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平成13年門審第26号
件名

漁船大安丸貨物船マリン ケミスト衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年7月17日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(米原健一、西村敏和、橋本 學)

理事官
千手末年

損害
大安丸・・・船体前部を圧壊し水船、のち沈没
マ号・・・球状船首部右舷側に擦過傷、船長が頭蓋骨陥没骨折による広汎脳損傷で即死

原因
マ号・・・動静監視不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
大安丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、マリン ケミストが、動静監視不十分で、漂泊中の大安丸を避けなかったことによって発生したが、大安丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年3月1日14時37分
 福岡県沖ノ島北東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船大安丸 貨物船マリン ケミスト
総トン数 14トン 2,346.00トン
全長   87.40メートル
登録長 14.97メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   2,405キロワット
漁船法馬力数 160  

3 事実の経過
 大安丸は、船体中央から少し船首寄りに操舵室を有し、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、船長Aほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成12年3月1日09時30分山口県特牛(こっとい)港を発し、福岡県沖ノ島北東方沖合19海里の漁場に向かった。
 A船長は、12時30分ごろ目的の漁場に至り、操業を開始する夕刻まで待機することとし、船首から目印の赤色ブイを取り付けたパラシュート型シーアンカーを投じ、合成繊維製錨索を150メートル延出して機関を停止し、同時45分ごろから漂泊を始め、その後、自らは操舵室右舷後部の畳敷きの区画で、甲板員は同室後方の船員室でそれぞれ横になって休息した。
 14時31分A船長は、沖ノ島灯台から037度(真方位、以下同じ。)19.2海里の地点で船首が257度を向いていたとき、右舷船首63度1.4海里のところに自船に向首するマリン ケミスト(以下「マ号」という。)を視認でき、その後、同船が衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、依然操舵室右舷後部で横になり、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かなかった。
 A船長は、マ号が避航の気配を見せないまま接近したものの、警告信号を行わず、更に接近しても、機関を始動して前進するなど、衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊中、14時37分沖ノ島灯台から037度19.2海里の地点において、大安丸は、船首を257度に向けたまま、その右舷前部に、マ号の船首が前方から60度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、視界は良好であった。
 また、マ号は、船尾船橋型の貨物船で、船長B、二等航海士Cほか12人が乗り組み、空倉のまま、船首1.05メートル船尾5.00メートルの喫水をもって、同日08時45分大韓民国蔚山港を発し、山口県徳山下松港に向かった。
 C二等航海士は、12時00分対馬北東方沖合約26海里の地点で操舵手1人を伴って船橋当直に就き、間もなくタンク清掃作業を行わせるため操舵手を降橋させたのち単独で見張りに当たり、同時30分舌埼灯台から062.5度26.0海里の地点に達したとき、針路を140度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて14.1ノットの対地速力で進行した。
 14時25分C二等航海士は、沖ノ島灯台から029度20.0海里の地点に達したとき、正船首2.8海里のところに漂泊中の大安丸を肉眼で初めて認め、双眼鏡により同船が南方に向首しているのを確認し、6海里レンジとしたレーダーで同船までの距離を測定したものの、その後、遠距離レンジに切り替えたレーダーやGPSで船位を求めたうえ、操舵室左舷後部の海図台に赴き、後方を向いて関門海峡西口北方の蓋井島までの距離や関門海峡海上交通センターへの通報時刻を確認するなどの作業に当たり、同船から目を離して南下した。
 C二等航海士は、14時31分沖ノ島灯台から033度19.5海里の地点に差し掛かり、大安丸が正船首1.4海里となり、その後、同船に衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然海図台のところで前示通報時刻確認などの作業に当たり、同船に対する動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船を避けないまま続航した。
 14時37分少し前C二等航海士は、海図台での作業を終え、振り返って前方を見たところ、正船首至近に迫った大安丸と同船の船首方に浮いていた赤色ブイに気付き、急いで舵輪のところに戻って手動操舵に切り替え、同船の船尾を替わすつもりで左舵一杯を、続いて右舵一杯をとったが、効なく、マ号は、原速力のまま、船首が137度に向いたとき、前示のとおり衝突した。
 C二等航海士は、機関を停止したのち、B船長に知らせ、同船長は、直ちに昇橋して事後の措置に当たった。
 衝突の結果、大安丸は、船体前部を圧壊して水船となり、のち沈没し、マ号は、球状船首部右舷側に擦過傷を生じた。また、A船長(昭和37年8月28日生、一級小型船舶操縦士免状受有)は、大安丸の操舵室で倒れていたところをマ号に収容されたが、のち頭蓋骨陥没骨折による広汎脳損傷で即死と検案され、甲板員は、衝突後海中に飛び込み、マ号に救助された。

(原因)
 本件衝突は、福岡県沖ノ島北東方沖合において、南下中のマ号が、動静監視不十分で、前路で漂泊中の大安丸を避けなかったことによって発生したが、大安丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:33KB)





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