(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年5月7日15時00分
兵庫県明石市南岸沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートパインロードI |
全長 |
7.81メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
154キロワット |
3 事実の経過
パインロードI(以下「パ号」という。)は、2基2軸のFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、同人の妻及び子供2人を乗せ、遊覧の目的で、船首0.1メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、平成12年5月7日08時00分大阪港堺泉北区の船着場を発し、兵庫県家島諸島男鹿島に向かい、同島北岸の船着場に寄せて休息したのち、13時15分同船着場を発進し、帰途についた。
A受審人は、南寄りの風波を避けて播磨灘北部沿岸を東行することとし、14時12分半上島灯台から180度(真方位、以下同じ。)1,900メートルの地点において、針路を090度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの東流に乗じ、12.5ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
ところで、播磨灘北部の明石市南岸沖合には、林崎漁業協同組合によるのり養殖施設(以下「林崎のり養殖施設」という。)が江井ケ島港西防波堤灯台(以下「江井ケ島灯台」という。)から101度270メートルの地点を基点として、基点から113度1,620メートル、128度3,550メートル、260度2,900メートル、282度2,950メートル及び029度3,100メートルの辺で囲まれる水域に設置され、同施設の縁辺には、黄色簡易標識灯が240メートル間隔で設けられていたものの、漁期の終了が間近いのでほとんどの養殖施設が取り外され、ところどころ残っているものに旗を付した竹竿が立ててあった。
A受審人は、播磨灘北部沿岸の航行経験が初めてで、発航に先立ち、船舶所有者に水路状況を尋ね、同沿岸沖合にはのり養殖施設などが存在することを知り、海図第1113号(播磨灘北部)と各定置漁業区域の概略の位置や範囲が記載されているヨット・モータボート用参考図(H−139)(以下「参考図」という。)を新規に購入して備えている状況下、南寄りの風波を避けて播磨灘北部沿岸を東行する航行計画を立てたが、さほど陸岸に接近しなければ大丈夫と思い、参考図を精査し、のり養殖施設の所在など、水路調査を十分に行わなかった。
14時53分わずか過ぎA受審人は、林崎のり養殖施設の存在模様に気付かず、江井ケ島灯台から261度2,350メートルの地点に達したとき、針路を明石海峡西口に向かう115度に転じ、同施設の西側に向首続航中、14時58分ごろ前方440ないし500メートルばかりに前示の簡易標識灯を認め、何の標識灯か思案するうち、パ号は、15時00分江井ケ島灯台から175度1,500メートルの地点において、原針路原速力のまま、同養殖施設に衝突した。
当時、天候は雨で風力4の南風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、1.7ノットの東流があった。
その結果、両舷機のプロペラに曲損を生じ、のり養殖施設はいかだの固定索に切断を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件のり養殖施設衝突は、兵庫県明石市南岸沖合を東行中、水路調査が不十分で、同沿岸に設置してある林崎のり養殖施設に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、兵庫県家島諸島男鹿島を発進し、南寄りの風波を避けて播磨灘北部沿岸を東行する航行計画を立てる場合、同沿岸の航行経験が初めてであったから、備えてある参考図を精査し、のり養殖施設の所在など、水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、さほど陸岸に接近しなければ大丈夫と思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、林崎のり養殖施設の存在模様に気付かないまま、同施設に向首進行して衝突し、両舷機のプロペラに曲損を生じさせ、のり養殖施設に損傷を与えるに至った。