシーアンカー用ローラに損傷を生じ、輝丸は、右舷中央部外板に亀裂、操舵室右舷側に凹損及びいか釣り機に損傷を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、霧のため視界が著しく制限され、多数のいか一本釣り漁船が操業する浦河港南西方沖合において、漁場を移動中の吉昭丸が、霧中信号を行わず、レーダーによる見張り不十分で、漁場の移動を終え漂泊を開始した輝丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、速やかに行きあしを停止しなかったことによって発生したが、輝丸が、漂泊中、霧中信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、霧のため視界が著しく制限され、多数のいか一本釣り漁船が操業する浦河港南西方沖合において漁場を移動する場合、船首方の輝丸を見落とすことのないよう、レーダーレンジを短距離に切り替えるなどしてレーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、魚群探知器の監視に気をとられ、レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、船首方の輝丸を見落とし、同船と著しく接近することを避けることができない状況となっていることに気付かず、速やかに行きあしを停止することなく進行して同船との衝突を招き、吉昭丸の球状船首部に擦過傷及びシーアンカー用ローラに損傷を、また輝丸の右舷中央部外板に亀裂、操舵室右舷側に凹損及びいか釣り機に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、霧のため視界が著しく制限され、多数のいか一本釣り漁船が操業する浦河港南西方沖合において漁場の移動を終え漂泊を開始した場合、接近する他船に自船の存在及び状態を知らせることができるよう、霧中信号を行うべき注意義務があった。ところが、同人は、霧中信号を行わなかった職務上の過失により、吉昭丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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