(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年8月16日13時35分
九州北西沿岸
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第一悠久丸 |
漁船第二十六和栄丸 |
総トン数 |
215トン |
14トン |
登録長 |
44.21メートル |
16.31メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
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漁船法馬力数 |
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160 |
3 事実の経過
第一悠久丸(以下「悠久丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製活魚運搬船で、A受審人ほか4人が乗り組み、大型まき網漁の目的で僚船6隻と船団を組み、船首3.00メートル船尾3.90メートルの喫水をもって、平成11年8月16日12時00分佐賀県名護屋漁港を発し、平戸島西北西方60海里ばかりの漁場に向かった。
A受審人は、僚船とともに徐々に増速しながら北上し、12時49分肥前馬渡島灯台(以下「馬渡島灯台」という。)から085度(真方位、以下同じ。)2.7海里の地点に達したとき、針路を255度に定め、機関を9.0ノットの全速力前進にかけ、自動操舵で進行した。
A受審人は、舵輪のすぐ後方のいすに腰をかけて見張りに当たっていたところ、針路を定めて間もなく付近に航行船がいなかったことから、船橋左舷後部のテレビで高校野球を見ることとし、野球の観戦と前方の見張りを交互に行いながら続航し、13時12分馬渡島の南方を航過するころほぼ正船首3.5海里に第二十六和栄丸(以下「和栄丸」という。)を初めて視認した。
A受審人は、その後和栄丸に向首進行し、13時30分和栄丸に1,400メートルまで接近し、同船が風に立って移動しないところから錨泊していることが分かる状況にあったが、視認したとき和栄丸が北方に向首しており、そして、その南に2隻の漁船が北上していたことから、和栄丸も北上中なので衝突のおそれはないものと思い込み、その後同船の状況や動静を監視することなく、高校野球の放送に熱中していたので、このことに気付かず、同船を避けないで続航し、13時35分馬渡島灯台から248度4.2海里の地点において、悠久丸の右舷船首が和栄丸の右舷中央部に、原針路、原速力のまま前方から30度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力4の北東風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、視界は良好であった。
また、和栄丸は、中型まき網漁業に漁獲物運搬船として従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、魚群探索の目的で、船首0.90メートル船尾2.00メートルの喫水をもって、同日09時00分長崎県鹿町町太郎ヶ浦漁港を発し、壱岐水道西口方面の海域に向かった。
B受審人は、平戸瀬戸を通過し、12時30分的山大島の北東3海里ばかりの地点に達したとき、僚船から馬渡島西方5海里ばかりに魚群の反応があったので同地点で待機するようにとの連絡を受けたことから、同地点に向け東行し、13時00分前示衝突地点に至って投錨し、機関を止め、所定の形象物を揚げないまま錨泊した。
B受審人は、錨泊後、船橋後部の床から50センチメートルばかり高くなった仮眠台で横になり、船橋後壁に設置したテレビで高校野球を見ながら、ときおり同位置から船首方の見張りを行っていた。
13時25分B受審人は、和栄丸の船首が045度に向首したとき、テレビの観戦を中止して船首方を見渡したとき、右舷方から北西方に向かう大型まき網の灯船を視認して、双眼鏡で船団名を確認し、再び高校野球の観戦を始めたので、このとき、右舷船首30度1.5海里に悠久丸が自船に向首して来航していることに気付かなかった。
13時30分B受審人は、悠久丸が自船に向首したまま1,400メートルに接近して避航の気配がなかったが、その後も見張りを行うことなく、高校野球の観戦に気を奪われていたので、このことに気付かず、同船に対してマイクで呼びかけるなどの注意喚起信号を行わず、同時35分少し前他船の接近の気配を感じて起き上がって右舷側を見たとき、至近に迫った悠久丸の船首を視認したが、どうすることもできず、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、悠久丸は、右舷船首外板に擦過傷を生じ、和栄丸は、右舷側中央部外板に破口を生じるとともに横転し、廃船とされ、B受審人が頭部など身体各部に打撲傷を負った。
(原因)
本件衝突は、壱岐水道西口付近において、悠久丸が、動静監視不十分で、前路で錨泊中の和栄丸を避けなかったことに因って発生したが、和栄丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、漁場に向け航行中、ほぼ正船首に和栄丸を視認した場合、その状況及び動静を監視すべき注意義務があった。しかるに、同人は、いちべつしただけで北上中であるものと思い、動静監視を行わなかった職務上の過失により、和栄丸が錨泊していることに気付かず、同船を避けないで進行して衝突を招き、悠久丸の右舷船首に擦過傷を生じさせ、和栄丸の右舷側外板に破口を生じさせたのち横転させ、B受審人の頭部などに打撲傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、壱岐水道西口付近で錨泊をした場合、同水道は航行船が多いところであったから、十分な見張りを行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船に向首接近する悠久丸に気付かず、注意喚起信号を行うことができず、同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるとともに自らが前示の傷を負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。