(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年2月24日06時50分
神戸港第1区
2 船舶の要目
船種船名 |
押船弥栄丸 |
はしけ第5わこう |
総トン数 |
19トン |
600.00トン |
全長 |
16.30メートル |
43.60メートル |
幅 |
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13.00メートル |
深さ |
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3.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
1,117キロワット |
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船種船名 |
漁船博宝丸 |
総トン数 |
1.2トン |
登録長 |
7.65メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
26キロワット |
3 事実の経過
弥栄丸は、鋼製押船で、A受審人ほか3人が乗り組み、船首0.5メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、船首尾とも1.0メートルの等喫水となった空倉の非自航式鋼製はしけ第5わこう(以下「はしけ」という。)の船尾凹部に、船首を嵌合したのち、全長約55メートルの押船列(以下「弥栄丸押船列」という。)を形成し、建設資材等を載せる目的で、平成11年2月24日06時40分神戸港第1区新川口左岸の船着場を発し、大阪港に向かった。
A受審人は、はしけの船橋において、船橋当直に当たり、見習船長を補佐に就け、兵庫ふ頭の南側を東行したのち、06時47分半神戸港第1防波堤西灯台(以下「第1防波堤西灯台」という。)から338度(真方位、以下同じ。)840メートルの地点において、針路を神戸港第2航路防波堤出入口付近に向かう103度に定め、機関を半速力前進にかけ、7.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、手動操舵により進行した。
定針時、A受審人は、左舷船首47度940メートルのところに、前路を右方に横切る博宝丸を初めて視認し、間もなく同船が衝突のおそれがある態勢で接近することを知ったが、博宝丸が避けてくれるものと思い、速やかに同船に対して警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき、直ちに行きあしを停止するなど、衝突を避けるための協力動作をとることもしないで続航した。
こうして、A受審人は、博宝丸の避航を期待しているうち、06時49分半同船が190メートルに迫ったとき、ようやく衝突の危険を感じ、汽笛を数回吹鳴しながら右舵一杯を取り、機関を後進にかけたが及ばず、06時50分第1防波堤西灯台から022度680メートルの地点において、弥栄丸押船列は、原針路のまま、約4ノットの速力となったとき、はしけの左舷船首部に博宝丸の右舷船首部が後方から77度の角度で衝突した。
当時、天候は雨で、風はなく、視界は良好であった。
また、博宝丸は、刺網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、船首0.10メートル船尾0.15メートルの喫水をもって、同日00時00分神戸港第4区妙法寺川口右岸の船着場を発し、兵庫県尼崎西宮芦屋港南沖合1海里付近の漁場に至って操業し、すずきなど50キログラムの漁獲を得たのち、05時00分同漁場を発進し、神戸港内経由で帰途についた。
B受審人は、06時44分半神戸大橋橋梁灯(C2灯)から220度640メートルの地点において、針路を神戸港第1航路防波堤出入口付近に向かう201度に定め、機関を全速力前進にかけ、9.0ノットの速力で、手動操舵により進行した。
06時47分半B受審人は、第1防波堤西灯台から021度1,370メートルの地点に達したとき、右舷船首35度940メートルのところに、前路を左方に横切る弥栄丸押船列を視認し得る状況にあったが、左舷船首方で曳航準備作業中などのはしけや曳船に気を取られ、同押船列を見落とさないよう、右舷方の見張りを十分に行わなかったので、弥栄丸押船列の存在に気付かなかった。
B受審人は、その後依然見張り不十分で、弥栄丸押船列が衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、同押船列の進路を避けないまま続航し、06時50分少し前右舷船首方に汽笛音を聞き、弥栄丸押船列を右舷至近に初めて認め、左舵一杯を取ったが間に合わず、博宝丸は、船首を180度に向けて、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、はしけは左舷船首部に擦過傷を生じ、博宝丸は、右舷船首防舷材に亀裂を、右舷後部外板及び操舵室にそれぞれ破損を生じ、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、神戸港第1区において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、博宝丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る弥栄丸押船列の進路を避けなかったことによって発生したが、弥栄丸押船列が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、単独で乗り組んで操船に当たり、神戸港第1区において、神戸港第1航路防波堤出入口付近に向かって南下する場合、右舷方の兵庫ふ頭南側から東行してくる他船を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷船首方の曳船などに気を取られ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、弥栄丸押船列の存在とその接近模様に気付かず、同押船列の進路を避けないまま進行して衝突を招き、はしけの左舷船首部に擦過傷を、自船の右舷船首防舷材に亀裂を、右舷後部外板及び操舵室に破損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、単独で船橋当直に当たり、神戸港第1区において、神戸港第2航路防波堤出入口付近に向かって東行中、左舷船首方に博宝丸を認め、同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近することを知った場合、速やかに行きあしを停止するなど、衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、博宝丸が避けてくれるものと思い、衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、博宝丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。