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平成12年広審第68号
件名

押船第八神佑丸被押バージ鶴漁船第二蛭子丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年7月19日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(勝又三郎、坂爪 靖、伊東由人)

理事官
道前洋志

受審人
A 職名:第八神佑丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:第二蛭子丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害

神佑丸押船列・・・損傷なし
蛭子丸・・・左舷外板を大破し、転覆、全損、船長が頭部外傷及び全身打撲(入院加療2箇月)


原因
神佑丸押船列・・・見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
蛭子丸・・・法定灯火不表示、動静監視不十分、警告信号不 履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第八神佑丸被押バージ鶴が、見張り不十分で、トロールにより漁ろうをしていることを示す灯火を掲げないまま極低速力で引網中の第二蛭子丸を避けなかったことによって発生したが、引網中の第二蛭子丸が、法定灯火を表示しなかったばかりか、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年8月26日01時15分
 瀬戸内海 燧灘

2 船舶の要目
船種船名 押船第八神佑丸 被押バージ鶴
総トン数 99トン 1,438トン
全長 23.97メートル 67.37メートル
  16.00メートル
深さ   3.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 735キロワット  

船種船名 漁船第二蛭子丸
総トン数 4.99トン
全長 13.5メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 15

3 事実の経過
 第八神佑丸(以下「神佑丸」という。)は、レーダーを装備し、専ら瀬戸内海において埋立土砂の運搬に従事する鋼製押船で、A受審人ほか3人が乗り組み、その船首部を、埋立て用銅水砕スラグ約2,500トンを積載し、喫水が船首3.5メートル船尾4.4メートルとなり、船尾部にジブクレーン1基を装備したバージ鶴(以下「バージ」という。)の船尾凹部に結合し、全長約85メートルの押船列(以下「神佑丸押船列」という。)をなし、船首2.2メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、バージに両舷灯、神佑丸にマスト灯、両舷灯及び船尾灯を表示し、平成11年8月26日00時10分愛媛県新居浜港を発し、同県松山港に向かった。
 ところで、A受審人は、神佑丸押船列で航行するとバージの船首部に装備されたスパッド、鳥居型マスト及び右舷側に格納したジブクレーンにより右舷船首方向に約30度の、左舷船首方向に約15度の死角をそれぞれ生じることから、普段はレーダーを活用したり、見張りの位置を左右に移動したりして死角を補っていた。
 00時51分少し前A受審人は、船上岩灯標から281度(真方位、以下同じ。)2.1海里の地点で、針路を309度に定めて自動操舵とし、7.0ノットの全速力前進の押航速力(対地速力、以下同じ。)で進行した。
 01時05分A受審人は、右舷船首15度1.1海里のところに左方に向けて航行し、その後右方に移動中の漁船を視認し、これが自船の前路を替わったことを認め、同時05分半壬生川港壬生川西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から050度3.8海里の地点に達したとき、右舷船首25度1.0海里に、極低速力で引網中の第二蛭子丸(以下「蛭子丸」という。)の紅、紅2灯と白色作業灯等などの灯火を視認できる状況であったが、死角を補うようレーダーを活用することも、あるいは見張り位置を左右に移動することもせず、その後方位の変化もなく同船と衝突のおそれがある態勢で接近し、前路に航行の妨げとなる漁船はいないものと思い、進路を右方に転じるなどして極低速力で作業をしている蛭子丸を避けることなく、前路の見張りを十分に行っていなかったので、同船に気付かずに続航し、同時10分左舷前方1,000メートル付近にいた漁船が、前路を横切って右方に替わったことから、ますます前路に航行の妨げとなる漁船はいないものと思って進行した。
 01時15分わずか前A受審人は、バージの船首部に取り付けられたスパッドと鳥居型マストの隙間の右舷船首至近に蛭子丸の灯火を初認し、慌てて、右舵一杯、機関停止としたが、及ばず、神佑丸押船列は、01時15分西防波堤灯台から031度3.8海里の地点において、原針路、原速力のままのバージの船首が、蛭子丸の左舷中央部に、後方から61度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の南東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
 また、蛭子丸は、モーターホーンを装備した小型機船底引網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首尾とも0.3メートルの等喫水をもって、同月25日16時00分愛媛県今治市桜井漁港を発し、同県西条港北方沖合の燧灘の漁場に向かった。
 翌26日01時00分B受審人は、西防波堤灯台から037度4.4海里の地点で、5回目の操業を行うため、針路を248度に定め、3.0ノットの引網速力で、引網を行っていたものの、法定灯火を表示せず、操舵室上方に取り付けたマストに紅色全周灯、後部マストに白色全周灯、同室上部に両舷灯、操舵室前部に白色作業灯1箇及び同室後部に同作業灯5箇を表示し、手動操舵により進行した。
 01時05分半B受審人は、西防波堤灯台から035度4.2海里の地点に達したとき、左舷方を見たところ西条港付近に、錨泊中のサルベージ船と陸上で工事中の多数の灯火を視認し、このころ、左舷正横後4度1.0海里に、航行中の神佑丸押船列を初認したが、同押船列をサルベージに関係する船舶だろうから自船に向かってこないものと思い、その後同押船列が方位の変化がないまま接近していたものの、動静監視を行わなかったので、このことに気付かず、警告信号を行わず、更に機関を停止するなどして衝突を避けるための措置をとることなく、操舵室の前部に移動し、船尾方を向いて漁獲物の選別作業を行いながら、原針路、原速力で続航中、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、神佑丸押船列には損傷はなく、蛭子丸は左舷外板を大破して転覆し、全損処理され、B受審人が海中に投げ出されて神佑丸押船列に救助され、同人は2箇月の入院加療を要する頭部外傷及び全身打撲を負った。

(原因)
 本件衝突は、夜間、燧灘において、航行中の神佑丸押船列が、見張り不十分で、トロールにより漁ろうをしていることを示す灯火を掲げないまま極低速力で引網漁に従事している蛭子丸を避けなかったことによって発生したが、蛭子丸が、法定灯火を表示しなかったばかりか、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、神佑丸押船列をなして燧灘を航行する場合、船首方向に死角が生じているのであるから、前路で操業中の他船を見落とさないよう、レーダーを活用するなどして前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、前路に視認した漁船が右方に替わったので他船はいないものと思い、レーダーを活用するなどして前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、極低速力で航行して引網中の蛭子丸に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、同船の左舷側外板を大破して転覆させ、B受審人に2箇月の入院加療を要する全身打撲等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、夜間、燧灘において引網中、神佑丸押船列の灯火を視認した場合、衝突のおそれがあるかどうかを判断できるよう、その動静を十分に監視すべき注意義務があった、しかしながら、同人は、愛媛県西条港付近にサルベージ船が多数錨泊していたことから、同押船列をサルベージに関係する船舶で自船に向かってこないものと思い、魚の選別作業を行ってその動静を十分に監視しなかった職務上の過失により、同押船列と衝突のおそれがあることに気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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