(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年11月7日08時40分
北海道留萌港西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
引船十勝丸 |
総トン数 |
100.20トン |
全長 |
24.83メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
882キロワット |
船種船名 |
バージひかり76 |
バージ601山陽 |
全長 |
40.00メートル |
45.00メートル |
幅 |
9.00メートル |
10.00メートル |
深さ |
4.00メートル |
3.30メートル |
船種船名 |
漁船第8昌喜丸 |
総トン数 |
19.50トン |
登録長 |
17.80メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
160 |
3 事実の経過
十勝丸は、バージなどの曳航作業に従事する鋼製引船で、A受審人ほか2人が乗り組み、いずれも空倉無人のバージひかり76(以下「ひかり」という。)と、バージ601山陽(以下「山陽」という。)とを順に船尾に引き、船橋上方にひし形形象物1個のほか、その上部に球形形象物1個を掲げ、更に黄色回転灯を点灯し、船首1.6メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成10年11月7日07時30分北海道留萌港を発し、北海道小樽港に向かった。
07時55分A受審人は、留萌港の西防波堤南端を右舷側に見て航過し、留萌灯台から264度(真方位、以下同じ。)1.4海里の地点に達したとき、十勝丸の曳航フックからひかり船首までの曳航索の長さを約329メートル、ひかり船尾から山陽船首までの曳航索の長さを約68メートルにそれぞれ調整して十勝丸船尾から山陽船尾までの長さを約470メートルの引船列としたうえ、沿岸の養殖施設を避けるため、いったん沖出ししたのち南下することとし、針路を297度に定め、機関を全速力前進にかけて6.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
単独で船橋当直に就いていたA受審人は、08時30分留萌灯台から288度4.8海里の地点で、針路を225度に転じ、このとき右舷船首40度2.3海里に東行する第8昌喜丸(以下「昌喜丸」という。)を初めて視認し、間もなく同船が前路を左方に横切る態勢であることが分かり、その後同船の方位がわずかに右方に変化するものの、後方に引いた山陽との方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、山陽の船尾方を替わるものと思い、昌喜丸の動静を十分に監視しなかったので、この状況に気付かず、同船の進路を避けることなく続航した。
十勝丸引船列は、自動操舵のまま同じ針路、速力で進行し、08時40分留萌灯台から279度5.3海里の地点において、225度に向いていた山陽の右舷船尾部に、昌喜丸の船首が前方から58度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力3の東南東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
また、昌喜丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾2.4メートルの喫水をもって、同月6日12時00分留萌港を発し、同港西北西方の小樽堆の漁場に到着して操業を行い、いか約600キログラムを獲て操業を終え、翌7日06時10分留萌灯台から282度31.4海里の地点を発進して帰途についた。
B受審人は、発進時から単独で船橋当直に当たって留萌港に向け東南東進したのち、07時30分留萌灯台から281.5度17.5海里の地点に達したとき、針路を103度に定め、機関を全速力前進にかけて10.5ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
08時00分B受審人は、留萌灯台から281度12.2海里の地点に差し掛かったとき、付近に他船が見当たらなかったことから大丈夫と思い、それまで腰を掛けていた操舵室左側の椅子からカーペット敷の床に下り、横になって同室後部中央に置かれたテレビを見ながら続航した。
B受審人は、08時30分留萌灯台から279度7.0海里の地点に達したとき、左舷船首18度2.3海里のところに、ひかりと山陽を引いた十勝丸を視認できる状況で、その後同引船列が前路を右方に横切り、先頭の十勝丸の方位はわずかに右方に変わるものの山陽の方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然、床に横になってテレビを見て、左方の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、警告信号を行わず、更に間近に接近したとき機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく続航中、昌喜丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、山陽は、右舷船尾部に擦過傷を生じ、昌喜丸は、船首部を圧壊し、のち修理された。
(原因)
本件衝突は、北海道留萌港西方沖合において、十勝丸引船列及び昌喜丸が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、南下する十勝丸引船列が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る昌喜丸の進路を避けなかったことによって発生したが、東行する昌喜丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、ひかりと山陽を順に船尾に引いて留萌港西方沖合を南下中、右舷前方に前路を左方に横切る昌喜丸を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船の動静を十分に監視すべき注意義務があった。ところが、同人は、山陽の船尾方を替わるものと思い、昌喜丸の動静を十分に監視しなかった職務上の過失により、同船が山陽と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、昌喜丸の進路を避けることなく進行して同船との衝突を招き、山陽の右舷船尾部に擦過傷を生じさせ、昌喜丸の船首部を圧壊させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、留萌港西方沖合を同港に向け東行する場合、左舷前方の十勝丸引船列を見落とすことのないよう、左方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、付近に他船が見当たらなかったことから大丈夫と思い、操舵室内の床で横になってテレビを見て、左方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する十勝丸引船列に気付かず、警告信号を行うことも、更に間近に接近しても機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく進行して山陽との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。