(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年8月6日01時25分
北海道霧多布港東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第十八環幸丸 |
総トン数 |
4.9トン |
登録長 |
11.79メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
235キロワット |
3 事実の経過
第十八環幸丸(以下「環幸丸」という。)は、さんま流し網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が妻と2人で乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成12年8月5日10時30分北海道厚岸郡琵琶瀬湾奥の新川船揚場を発し、湯沸岬南東方30海里の漁場に至って操業を行い、さんま約560キログラムを獲て操業を終え、23時20分湯沸岬灯台から135度(真方位、以下同じ。)29.0海里の地点を発進し、同船揚場に向け帰航の途についた。
A受審人は、このころ漁模様がよかったことから荒天の日以外は休漁日なしで毎日10時過ぎに出港し、翌朝05時の競りに間に合うように帰港する形態で出漁を繰り返しており、漁場への往復航の船橋当直を自ら行い、漁場では休息をとらずに操業に当たり、帰港後約3時間睡眠をとる状況で連日操業を続けていたので、疲労が蓄積して睡眠不足となっていた。
ところで、霧多布港東方の浜中町貰人地先(もうらいとちさき)には、湯沸岬灯台から059度4.0海里の地点を南西端とし、同地点から057度300メートル及び327度1,800メートルの両地点を南東端及び北西端とする長方形を成した定置網漁業区域が設定され、同区域内に浜中さけ定第2号と呼称する定置網が設置されていた。
漁場発進時、A受審人は、GPSプロッターに入力している琵琶瀬湾口に向かう310度の針路に定めて自動操舵とし、機関を回転数毎分1,800にかけ、14.0ノットの対地速力で舵輪の後方に立ち単独で見張りに当たって進行した。
その後、A受審人は、前路の広い範囲に多数のいか釣り漁船を認め、23時40分ごろ漁船群に2.3海里ほどに近づいたとき、連日の操業による疲労の蓄積と睡眠不足から強い眠気を催すようになったが、間もなく多数のいか釣り漁船の中を航行することになるので眠ることはあるまいと思い、休息中の妻を見張りに立てるなど、居眠り運航の防止措置をとることなく続航した。
23時50分ごろA受審人は、手動操舵に切り替え、適宜いか釣り漁船を避けながら北上を続けるうち時折うとうとし始め、翌6日00時25分湯沸岬灯台から130度15.0海里の地点に達したとき、周囲にいか釣り漁船が見当たらなくなったので琵琶瀬湾に向けることとし、同湾に向けるつもりが326度の針路に転じ、前示定置網に向かう状況となったことに気付かないまま、操舵装置を手動から自動に切り替えた。
A受審人は、立っているのが辛くなり、床に座って足を伸ばし背後の壁にもたれているうち、間もなく深い眠りに陥り、前示定置網に向首したまま進行し、01時25分湯沸岬灯台から059度4.1海里の地点において、環幸丸は、原針路、原速力のまま、その船首が同定置網の南端に衝突した。
当時、天候は雨で風はほとんどなく、潮候はほぼ低潮時であった。
衝突の結果、環幸丸は、クラッチ及びプロペラに損傷を生じ、また定置網は浮子綱が切損したが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件定置網衝突は、夜間、北海道湯沸岬南東方沖合の漁場から琵琶瀬湾に向け帰航中、居眠り運航の防止措置が不十分で、霧多布港東方に設置された定置網に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、湯沸岬南東方沖合の漁場から琵琶瀬湾に向け帰航中、連日の操業による疲労の蓄積と睡眠不足から強い眠気を催した場合、居眠り運航にならないよう、休息中の妻を見張りに立てるなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。ところが、同受審人は、多数のいか釣り漁船の中を航行することになるので眠ることはあるまいと思い、休息中の妻を見張りに立てるなど、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、居眠り運航となって霧多布港東方に設置された定置網に向首進行して定置網との衝突を招き、環幸丸のクラッチ及びプロペラに損傷を生じさせ、また定置網の浮子綱を切損させるに至った。