(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年10月4日23時30分
岩手県綾里埼東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三十三伊東丸 |
漁船日吉丸 |
総トン数 |
315トン |
306トン |
全長 |
58.60メートル |
60.06メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,154キロワット |
1,147キロワット |
3 事実の経過
第三十三伊東丸(以下「伊東丸」という。)は、大中型まき網船団に所属する鋼製運搬船で、A受審人ほか7人が乗り組み、操業の目的で、船首2.5メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、平成11年10月4日16時00分岩手県大船渡港を発し、僚船とともに同県綾里埼南東方沖合5海里ばかりの漁場に至り、操業を開始した。
A受審人は、最初の操業で漁獲したさば約26トンを網船から積み込んだのち、他の漁場を探索するため、23時22分綾里埼灯台から109度(真方位、以下同じ。)5.6海里の地点において、針路を030度に定め、機関を微速力前進にかけて発進し、航行中の動力船の灯火を表示するとともに操業後の後片付けを乗組員に行わせるため作業灯を点灯し、操舵を手動として10.0ノットの対地速力で進行した。
A受審人は、1人で操舵操船に当たり、23時28分綾里埼灯台から099度6.1海里の地点に達したとき、後片付けが終了したので作業灯を消灯し、機関を半速力前進に上げ、14.0ノットの対地速力で続航した。
A受審人は、作業灯を消灯してすぐの23時28分わずか過ぎ左舷船首19度800メートルのところに日吉丸の白、白、緑3灯を初めて視認し、0.5海里レンジとしたレーダー画面にもその映像を認め、その後同船の方位が変わらず、衝突のおそれのある態勢で互いに接近したが、警告信号を行わないまま進行した。
A受審人は、23時29分半日吉丸が左舷船首200メートルに接近するのを認めたが、自船が保持船なので日吉丸が自船を避けてくれるものと思い、速やかに右転するなど衝突を避けるための協力動作をとらないまま続航し、同時30分少し前日吉丸が左舷船首至近に迫ったとき、衝突の危険を感じて右舵一杯、機関を停止したが、23時30分綾里埼灯台から095度6.1海里の地点において、伊東丸は、船首が080度を向いたとき、ほぼ原速力のままで、その左舷後部に日吉丸の右舷船首が後方から30度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の北北西風が吹き、視界は良好であった。
また、日吉丸は、大中型まき網船団に所属する鋼製運搬船で、B受審人ほか8人が乗り組み、操業の目的で、船首3.1メートル船尾4.5メートルの喫水をもって、同日11時00分青森県八戸港を発し、単独で綾里埼東方沖合の漁場に向かった。
B受審人は、19時00分ごろ綾里埼の北東方13海里ばかりのところで昇橋して魚群の探索を開始し、航行中の動力船の灯火を表示して、同じころ昇橋した通信長とともに南下しながら探索を続け、同埼の南方8海里ばかりのところで反転して北上し、23時17分綾里埼灯台から092度5.2海里の地点に達したとき、針路を110度に定め、機関を微速力前進にかけ、手動操舵によって4.5ノットの対地速力で進行した。
B受審人は、23時27分半綾里埼灯台から094.5度6.0海里の地点で、通信長の報告により右舷船首80度1,000メートルのところに伊東丸の白、白、紅3灯を初めて視認するとともに0.5海里レンジとしたレーダー画面に同船の映像を認め、同時28分わずか過ぎ伊東丸が右舷船首81度800メートルとなり、その後その方位が変わらず、衝突のおそれのある態勢で互いに接近する状況であったが、伊東丸を初認したとき一瞥して速力が速いので、いずれ同船が自船の前路を左方に替わっていくものと思い、ソナーの監視に専念していて、伊東丸に対する動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かなかった。
B受審人は、こうして伊東丸の進路を避けないまま続航中、23時30分わずか前右舷船首至近に同船を認め、右舵20度をとり、可変ピッチプロペラの翼角を後進としたが、ほぼ同じ針路、速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、伊東丸は左舷後部外板に凹損及び同部ハンドレールに曲損等を生じ、日吉丸は右舷船首外板及びバルバスバウに凹損を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、岩手県綾里埼東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、日吉丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る伊東丸の進路を避けなかったことによって発生したが、伊東丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、岩手県綾里埼東方沖合において、まき網漁業に従事して魚群探索中、右舷前方に前路を左方に横切る態勢の伊東丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、レーダーを監視するなど同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一瞥して伊東丸の速力が速いので、いずれ同船が自船の前路を左方に替わっていくものと思い、魚群の探索に専念して、同船の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、伊東丸と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、伊東丸の左舷後部外板に凹損及び同部ハンドレールに曲損等を生じさせ、日吉丸の右舷船首外板及びバルバスバウに凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、岩手県綾里埼東方沖合において、まき網漁業に従事して魚群探索中、左舷前方の日吉丸が前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢のまま、自船の進路を避けずに間近に接近するのを認めた場合、速やかに右転するなど衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船が保持船なので日吉丸が自船の進路を避けてくれるものと思い、衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、そのまま進行して日吉丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。