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平成13年仙審第20号
件名

遊漁船治宝丸プレジャーボートマルイチ衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年7月31日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(東 晴二)

副理事官
宮川尚一

受審人
A 職名:治宝丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:マルイチ船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
治宝丸・・・船首部に擦過傷
マルイチ・・・中央部左舷側外板に亀裂等

原因
治宝丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
マルイチ・・・警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、治宝丸が、見張り不十分で、停留中のマルイチを避けなかったことによって発生したが、マルイチが、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成10年8月23日11時30分
 山形県由良漁港北方沖合

2 船舶の要目
船種船名 遊漁船治宝丸 プレジャーボートマルイチ
総トン数 2.60トン  
全長   7.07メートル
登録長 7.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 153キロワット 84キロワット

3 事実の経過
 治宝丸は、漁船兼用のFRP製遊漁船で、A受審人が1人で乗り組み、釣り客7人を乗せ、船首、船尾ともに0.45メートルの等喫水をもって、平成10年8月23日05時30分同業船約10隻とともに山形県鶴岡市由良漁港を発し、同漁港北方約1.5海里の釣り場で停留し、その後同釣り場の西南西方約1.7海里の釣り場に移動し、11時20分再び最初の釣り場に戻った。
 11時25分A受審人は、GPSプロッターに記してある釣りポイント付近に至り、機関を微速力前進とし、操舵室すぐ後ろの甲板上少し左舷寄りのところに立ち、遠隔操舵装置により操舵し、操舵室内の魚群探知機を監視することによる同ポイント付近における魚群探索を開始し、このとき付近に同業船1隻を認めていたが、停留しているマルイチを見落とし、その後適宜針路を変えながら、1.5ノットの対地速力で進行した。
 11時28分A受審人は、針路をほぼ000度(真方位、以下同じ。)に定めたとき、マルイチを正船首100メートルのところに見るようになったが、付近にいるのは同業船1隻だけでその他はいないと思い、魚群探索に専念し、前方を見通すことのできない操舵室後ろの甲板上少し左舷寄りの位置から移動して前路を確かめるなどせず、前路の見張りを十分に行わなかったので、マルイチに気付かず、その後同船に衝突のおそれがある態勢で接近したが、同船を避けないまま、ほぼ同じ針路、速力で魚群探索を続け、同時30分わずか前船首甲板上の釣り客の危ないという声で前路を確かめたとき、船首至近に初めてマルイチを認め、機関を後進としたが、11時30分由良港西防波堤灯台から000度1.4海里の地点において、治宝丸は、その船首がマルイチの左舷中央部に前方から45度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
 また、マルイチは、FRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、有限会社Kの従業員3人を乗せ、船首0.80メートル、船尾1.00メートルの喫水をもって、同日10時00分由良漁港を発し、同時10分同漁港北方約1.5海里の釣り場に至り、オレンジ色のプラスチック製ブイを取り付けたパラシュート型シーアンカーを投じ、アンカーロープを約12メートル延ばし、停留した。
 B受審人は、従業員とともに釣りを始め、その後2回ほどシーアンカーを揚げて潮昇りを繰り返し、11時20分潮昇りののち前示の衝突地点付近で機関を停止し、同様にシーアンカーを投じて釣りを続けた。
 11時28分B受審人は、船尾部で釣り、船首が225度に向いているとき、左舷船首45度100メートルのところに、自船に向かって低速力で近付く治宝丸を初めて認め、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近したが、やがて停止するか、あるいは自船を避けていくと思い、警告信号を行うことも、更に接近したときその前路から退避するなど衝突を避けるための措置をとらないでいるうち、至近距離となって危険を感じ、同船に向かって停止するよう叫んだが、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、治宝丸は船首部に擦過傷を生じ、マルイチは中央部左舷側外板に亀裂及び操舵室左舷側手すりに曲損を生じ、のち修理された。

(原因)
 本件衝突は、山形県由良漁港北方沖合において、治宝丸が、魚群探索のため低速力で進行中、前路の見張りが不十分で、停留中のマルイチを避けなかったことによって発生したが、マルイチが、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、低速力で進行しながら魚群探知機を監視する場合、前路で停留中のマルイチを見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、付近にいるのは同業船1隻だけでその他はいないと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、マルイチの存在に気付かないまま進行して衝突を招き、治宝丸の船首部に擦過傷を生じさせ、マルイチの中央部左舷側外板に亀裂及び操舵室左舷側手すりに曲損を生じさせた。
 B受審人は、停留して釣りを行い、衝突のおそれがある態勢で接近する治宝丸を認めた場合、警告信号を行うべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、治宝丸がやがて停止するか、あるいは自船を避けていくと思い、警告信号を行わなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせた。


参考図
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