日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成12年広審第84号
件名

漁船信清丸漁船西本丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年7月5日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(高橋昭雄、坂爪 靖、西林 眞)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:信清丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士(5トン限定)
B 職名:西本丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士(5トン限定)

損害
信清丸・・・左舷中央部外板に大破口、転覆、のち廃船
西本丸・・・船首部外板に破口等

原因
西本丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
信清丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、夜間、航行中の西本丸が、見張り不十分で、停留中の信清丸を避けなかったことによって発生したが、信清丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年11月24日05時20分
 日本海 鳥取港北西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船信清丸 漁船西本丸
総トン数 4.99トン 4.80トン
登録長 11.56メートル 11.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 50 50

3 事実の経過
 信清丸は、操舵室が船体中央よりやや後部に設けられ、音響信号設備としてモーターホーンを備えた小型底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首尾とも0.4メートルの喫水をもって、平成11年11月23日13時00分基地とする鳥取県鳥取港を発し、同港北西方30海里の沖合漁場に至って操業を行い、翌24日03時ころ同県長尾鼻北西方約17海里の沖合で06時入港の予定で操業を打ち切り、04時00分長尾鼻灯台から319度(真方位、以下同じ。)17.4海里の地点を発進し、同港に向けて帰途に就いた。
 ところで、A受審人は、地元小型底引き網漁船と同様に漁場からの帰航中に操業に使用した漁網の流し洗いなどの甲板作業を行っており、その際24ボルト30ワットの舷灯、船体中央部のマストに緑色及び白色の全周灯、並びに後部マストに60ワットの作業灯2個及び黄色回転灯のほか操舵室の両舷外壁上部に各5個の作業灯の各灯火を操業中に続いて点灯していた。
 こうして、A受審人は、05時05分長尾鼻北方約5海里沖に達したところで、いつものとおり漁網流し洗いを行うことにして機関を最低回転数に減じ、船尾から長さ約200メートルの網を流しわずかな前進速力で洗い始め、続いて同時10分機関を中立にして船尾甲板で揚網を始めた。
 ところが、05時15分A受審人は、折からの弱い陸風の影響もあって船首が030度を向いた停留状態で前示灯火を点灯したまま揚網中、左舷正横900メートルのところに自船と同様に多数の灯火を点灯した状態の西本丸がいったん停留したのち、まもなく同時18分発進して、その後自船と衝突のおそれがある態勢で接近することを認めることができる状況であったが、自船が多数の灯火を点灯して停留状態であり、それまでの経験から航行船の方で停留中の自船を避けてゆくものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかったので、西本丸が何らの避航動作もとらないまま自船に向かって接近することに気付かず、避航を促すための警告信号を行わず、さらに間近に接近した際に機関を使用するなどして衝突を避けるための措置もとらないまま停留を続け、05時20分長尾鼻灯台から026度4.9海里の地点において、西本丸は、その船首が信清丸の左舷側中央部にほぼ直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の南風が吹き、視界は良好であった。
 また、西本丸は、甲板上の高さ2.2メートル幅1.6メートルの操舵室が船体中央よりやや後部に設けられた、小型底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首尾とも0.4メートルの喫水をもって、地元同業船約40隻の出漁とともに同月23日14時00分基地とする鳥取港を発し、同港北西方約30海里の沖合漁場に至って操業を行い、翌24日04時ころ長尾鼻北西方約17海里沖合の漁場で操業を打ち切った。その後、05時00分同鼻北方5.4海里沖合を発進し、同港に向けて帰途に就いた。
 B受審人は、操業中から点灯していた両色灯、緑色及び白色全周灯並びに黄色回転灯のほか操舵室外壁周囲6箇所の作業灯等多数の灯火を点灯したまま、帰航開始とともに操舵を自動に切り換え、いつも帰途に行っていた漁獲物の選別に続いて機関を最低回転数に減じて使用した漁網の流し洗いの作業を船尾甲板上で行い、05時15分いったん機関を止めて揚網作業を行った。その後同時18分長尾鼻灯台から020度5.0海里の地点で、針路を鳥取港の明るい市街地に向く120度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて15.0ノットの速力で進行した。
 ところが、B受審人は、定針したとき、前路900メートルのところに多数の灯火を点灯して停留中の信清丸を視認することができ、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、それより先に船首方が操舵室により死角状態の船尾甲板上で作業中に時折周囲を見張った際にも、またその後操舵室に入って機関を始動して再発進した折にも、たまたま他船を見かけなかったので、付近には他船がいないものと思い、前路の見張りを十分に行うことなく、その後船尾甲板上で次の操業に使用する漁網整備などの甲板作業を続けていたので、前路で停留中の信清丸に気付かず、同船を避けないまま続航して、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、信清丸は左舷中央部外板に大破口を伴って転覆しのち廃船となり、西本丸は船首部外板に破口等を伴う損傷を生じた。

(原因)
 本件衝突は、夜間、鳥取県北西方沖合において、多数の灯火を点灯した状態で操業後の漁網流し洗いなどの甲板作業を行いながら帰航中の西本丸が、見張り不十分で、前路で同様に多数の灯火を点灯した状態で操業後の漁網流し洗いなどの甲板作業を行いながら停留中の信清丸を避けなかったことによって発生したが、信清丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、鳥取県北西方沖合において、操船のかたわら操業後の漁網流し洗いなどの甲板作業を行いながら帰航する場合、前方で多数の灯火を点灯して停留中の信清丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、帰航に先立ち停留しながらの作業時に付近に他船を見かけず、その後まもなく航行を開始したので、付近に他船がいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で多数の灯火を点灯して停留中の信清丸に気付かず、同船を避けないまま進行して、信清丸との衝突を招き、信清丸の左舷中央部外板に大破口を伴って転覆させのち廃船となり、西本丸の船首部外板に破口等を伴う損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人は、夜間、鳥取県北西方沖合において、操業後の漁網流し洗いなどの甲板作業を行いながら停留する場合、多数の灯火を点灯して停留状態であったとはいえ、自船に向かって接近する多数の灯火を点灯した西本丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、航行船の方で多数の灯火を点灯した状態で停留中の自船を避けてゆくものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、西本丸が避航動作をとらないまま自船に向かって接近する状況に気付かず、警告信号を行うことも、機関を使用するなどして衝突を避けるための措置もとらないまま停留を続けて、西本丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:30KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION