(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年11月19日09時40分
島原湾
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船一福丸 |
プレジャーボート政丸 |
総トン数 |
4トン |
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登録長 |
10.40メートル |
6.42メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
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47キロワット |
漁船法馬力数 |
70 |
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3 事実の経過
一福丸は、FRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成11年11月19日05時45分熊本県大矢野町串漁港を発し、06時15分三角灯台北方3海里ばかりの漁場に至ってさわらの一本釣り漁を行い、その後漁場を移動して同灯台の北方4海里ばかりでいか釣り漁を行った。
A受審人は、操業が思わしくなかったことから、以前に好漁場であった地点に移動することとし、09時37分三角灯台から359度(真方位、以下同じ。)4.2海里の地点において、漁場に向けて針路を237度に定め、機関を全速力前進にかけ、12.0ノットの対地速力で手動操舵により、発進した。
定針したときA受審人は、正船首方1,100メートルのところに停留中の政丸を認め得る状況であったが、前方を一瞥(いちべつ)して前路には船がいないものと思い、前示の漁場を表示するGPS及び魚群探知器に気をとられ、前路の見張りを行っていなかったので、同船と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず進行した。
その後も、A受審人は、GPS及び魚群探知器の表示に気をとられ、速やかに衝突を避けるための措置をとらないまま続航し、09時40分三角灯台から350度4.0海里の地点において、一福丸は、原針路、原速力のまま、船首が政丸の右舷中央にほぼ直角に衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好で、付近の潮流はほぼ1.0ノットの南西流であった。
また、政丸は、FRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、同乗者1人を乗せ、船首0.3メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、釣りの目的で、同日09時00分熊本県大矢野町岩谷の係留地を発し、三角灯台の北方4海里ばかりの釣場に向かった。
09時30分B受審人は、衝突地点に至って機関を極微速力前進にかけ、船首をほぼ北方に向けてトローリング装置を作動させて釣りを開始し、その後船首方が変化するため、釣り糸がほぼ真下となるよう、操舵室の後方右舷側に船首方を向いて腰掛けて適宜舵を操作しながら、手釣りを行った。
09時37分B受審人は、船首が約320度に向いて停留して釣りをしていたとき、右舷正横1,100メートルのところに自船に向かって進行する一福丸を認めたが、同船がそのうち避航措置をとってくれるものと思い、その動静を監視しながら釣りを続けた。
B受審人は、その後も一福丸が避航措置をとらずに自船に向かって進行していたが、速やかに機関を全速力前進にかけるなど衝突を避けるための措置をとらないまま、同船の避航措置に期待して釣りを続けているうち、09時40分わずか前至近に迫った同船を避けるため、急いで機関を全速力前進にかけ右舵一杯としたが、その効なく前示のとおり衝突した。
衝突の結果、一福丸は、船首に擦過傷を生じ、政丸は右舷中央部外板に亀裂を生じ、操舵室が大破してのち廃船となった。
(原因)
本件衝突は、島原湾において、一福丸が、見張り不十分で、前路で停留中の政丸を避けなかったことによって発生したが、政丸が、速やかに衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、島原湾において、漁場を移動する場合、前路で停留中の政丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを厳重に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、前路を一瞥して船がいないものと思い、前路の見張りを厳重に行わなかった職務上の過失により、停留中の政丸に気付かず進行して衝突を招き、一福丸の船首に擦過傷を、政丸の船体中央部に亀裂及び操舵室大破をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、島原湾において、停留して釣りを行う場合、自船に向首進行する一福丸を認めていたのであるから、速やかに衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、一福丸がやがて自船を避けてくれるものと思い、速やかに衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、至近に迫ってくるまで釣りを続けて衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。