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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成13年横審第19号
件名

貨物船しんせい貨物船美豊丸衝突事件
二審請求者〔理事官 関 隆彰〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年7月10日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(黒岩 貢、葉山忠雄、甲斐賢一郎)

理事官
関 隆彰

受審人
A 職名:しんせい船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:美豊丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
C 職名:美豊丸二等航海士 海技免状:五級海技士(航海)

損害
しんせい・・・船首部大破
美豊丸・・・左舷船尾部及び係船ウインチ大破、機関長が頸椎捻挫(加療2週間)

原因
しんせい・・・狭視界時の航法(信号・レーダー・速力)不遵守
美豊丸・・・狭視界時の航法(信号・レーダー・速力)不遵守

主文

 本件衝突は、しんせいが、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、美豊丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Cを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年6月21日06時45分
 三重県三木埼東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船しんせい 貨物船美豊丸
総トン数 499トン 498トン
全長   75.22メートル
登録長 72.35メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 735キロワット

3 事実の経過
 しんせいは、鋼材の輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか3人が乗り組み、鋼材約1,650トンを積載し、船首3.8メートル船尾4.7メートルの喫水をもって、平成12年6月20日17時00分東播磨港を発し、名古屋港に向かった。
 A受審人は、船橋当直を自らと一等航海士との2人による単独5時間交代制とし、翌21日02時59分樫野埼灯台から137度(真方位、以下同じ。)1.6海里の地点において一等航海士から当直を引き継ぎ、針路を047度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力で進行した。
 06時19分A受審人は、三木埼灯台から131度10.0海里の地点に至ったとき、急に視程が100メートルまで狭められて視界制限状態となったことから、自動吹鳴装置により霧中信号を開始したが、安全な速力としないで続航した。
 06時28分少し過ぎA受審人は、12海里レンジとしたレーダーにより右舷船首4度6.0海里に美豊丸の映像を初めて認め、念のため手動操舵としたものの、一べつしただけでこのままの針路でも右舷を対して航過すると判断し、その後方位に明確な変化がないまま、著しく接近することとなる状況となったが、速やかに大角度の右転をするなどこの事態を避けるための動作をとらないで進行した。
 06時39分半A受審人は、三木埼灯台から111度10.9海里の地点に達したとき、美豊丸の映像を同方位2.0海里に認めることができ、著しく接近することを避けることができない状況となったが、依然、右舷対右舷で航過するものと思い、レーダーによる動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減ずることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく続航した。
 06時45分少し前A受審人は、船首間近に霧の中から現れた美豊丸の船体を認め、直ちに機関停止、右舵一杯としたが及ばず、06時45分三木埼灯台から106度11.4海里の地点において、しんせいは、原針路、原速力のまま、その船首が、美豊丸の左舷船尾に前方から50度の角度で衝突した。
 当時、天候は霧で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の初期で、同日03時55分三重県南部区域に濃霧注意報が発表され、衝突地点付近の視程は100メートルであった。
 また、美豊丸は、鋼材の輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、B、C両受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首1.20メートル船尾3.40メートルの喫水をもって、同月20日09時00分千葉港を発し、徳島県橘港に向かった。
 B受審人は、船橋当直を自らと一等航海士及びC受審人による単独の3直4時間交代制とし、00時から04時及び12時から16時を一等航海士に、04時から08時及び16時から20時をC受審人にそれぞれ担当させ、8時から12時及び20時から00時を自らが入直して本州南岸を西行した。
 翌21日00時B受審人は、船橋当直を一等航海士に引き継いだが、その際、平素から船舶が輻輳(ふくそう)して不安を感じたときや、視程が0.5海里以下になったときは報告するよう指導していたことから、視界制限状態になれば報告があるものと思い、前示指導を再確認し、それを次直のC受審人に申し送りすることなど、視界制限時の報告について十分に指示しないまま降橋し、自室で休息した。
 03時50分C受審人は、大王埼沖合で一等航海士から当直を引き継ぎ、03時51分大王埼灯台から130度5.9海里の地点に達したとき、針路を235度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.5ノットの対地速力で進行した。
 06時26分C受審人は、三木埼灯台から095度13.8海里の地点に至ったとき、それまで3海里ばかりに見えていた視程が徐々に狭まり、まもなく視程100メートルの視界制限状態となったことを知ったが、行会い船が少なかったことから船長に報告せず、安全な速力に減ずることも霧中信号を行うこともせず続航した。
 06時28分少し過ぎC受審人は、左舷船首4度6.0海里にしんせいのレーダー映像を認めることができる状況となり、その後方位に明確な変化のないまま、著しく接近することとなる状況となったが、レーダーレンジを3海里としていたため同船の存在に気付かず、大角度の右転をするなどこの事態を避けるための動作をとらないで進行した。
 06時36分半C受審人は、三木埼灯台から100度12.4海里の地点に至り、レーダーで左舷船首4度3.0海里にしんせいの映像を初めて認めたが、一べつしただけで自船の船首方を右方に替わるものと思い、レーダーによる動静監視を十分に行っていなかったので、同時39分半三木埼灯台から102度12.1海里の地点に達したとき、しんせいの映像が同方位2.0海里となり、著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減ずることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく続航した。
 06時44分半C受審人は、左舷船首同方位300メートル余りに接近したしんせいのレーダー映像を認めてようやく衝突の危険を感じ、直ちに手動操舵に切り替えて右舵一杯、機関停止としたが及ばず、美豊丸は、原速力のまま277度を向首したとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、しんせいは船首部を、美豊丸は左舷船尾部及び係船ウインチをそれぞれ大破したが、のちいずれも修理され、美豊丸機関長佐々木稔が2週間の加療を要する頚椎捻挫を負った。

(原因)
 本件衝突は、両船が、霧により視界制限状態となった三重県三木埼東方沖合を航行中、東行するしんせいが、安全な速力に減じず、レーダーにより前路に認めた美豊丸と著しく接近することとなる状況となった際、大角度の右転をするなどこの事態を避けるための動作をとらず、その後レーダーによる監視不十分で、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、西行する美豊丸が、安全な速力に減ずることも霧中信号を行うこともせず、しんせいと著しく接近することとなる状況となった際、同船の存在に気付かないで大角度の右転をするなどこの事態を避けるための動作をとらず、その後レーダーにより前路に認めた同船に対し、動静監視不十分で、著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最少限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。
 美豊丸の運航が適切でなかったのは、船長の船橋当直者に対する視界制限時の報告についての指示が十分でなかったことと、船橋当直者の視界制限時の報告及び措置が適切でなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、視界制限状態となった三重県三木埼東方沖合を東行中、前路に美豊丸のレーダー映像を認めた場合、著しく接近することを避けることができない状況となるかどうか判断できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷対右舷で航過するものと思い、レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減ずることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく進行して美豊丸との衝突を招き、自船の船首部及び美豊丸の左舷船尾部及び係船ウインチをそれぞれ大破させるとともに、同船のD機関長に頚椎捻挫を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、船橋当直を引き継ぐ場合、次直者に対し視界制限状態となったら船長に報告することを再確認し、それを次直者にも申し送りするよう伝えるなど、視界制限時の報告について十分に指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、平素から視界制限時の報告について指導していることから何かあれば報告があるものと思い、視界制限時の報告について十分に指示しなかった職務上の過失により、視界制限時に自ら操船の指揮をとることができず、しんせいとの衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、D機関長を負傷させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、視界制限状態となった三重県三木埼東方沖合を西行中、前路にしんせいのレーダー映像を認めた場合、著しく接近することを避けることができない状況となるかどうか判断できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、レーダー映像を一べつしただけで、しんせいが自船の船首方を右方に替わるものと思い、レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減ずることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく進行してしんせいとの衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、D機関長を負傷させるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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