(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年6月20日09時23分
青森県野辺地港北東方
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船清風丸 |
漁船秀洋丸 |
総トン数 |
4.88トン |
4.0トン |
全長 |
13.60メートル |
13.80メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
25キロワット |
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漁船法馬力数 |
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70 |
3 事実の経過
清風丸は、ほたて貝養殖漁業に従事するFRP製漁船で、受審人Aほか甲板員1人が乗り組み、船首0.55メートル、船尾1.20メートルの喫水をもって、平成12年6月20日04時30分青森県野辺地港を出港し、同港北東方のほたて貝養殖漁区に着いて待機したのち、05時00分同業船約40隻とともにほたて貝の漁獲作業を開始した。
ところで、青森県の野辺地町漁業協同組合は、所属組合員の労働力の提供を受け、所有漁船を借りてその賃金、費用を支払うという形で放流方式によるほたて貝養殖事業を行っていたところ、ほたて貝養殖漁区を野辺地漁港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)付近から有戸川河口にかけての海岸に沿うように長さ約7.5キロメートル、海岸から0.5ないし2.0キロメートルの範囲に設定していた。
A受審人は、個人としてほたて貝養殖棚を所有していたが、このとき従事したのは野辺地町漁業協同組合の漁区におけるほたて貝の漁獲作業で、その作業はほたてチェーン曳き網(ひきあみ)と称する漁具を使用する底引き網漁法の一形式で行うものであった。
なお、清風丸は、以前遊漁船業に従事しているときに汽笛装置を備えていたが、その後は備えないままであった。
09時05分A受審人は、北防波堤灯台から038度(真方位、以下同じ。)4,100メートルの地点で、海岸に向けて7回目の曳網(えいもう)を開始し、同時18分北防波堤灯台から045度4,050メートルの地点で、曳網及び漁具の収納を終え、定められた漁獲上限のほたて貝約500キログラムを捕ったとき、機関を中立運転として停留し、選別などの作業に取り掛かった。
A受審人は、甲板員が選別したほたて貝を船首甲板に運んだり、箱に詰めたりし、09時20分090度に向いているとき、左舷船尾45度460メートルのところにいた同業船秀洋丸が自船に向かって発進し、その後衝突のおそれがある態勢で接近したが、作業に専念し、周囲の見張りを十分に行わなかったので、同船に気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行わないまま、また更に接近しても同船の前路から退避するなどの衝突を避けるための措置をとらないまま前部甲板で作業中、09時23分北防波堤灯台から045度4,050メートルの地点において、秀洋丸の船首が、090度に向首している清風丸の左舷船尾部に後方から約45度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期であった。
A受審人は、自力で野辺地港に帰り、甲板員を救急車で公立野辺地病院に運んだ。
また、秀洋丸は、ほたて貝養殖漁業に従事するFRP製漁船で、受審人Bほか甲板員1人が乗り組み、船首0.45メートル、船尾1.30メートルの喫水をもって、同日04時30分野辺地港の東側に隣接する野辺地漁港を出港し、前示ほたて貝養殖漁区に着いて待機したのち、05時00分ほたて貝の漁獲作業を開始した。
09時20分B受審人は、北防波堤灯台から038度4,100メートルの地点で、5回目の曳網及び漁具の収納を終え、定められた漁獲上限のほたて貝約500キログラムを捕ったので、選別、箱詰めなどの作業を漁区外で行うこととして同地点を発進し、針路を海岸線にほぼ直角となる135度に定め、機関を微速力前進にかけ、船体中央部の後壁を設けていない操舵室の右舷後方に位置し、舵輪により操舵し、5.0ノットの対地速力で進行した。
発進時B受審人は、前方を確かめたとき、船首方460メートルのところに停留している清風丸を見落とし、前路に他船はいないと思い、その後清風丸に衝突のおそれがある態勢で接近したが、やや高い船首のため正船首方から左方が見えにくい操舵室の右舷後方に位置したまま、操舵室後部中央の高さ約30センチメートルの見張り用踏み台に上がって前方を確かめるなどの前路の十分な見張りを行わなかったので、同船に気付かず、同船を避けないまま続航し、09時23分少し前船首至近に清風丸を認め、右舵一杯としたが、間に合わず、同一の針路、速力で前示のとおり衝突した。
衝突の結果、清風丸は左舷船尾部外板を損傷し、のち修理され、秀洋丸は船首部外板に擦過傷を生じ、清風丸甲板員吹越榮子が4週間の加療を要する右肩甲骨骨折を負った。
(原因)
本件衝突は、青森県野辺地港北東方の放流方式によるほたて貝養殖漁区において、秀洋丸が、漁獲の選別、箱詰めなどを行うため、海岸近くの漁区外に向かって進行中、前路の見張りが不十分で、停留中の清風丸に衝突のおそれがある態勢で接近し、同船を避けなかったことによって発生したが、清風丸が、周囲の見張りが不十分で、接近する秀洋丸に対して有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、漁獲の選別、箱詰めなどを行うため、海岸近くのほたて貝養殖漁区外に向かって進行する場合、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、発進時前方を確かめたとき前方で停留している清風丸を見落としたことから、前路に他船はいないと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、停留中の清風丸に向かって衝突のおそれがある態勢で進行したが、同船に気付かず、同船を避けないまま接近して衝突を招き、清風丸の船尾部左舷外板を損傷させ、秀洋丸の船首部外板に擦過傷を生じさせ、清風丸のC甲板員が右肩甲骨骨折を負うという事態を生じさせた。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
A受審人は、海岸近くのほたて貝養殖漁区境界線付近で漁獲したほたて貝の選別、箱詰めなどの作業を行うため、停留する場合、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、停留しているので接近する他船は自船を避けると思い、作業に専念し、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する秀洋丸に気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行わないまま、また衝突を避けるための措置をとらないまま作業を続けて衝突を招き、両船に前示損傷を生じさせ、自船のC甲板員が前示骨折を負うという事態を生じさせた。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。