(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年8月18日16時15分
広島県広島湾大須瀬戸
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第3ラッキー |
漁船第三幸丸 |
総トン数 |
5.70トン |
0.20トン |
登録長 |
11.86メートル |
3.97メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
216キロワット |
14キロワット |
3 事実の経過
第3ラッキー(以下「ラッキー」という。)は、主として一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が単独で乗り組み、広島港内金輪島のマリーナで機関を点検する目的で、船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成12年8月18日16時00分広島県安芸郡江田島町津久茂の桟橋を発し、同港に向かった。
A受審人は、機関を17.0ノットの半速力前進にかけ、操舵室右舷側のいすに腰掛けて手動操舵によって北上し、16時07分少し過ぎドウゲン石灯標から229度(真方位、以下同じ。)2,000メートルの地点で、針路を060度に定めたのち、調子の良くなかったレーダーの調整つまみを左手であれこれ触って作動状態を調べながら右手で舵輪を操作して進行した。
16時14分A受審人は、屋形石灯標から295度1,520メートルの地点に達したとき、正船首方520メートルのところに、船首を南に向けほとんど停留している状態の第三幸丸(以下「幸丸」という。)に向首し、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する情況であったが、レーダーの作動状態を調べながら針路を保つことに気を取られ、前方の見張りを十分に行っていなかったので、これに気付かないまま続航した。
16時14分半A受審人は、幸丸に250メートルまで接近したが、依然見張り不十分で同船に気付かず同船を避けることなく進行し、16時15分屋形石灯標から314度1,300メートルの地点において、ラッキーは、原針路、原速力のまま、その左舷船首が幸丸の船首に前方から48度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の西風が吹き、視界は良好であった。
また、幸丸は、FRP製漁船で、B受審人が単独で乗り組み、かに刺し網漁の目的で、船体中央部に全長420メートルの網を乗せて、船首0.1メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、同日15時30分広島県呉港内吉浦本町を発し、広島湾大須瀬戸の漁場に向かった。
15時55分B受審人は、漁場に至り、折からの西風を右舷側に受けるよう船首を南方に向けて機関を停止し、風によって0.7ノットの速力で東方に流されながら16時00分屋形石灯標から305度1,540メートルの地点で、漁労に従事していることを示す形象物を掲げないまま、網端と共に赤旗の付いた1メートルの竹竿を取り付けた発泡スチロール製の浮きを右舷側から投入したのち、船体後部に座って投網を行った。
16時11分B受審人は、屋形石灯標から311度1,340メートルの地点で、230メートルまで網を投入して船首が192度に向いていたとき、右舷船首47度1,980メートルのところに、自船に向けて接近するラッキーを初認したが、一見してプレジャーボートのように見えたので魚を買うため自船に近づいて来るのだと思い、その動静監視を十分に行わないまま投網を続けた。
16時14分B受審人は、ラッキーが衝突のおそれのある態勢で520メートルに接近し、同時14分半自船を避ける様子なく250メートルまで接近したものの依然動静監視不十分でこのことに気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま投網を続け、同時15分わずか前至近に迫った同船を認めたものの何をすることもできず、幸丸は192度を向いたまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、ラッキーは左舷船首に擦過傷を、幸丸は船首部に亀裂などをそれぞれ生じ、B受審人が肋骨骨折を負った。
(原因)
本件衝突は、広島県広島湾大須瀬戸において、広島港に向かうラッキーが、見張り不十分で、前路で形象物を掲げないまま投網中の幸丸を避けなかったことによって発生したが、幸丸が、漁労に従事していることを示す形象物を掲げなかったばかりか、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、広島湾大須瀬戸を広島港に向けて航行する場合、前路の他船を見落とさないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、調子の良くなかったレーダーの作動状態を調べながら手動操舵により針路を保つことに気を取られ、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漁労に従事していることを示す形象物を表示しないまま投網中の幸丸に気付かず、同船を避けずに進行して衝突を招き、ラッキーの左舷船首部に擦過傷を、幸丸の船首部に亀裂などをそれぞれ生じさせ、B受審人に肋骨骨折を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、広島湾大須瀬戸において、投網中、接近する他船を認めた場合、衝突のおそれを判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同船は魚を買うため自船に近づいて来るのだと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、自船を避ける様子なく衝突のおそれのある態勢で接近するラッキーに気付かず、衝突を避けるための措置をとらずに投網を続けて衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自らも肋骨骨折を負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。